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辻村深月「傲慢と善良」感想。縁結び・夫婦円満にご利益てきめんの一冊。

評価:★★★★★

 婚活に、傲慢さが障害になることの方は身をもってよくわかっていた。けれど、美徳であるはずの善良さがそうなるのは、あまりにもいたたまれない。
 やりきれない話だ、と架は思う。

(本文引用)
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 婚活中の人は必読。

 本当に幸せな結婚とは何か。
 本当に幸せになれるパートナーとは、どんな相手か。
 そして本当に幸せな人生とは、どんな人生か。

 本書を読むと、「結婚」というシステムを通し「幸せの定義」が見えてくる。

 今年こそ幸せになりたい!
 そう願うなら、本書を読んでから動くのが吉だ。
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■「傲慢と善良」あらすじ



 西澤架は38歳。
 学歴も見た目も申し分なく、彼女が途切れたことがない。
 しかしなかなか結婚できず、必死に婚活。
 そこで出会ったのが、坂庭真実だった。

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 二人は婚約し式場も予約。
 順調な新婚生活を送る予定だったが、ある日突然、真実が失踪する。

 真実から「ストーカーに追われている」と聞いていた架は、真実の男性関係を洗う。
 しかし過去も現在もやましいものは何も出てこない。
 真実はどこまでも善良で純粋な女性だったのだ。

 だが、その善良さこそが、失踪の原因だったのだ。
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■「傲慢と善良」感想



 本書には、タイトル通りの人物が何人も登場する。
 傲慢と善良を持ち合わせた人間だ。

 真実の両親、真実の故郷にいる一部の人物、そして真実と架自身。

 彼らは日常生活では、おそらく何のトラブルも起こさない「善良」な人間だ。

 しかし善良は時おり牙をむく-その牙がいかに恐ろしいかを、本書は容赦なく描いていくのだ。

 善良がむく牙が恐ろしいのは、本人が「牙をむいている」と自覚していないからだ。

 たとえば「正論」を言われて、恐ろしく腹が立ったことや、傷ついて泣いてしまったことがないだろうか。

 正論を言ってる側は、あくまで「善良」なつもりで言っている。
 しかしその裏にある心理は、あきれるほど「傲慢」なもの。
 正論を言われた側は、その傲慢さに気づいてしまうから、激しく傷つき憤るのだ。

 だが、言った方は気づかず「善良」の斧を振り回しつづける。
 その結果、「本当に善良な人間」が滅多打ちにされる。
 
 本書は、「婚活」という「人間がむき出しになる経緯」を通して、その理不尽さを「これでもか」を描いている。
 途中、あまりにも残酷で読むのをやめようかと思うほどだった。

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 それだけにラストには、心底ホッ。
 「もしや・・・」「ええっ!?」と最後の最後までハラハラしたが、さすが辻村深月さん、地獄からよくここまでハートフルなラストにしてくれたものだ、と感動した。

 本当に幸せになるために、本当に幸せな結婚をするために、最も必要なものは何か。

 それはきっと傲慢さを伴わない、善良さ。
 さらに相手の善良さを嘲笑せず、そのまま受け止める善良さ。

 善良の数珠つなぎができた瞬間、人と人は結ばれる。

 それを知るだけで、幸せに大きな一歩を踏みだせる。

 だから本書は、婚活中の人におすすめだ。

 いや、婚活中の人だけではない。
 
 既婚でも、今のパートナーとより幸せになるためのエッセンスが、本書には詰まっている。

 実際私は、本書を読む前と読んだ後とでは、夫への向き合い方が変わった。

 そしてその変化はきっと、より充実した人生に結びつくと信じている。

 辻村深月さん、そして架くんと真実ちゃん、幸せの特効薬を教えてくれてありがとう。

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辻村深月「家族シアター」。家族の問題でお悩みの方は必読です。

評価:★★★★★

あの子たちのこどなどどうでもいいし、今、実音のために、相手に怒鳴り込めと言われたら、そうしたって構わない。
 この世の中で、せめて家族くらいは、そう思ったっていいだろう。
 「おじいちゃんは、あの子たちが嫌いだ」

(本文引用)
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 「非行は、家族より友だちを優先してしまうことから始まる」-そう聞いたことがあります。

 家族より友だちを優先したあまり、万引きの指示を断れなかったり、夜間に子どもだけで外出してしまったり・・・。

 もちろん誰でも、親より友だちを優先し、ちょっと危ないことをしてしまったり羽目を外してしまったりすることがあるでしょう。

 でも「家族を思う気持ち」が1ミリでも勝っていれば、取り返しのつかないことにはならない。
 家族のうちひとりでも「自分の味方になってくれる」とわかれば、必ず幸せになれる。

 本書を読み、その信念が確固としたものになりました。


 
 辻村深月さんの「家族シアター」は、「家族」の問題でお悩みの方におすすめの一冊。

 今、思春期や反抗期のお子さんに悩んでいたり、兄弟姉妹、親戚同士で何かモヤモヤがある人には、ぜひ手に取ってほしい短編集です。 
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■「家族シアター」あらすじ



 本書は7編からなる短編集。
 第1話「『妹』という祝福」は、ある姉妹の物語です。

 亜季には、真面目で頭のよい姉がいます。
 姉は中学校では、暗くて地味なグループに。
 亜季はそんな姉を恥ずかしく思い、その反動でオシャレに必死。

 顔は姉にそっくりなのに、メイクやファッションで「可愛い華やかな子」として学校生活を送ります。

 その努力の甲斐あり、亜季に彼氏ができます。
 彼は背の高いスポーツマンで、女子に人気の生徒。

 亜季は有頂天になり、彼氏もいない姉をいっそう軽蔑。

 しかしその裏で、姉はあることと闘っていました。

 そして亜季は動きます。

 いちばん大切なものを守ろうと・・・。

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■「家族シアター」感想



 「家族シアター」に登場する物語は、全て同じコンセプト。
 
 「最終的に、私は、俺は、家族を守る」ということです。

 兄嫁の顔色をうかがいながら娘と接していた女性、子どもの行事に何ら関心を抱かなかったパパ、おかしな干渉をしては、息子夫婦や孫娘にうるさがられるおじいちゃん・・・。

 皆、最初はやや頓珍漢な態度で家族と接します。

 でもラストで「本当に大切なもの」に気づいた瞬間、思わぬ力を発揮。
 
 なかでも面白いのが「タイムカプセルの八年」。

 ある男性は、子育てに関してかなり鈍感。
 
 「小学生の息子の運動会に父親も行く」ということもわかっておらず、妻と子どもが家を出る頃にようやく起床。
 さらに息子の夢を打ち砕くような発言を連発。

 妻にも息子にもそっぽを向かれてしまいます。

 そんな彼は、息子たちが埋めたタイムカプセルについて、ある疑問を抱きます。

 タイムカプセルの行方、息子の夢、保護者たちの声・・・そこから徐々に見えてきた意外な真相とは?

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 この「タイムカプセルの八年」は、ラストの爽快感が最高。
 「お父さん、やるう!」と、物語の中に飛び込んでハイタッチをしたくなります。

 世の奥さんは、旦那さんの育児について「・・・えっ?」とか「そうじゃな~い!」と言いたくなる場面も多いと思います。
 
 でも心の底に家族への愛があれば、多少トンチンカンでも、最終的には必ず家族を守ってくれる・・・そう確信できる素敵な物語です。(なので、旦那さんの「そうじゃない」行動にも、今しばらく目をつぶりましょう・・・。)

 第3話「私のディアマンテ」もおすすめ。

 派手好きな義姉とはりあおうと、娘の進路を誘導する女性。
 しかしある日、義姉がとっていたとんでもない行動が発覚。
 
 女性は、今まで小さくなっていた態度をガラリと変え、娘を守ります。

 人間、自分のディアマンテ(ダイヤモンド)がわかると、何百倍、何千倍ものパワーがドカーンと出てくるんですね。
 
 「愛だろ、愛」としか言いようのない彼ら、彼女たちの行動には、思わず「スカッとスカッと!」とボタンを連打しちゃいました。

 私もつい、家族の気持ちより世間体を優先しそうになることがあります。

 でも本書を読んだら、家族と正面から向き合わないといけないなと痛感。
 正面から向き合う勇気を持たないと、どんどん家族という港から、自分という船は離れていってしまい、取り戻せなくなるんだろうな・・・と少しゾッとしました。

 だから「家族シアター」は、私にとってウンと大切にしたい一冊。
 時々読み返しては、「今、私は家族と向き合えてるか」を自分に問いかけていこうと思います。

 何年も、何十年も。

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辻村深月最新刊「青空と逃げる」。辻村さん、本屋大賞受賞、おめでとうございます!

評価:★★★★★

生きて、逃げてるってことならよかったよ。
(本文引用)
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 2018年の本屋大賞に、辻村深月さんの「かがみの孤城」が選ばれました!(レビューはこちら

 私にとって辻村深月さんは、「新刊が出たら必ず買う作家」の一人。
 
 辻村さんの本って、出版されるごとに良くなっていくんですよ。

 「前回は良かったけど、今回はいまいち」というのがない。
 「前回も良かったけど、今回はさらに良かった」という本ばかりです。
 だからお金を出すのは惜しくないです。


 
 辻村深月さんの最新刊「青空と逃げる」も、安定の「前回より良かった」小説。

 個人的に好きなのは「東京會舘とわたし」なのですが、話の深みや構成の巧みさという点では、「東京會舘~」よりも「かがみの孤城」よりも、「青空と逃げる」のほうが上回っています。 
 「青空と逃げる」を読み終えた今、すでに次作が楽しみです。

 でもここではとりあえず、「青空と逃げる」の感想を書きますね。
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■「青空と逃げる」あらすじ



 本条早苗は、元舞台女優の主婦。
 小5の息子・力がいます。
 
 二人は夏休みの間、東京から四国~九州を廻っています。

 それは旅行ではなく「逃亡」。

 早苗の夫・拳が、大物女優と一緒に交通故事に遭遇。
 相手女優にも家族がいたことから「W不倫」と書き立てられ、早苗一家はマスコミや芸能事務所に追いかけられます。

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 拳が入院先から失踪したことで、早苗と力が誹謗中傷の矢面の立たされることに。

 耐えられなくなった早苗は、力を連れて逃げることに・・・。

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■「青空と逃げる」感想



 「かがみの孤城」しかり、「青空と逃げる」しかり、辻村深月さんは「逃げることは恥ずかしいことではない」と伝えてくれます。

 地の果てまで逃げても、生きていればいい。
 逃げた先でつかめるものだって、たくさんある。

 辻村さんの本を読むと、「逃げることは全くマイナスではない」と心から思えます。

 本書では、早苗も力も逃亡先で様々な出逢いを経験します。

 別府で砂湯を楽しむお客さんに歌をうたったり、「逃げている」ことを知った人のさりげない配慮に感謝したり・・・。

 力も同様。
 自分と同じ厳しい立場に置かれた中学生や、事件の関係者である少年と交わることで、自分の意思を確立させていきます。

 早苗と力、二人の逃亡は「大きなマイナス」からスタートしました。
 でもいつしか二人は、逃亡するうちに「人生にとって大きなプラス」を得ているのです。

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 本書を読み、私は「逃亡」に対し、実に偏狭なイメージを持っていたことに気づきました。

 「逃亡」や「身を隠す」と聞くと、つい「真っ暗闇で何もない洞穴にいる」という絵が浮かびます。
 だから「逃亡」は、「悪いことではないかもしれないけど、何の解決にもプラスにもならない」と思っていました。

 でも本書を読み、完全に考えを改めました。
 逃げることは、逃げないよりも大きなプラスを得られることがあるんです。
 
 今現在、「ここから逃げてしまいたい」と悩んでいる人は、ぜひ「青空と逃げる」を読んでみてください。

 とにかく生きて、逃げる。
 そして自分一人だけで解決しようとせず、誰かに頼ってみる。

 「逃げる」勇気と「頼る」勇気、この二つをしっかり持っていれば、マイナスが大きなプラスに転じるかもしれません。

 ちなみに「青空と逃げる」は、さりげなくサスペンス要素も配合。
 「ずーっと気になっていた、あのこと」が、終盤でカレンダーがめくれるように明らかになっていきます。
 
 さすが、ミステリーも書いてきた辻村さんだけあります。
 
 辻村深月の最新刊「青空と逃げる」。
 現状から逃げたい、何とかしたいともがいている人は、一読の価値が十分ありますよ。

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辻村深月の最新刊「かがみの孤城」は、読書メーターや新聞書評でも高評価。いじめに悩んでいる人はぜひ読んでみて!

評価:★★★★★

  「自分は、みんなと同じになれない――、いつ、どうしてそうなったのかわかんないけど、失敗した子みたいに思えてたから」
(本文引用)
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 辻村深月さんの小説は、どんどん面白くなっていまね。面白さももちろん、ストーリーの厚みや凄みというものが加速度的に増しているように感じます。

 なので最近、辻村深月さんの新刊は必ず買うようにしています。

 「この作家は決して裏切らない!」
 
 と確信が持てるようになったので(上から目線ですみません)。
 私の中で辻村深月さんは、池井戸潤さん等と同じく「殿堂入り」です!



 そして最新刊「かがみの孤城」も、期待をはるかに上回る傑作。
 読書メーターでも非常に評価が高く、日経新聞書評欄でも満点の5つ星でした。

 そこまで評価が高い「かがみの孤城」とはいったいどんな物語なのか。
 それは、いじめに人生を殺されつつある少女の話でした。

 今現在、いじめで悩んでいる人や、そのご家族の方にはぜひ読んでいただきたい一冊です。
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 主人公の安西こころは、中学生になってからほとんど学校に行っていません。

 その理由は「いじめ」です。

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 いじめの主犯は、クラスのリーダー格の女子・真田美織。
 美織はある男子に思いを寄せますが、その男子が昔、こころを好きだったことが判明。

 美織はそれに憤慨し、取り巻きと一緒にこころを徹底的にいじめます。

 こころは、このままでは美織に殺されてしまうと思い、学校を休み、家にこもるようになります。

 そんなある日、こころの部屋にあるかがみが光り出します。
 こころが鏡に手を伸ばすと、そこにはもうひとつの世界が。

 こころはかがみに入り込み、同年代の子どもたちと出会います。

 実はそこにいる子どもたちも、こころと同じく学校に通えない子どもたちでした。

 こころはかがみの世界から出たり入ったりして過ごしますが、そのうち、驚きの事実が判明して・・・?
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 「かがみの孤城」の面白さは、「こっちの世界=現実」と「あちらの世界=かがみの向こう=幻想」とが見事に溶け合っている点です。

 実は私はファンタジー小説が非常に苦手で、ちょっとでも「ファンタジー」のニオイを感じると、読み続けることができなくなってしまいます。

 でも、この「かがみの孤城」は全く抵抗なく読み切ることができました。
 それは現実世界との融合が非常に自然で、しかも「幻想の世界」が、こころの悩みを解決するために必須であるととらえることができたからです。

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 現実世界では、こころの悲しみ、恐怖、絶望をわかってくれる人は、なかなか現れません。

 特に担任教師の対応はひどく、(呆)という言葉が頭上に浮かびまくるようなもの。
 読んでいるだけで、「誰か、他のまともな先生呼んできて!」と叫びたくなりました。

 そこでこころを救うのが、かがみの向こうの世界。
 それは、「こころが現実逃避をしているから」ではないですよ。

 これ以上書くとネタバレになってしまいますが、こころが向こうに行っているから救われているのではなく、幻想の世界の住人がこっちに来ているから救われているんです。

 この物語は確かにファンタジックです。
 でも「いじめ」の真の問題点、そして有効な解決策を、これ以上ないほど現実的に描いています

 幻想と現実がタッグを組んで、現実で苦しんでいる人を救い出す。
 これこそ、小説・物語が世の中に存在する意義です。

 辻村深月さんは、この「かがみの孤城」で、そんな「小説の到達点」に達したのではないでしょうか。
 フィクション、ファンタジーを通して、辻村深月さんは、今現在死ぬほど苦しんでいる若者たちを助けようとしたのではないか・・・本作からは、辻村さんのそんな使命感をヒシヒシと感じました。

 もし今、いじめに遭っていたり、周囲と溶け込めずに悩んでいたり、大人に相談しても虚しさを感じていたりしたら、ぜひ本書を読んでみてください。

 本当にかがみの向こうに行くことはできなくても、よくよく周りを見渡せば、かがみの向こうから来たサポーターがいるかもしれません。

 そんな人にもし出会えなくても大丈夫。

 この「かがみの孤城」そのものが、いじめに苦しむあなたの一番のサポーターになってくれますよ。

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「かがみの孤城」を読み、この絵本を思い出しました。
いじめがいかにひどく、許せないものであるか。
それを語りつくしている一冊です。↓

「東京會舘とわたし」辻村深月 感想

評価:★★★★★

 「帰ってきます、というその言葉通りになりましたね。――お帰りなさいませ。お待ちしておりました」
(本文引用)
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 2016年に読んだ小説で、ずばりNo.1!どうしてもっと早く読まなかったんだろう。
 
 雑誌「ダ・ヴィンチ」の「BOOK OF THE YEAR2016」でかなり上位に入っていたのだが、それも大いに納得。はっきり言って、もっと上でも良い。
 ああ、発売してすぐに読めばよかった。しかし、1年の最後にこの物語を読めて本当に良かった。気持ちよく年を越せそうだ。

 辻村深月先生、こんなに気持ちの良い涙をドバドバと流させてくれて、本当に本当にどうもありがとうございます!(この本でまた直木賞を獲ってほしいが、直木賞って二度は獲れないのだろうか?)
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 舞台は、東京・丸の内にある東京會舘。
 作家・小椋真護は、東京會舘社長と共に、東京會舘の窓から雪景色を眺める。

 そして、大正時代から続く東京會舘の歴史をたどっていく。
 関東大震災直前のクライスラーの演奏会、結婚式場が大政翼賛会の会議室となった日、太平洋戦争、それを乗り越えて一気に洋風文化が花開いた日々、大物スターのディナーショー、東日本大震災・・・。

 何度も「最後の日」を迎えながらも、一切手を抜かない心のこもったもてなしや美味しい食事は、訪れた人々に幸せな記憶を残し、人生を鮮やかに彩る。
 東京會舘は、そんな場所だった――。





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朝が来る  辻村深月

評価:★★★★★

永遠に明けないと思っていた夜が、今、明けた。
この子はうちに、朝を運んできた。

(本文引用)
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 「辻村深月の小説って、こんなに良かったっけ!?」
 失礼ながら、そんなことを思ってしまった。

 もちろん、今まで読んだ作品も面白かった。しかしこの小説は、もう今までの「若手作家・辻村深月」の作品ではない。辻村深月はきっと、三浦綾子のような歴史に名を遺す大作家になるだろう。いや、すでになっている!
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 佐都子には、6歳の息子・朝斗がいる。佐都子と朝斗に血のつながりはない。佐都子夫婦は妊娠が難しかったため、朝斗を養子に迎え、懸命にかわいがって育てている。



 しかしある日、その幸せな時間を打ち砕くように、佐都子の自宅にこんな電話が入る。 

「子どもを、返してほしいんです」

 電話の相手は、朝斗を産んだ女性・片倉ひかりだった。

 後日、佐都子はひかりを自宅に招き入れるが、佐都子には、彼女がどうしても朝斗の実母とは思えなかった。

 その1か月後、警察が佐都子宅を訪ねる。「片倉ひかり」という女性を、窃盗と横領の疑いで捜しているという――。

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島はぼくらと 辻村深月

 そうか、と気づく。“いってらっしゃい”は、言いっ放しの挨拶じゃない。必ず、言葉が返ってくる。
(本文引用)
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 「さよならは別れの言葉じゃなくて
  再び逢うまでの遠い約束」

 (来生たかお「夢の途中」)

 読み終えて、こんな懐かしい名曲を口ずさんでしまった。

 「さよなら」「元気でね」「また会う日まで」そして「いってらっしゃい」。
 そんな言葉が港で日々聞かれる、離島の物語「島はぼくらと」。

 これは、「別れは決して別れではない。離れている時間は、再会までのほんの夢の途中なんだ」・・・そんなことを信じさせてくれる、飛び切り爽やかな青春小説だ。


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 舞台は、瀬戸内海に浮かぶ小さな島・冴島。

 朱里、衣花、新、源樹は、この島から毎日フェリーで本土の高校に通う、仲良し4人組だ。
 高校卒業後は、本土の大学に進学したり島に残ったりと進路が分かれ、自ずと離れ離れになる運命にある。

 島には元からの住民だけではなく、本土からIターンで渡ってきた人や、地域活性化の支援を担うデザイナー等、様々な人間が住んでいる。本土から逃げるように移住してきたシングルマザーも多く、島の特産物を製造する会社は雇用の受け皿となっている。

 のんびりとした小さい離島でありながら、数々の先進的な試みをしていることからマスコミに注目される冴島だが、そこには大人達にしかわからない事情が複雑に絡み合っていた。

 島に伝わる“幻の脚本”、身元不詳のIターン青年、過去を捨て去った五輪メダリスト、全国ネットのテレビ取材、網元のお家事情、村長の裏の顔、島に医者がいない本当の理由、おばあちゃんが何十年と抱えてきた心のわだかまり・・・。

 4人の巣立ちまで、あと1年。
 彼らはこれらの問題と向き合いながら、別離の日をどう迎えるのか。
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 まず驚いたのは、1冊の単行本の中に「よくもまあこれだけ・・・」と驚くほど色々な出来事が詰め込まれていることだ。
 そしてさらに驚いたことは、どれも疎かにされることなく経緯が緻密に説明され、紆余曲折の曲線を描いた後、最後にはウルトラCのような着地をみる。
 しかもその途中、並々ならぬ悪意があちこちでうごめていたにも関わらず、気がつけば誰もが笑顔になっている。何だか魔法にかけられたみたいだ。

 しかしそんな数多くの出来事が散漫になっていないのは、「いつか必ず別れる」という緊張感が、物語の中心にピンッと張っているからだろう。

 なかでも印象的だったのが、冴島オリジナルの母子手帳のエピソード。
 本土のものと違い、日々の出来事や子供へのメッセージをビッシリと書き込めるデザインになっている。
 
 それは、誰もが皆「子供をいつか本土に渡らせる」ことを覚悟しているからだという。
 
 私自身にも幼児がいるせいかもしれないが、このくだりには泣いた。
 そりゃあ、誰だって子供と離れる時が来る。しかし、「そうなるかもしれない」というのと、生まれながらにして「そうなることが決まっている」というのとでは大きく違う。

 そんなカウントダウンを日々意識しながら、子供の成長を見守り続ける母親たち、そしてその母子手帳にありったけの気持ちをつづった「ある母親」の胸中を思うと、涙が止まらなくなってしまった。
 本書の底には、そんな緊迫感と寂しさが常に漂っている。

 しかし、それだからこそ得られる結束力もまた、本書の見どころ。
 そのひとつが、冴島の古くからの風習である「兄弟制度」。
 成人の男同士が兄弟の杯を交わすと、家族ぐるみで繋がり合うという風習だが、よそ者にとっては疎外感を感じるという諸刃の剣でもある。

 2歳で島に渡ってきたものの、島の生まれではない源樹もその一人。子供の頃から孤独を味わってきたが、ある日、朱里に「兄弟になろう!」と励まされる。
 この2人のあまりにも、あまりにも純粋すぎる恋模様には、もう言葉にならないほど胸がキューン。
 さらに、あの人とあの人も、え?ウソ!キャ~!・・・と、これは黙っておこう。

 そんな彼らだからこそ、別離の瞬間はやはり悲しいが、船を見送る言葉はいつも「いってらっしゃい」。
 もしかすると今生の別れかもしれないし、その可能性のほうが高いのに、彼らは「いつでも待ってるよ」の気持ちをこめて船を送り出す。
 その姿勢は、どこまでも清々しい。

 そしてラストでは、途轍もなく嬉しい「ただいま」のサプライズが。

 -私の人生も、これから多くの人と別れる時が来るだろう。多くの寂しさを味わうだろう。
 
 しかし、この本に出てくる人たちのように、思いっきり手を振って「いってらっしゃい」と送り出したい。
 「いつか逢える」、「もう逢えないかもしれない」、両方の気持ちをたっぷりと込めて。

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プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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