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朝井リョウ「死にがいを求めて生きているの」感想。子育てに悩みに悩んだ私を救ってくれた一冊。

評価:★★★★★

誰の目にも見える形で生きる意味を掲げていないと不安な人が、誰かを攻撃する理由を手に入れる――これが一番怖い」
(本文引用)
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 朝井リョウさんの小説には、いつも不思議なほど救われる。

 自分の悩みの病巣をズバリと言い当て、実によく効く軟膏をグイグイッと塗ってくれる。

 私にとって朝井リョウさんの本は、かかりつけの医師のようなものだ。

 最新刊「死にがいを求めて生きているの」は、私を育児ノイローゼから救ってくれた。

 「育児」と聞くと乳幼児みたいだが、わが家の子どもはもう10代。

 親への反抗がひどく(その後、謝ってはくるのだが)、心身共に疲弊する日々だった。


 しかしその疲弊やストレスは、1つのことに起因していた。

 それは「他の子との比較」だ。

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 習い事教室で上手にできる子、お弁当を持って素直に中学受験塾に行く子、運動神経の良い子、字の綺麗な子、聞き分けの良さそうな子・・・。

 どの子もわが子よりまぶしく見えて、「なんでうちの子は!」と比べては激しく落ち込んでいた。

 「比べてはいけない、比較は不幸の始まり」と自分にいくら言い聞かせても、なかなか「比較→落ち込み→イラ立ち」のループから逃れられなかったが・・・本書を読み、ようやくこの悪循環から抜け出せた。

 「大切なのは、その、人と競ったり対立する気持ちっていうのが、その人自身や他者を傷つけることに向かないことなのかなって」


 比較して落ち込むのは簡単。
 しかしその「簡単」に身を落とすことは、容易に人を傷つけ、自分をも傷つけることになる。

 本書と出会い、やっと「安易な比較で勝手に悩む」・・・そんな馬鹿馬鹿しい所業を断ち切ることができた。

 この本を読んでなかったら、いったいどうなっていただろう・・・。 
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■「死にがいを求めて生きているの」あらすじ



 本書は10編から成る連作短編。
 主人公は6人。
 登場人物は皆、ある2人の男性と関わりをもっている。

 一人は南水智也、もう一人は堀北雄介だ。
 
 智也と雄介は幼稚園からの幼なじみ。
 性格は正反対だが仲が良く、ともに頭も良いため、大学までほぼ同じ進路をたどる。

 しかし今、智也は病院のベッドの上。
 意識不明の状態で、眠り続けている。

 雄介は毎日欠かさず智也を見舞い、看護師たちの涙を誘う。
 
 だが二人の友情の裏には、古来から伝わる「ある神話」が。

 正反対の智也と雄介、二人を結びつけるのは友情なのか?それとも・・・?
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■「死にがいを求めて生きているの」感想



 先述したように、本書は「誰かと比べては落ち込んでしまう」人に全力でおすすめ。

 智也と雄介の成長にともない、周囲の環境・人物も変わって来るが、常に孤軍奮闘しているのは誰か。

 それは「勝手に自分を誰かと比べ、見えない敵に向かって拳を振り回す人」だ。

 たとえば印象的なのが、大学で社会活動をする章。

 ある問題について、本当に問題意識・疑問をもって活動するならいい。
 
 しかし中には、ただ自分の存在を誇示したいためだけに行なう人もいる。

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 本書の言葉を借りれば、目的と手段の逆転。

 「この問題を見過ごせないから、自分が旗手となって訴える」のではなく「自分が旗手となって訴えるものを探していたら、この問題を見つけた」というものだ。

 そんな人々のエネルギー源は、他人との比較。
 「自分が一番」「自分の方が優れている」と思い込みたくて、社会運動をし、結果、周囲には誰もいなくなる。

 そして 「もっとすごいと言われたい」と虚空に向けて拳を振り回し、他人も自分も大きく傷つけてしまうのだ。

 本書は全ストーリーを通じて、「何が何でも自分を一番にしたがること」「他人と比較して安心しようとすること」の虚しさを、容赦なくえぐり出す。
 
 しかし「容赦なくえぐり出す」ことで、本書は読む人を楽にしてくれる。

 「もう人と比べることなんて、ないんだな」と。

 ちなみにこの小説、BOC「螺旋」プロジェクトの一環だという。(「螺旋」プロジェクトのページはこちら

 古代から伝わる神話と、朝井リョウ作品なんて、一見つながらないように見える。
 だが本書を読むと、実にうまく「朝井リョウテイスト」に仕上がっており驚愕。

 日本武尊が目に浮かぶ要素を織り交ぜながら、しっかり「平成時代の心の病巣」を発見・治癒してくれる。

 やはり朝井リョウさんは平成作家の代表、スター作家だなぁ・・・としみじみ感じた。

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朝井リョウ「世にも奇妙な君物語」感想。ドラマ化しないと国家レベルの損失ですよ、これは!

評価:★★★★★

 超気持ちイイ!!!
 自分なりの“世にも奇妙な”物語を考えることが最大のストレス解消法となるまでに、そう時間はかからなかった。

(「著者あとがき」より)
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 面白い小説を読むと、必ず思うのが「ドラマ化希望」。

 なかでも「世にも奇妙な君物語」の「ドラマ化希望熱」は断トツ。
 
 はっきり言って、本書をドラマ化しないのは国家レベルの損失だと思う。
 「まさかドラマ化しないなんて言わないよね?ね?ね?ね?」と、「クレヨンしんちゃん」のねねちゃんバリに詰め寄りたくなる面白さだ。

 そうそう、ドラマ化するなら、第5話はぜひ原作通りに!
 ストーリーテラーは朝井リョウさんでも良いが、タモさんのほうがやっぱり「原作の不気味さ」は出るのかな。



 あーーーー、止まらない!妄想すると止まらない!!
 お願いだから、平成のうちにドラマ化してーーーー(大負けに負けて今年中でもよいです)!!

 人間の「裏アカ」を書かせたら、天下一品の朝井リョウさん。
 昭和から続く「世にも奇妙な物語」を、平成の作家が料理するとどうなるか。

 「世にも奇妙な物語」ファンはもちろん、どんでん返しやブラックユーモアが好きな人。
 そしてドラマ化された時に「私、この話知ってるよ~ん」と周囲に差をつけたい人に、心底おすすめの一冊だ。
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■「世にも奇妙な君物語」あらすじ



 フリーライター・浩子は、バーでひとり祝杯をあげていた。
 そこで泥酔した浩子は、真須美という女性に介抱される。

 泊まった先は、真須美たちのシェアハウス。

 シェアハウスについて書こうと思っていた浩子は、潜入取材よろしくシェアハウスの一員となる。

 しかし一緒に過ごすうちに、彼らの奇妙な行動が気になってきて・・・?

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■「世にも奇妙な君物語」感想



 本書は5編からなる短編集。

 朝井リョウ曰く

 “それぞれ異なった脚本家が一作ずつ担当するのではなく、五編すべてを一人が書く”という本家との違いを利用したからくりを思いついた。

 とのことだ。

 その「アッ!」と言いたくなるからくりは、最終話で明らかに。

 しかしそのからくり以前に、一話一話が非常に楽しめる。
 
 特に私が好きなのは「第3話 立て!金次郎」と4話「13・5文字しか集中して読めな」だ。

 幼稚園に勤める考次郎は、園の方針に疑問を感じている。
 園は「子ども1人ひとり全員に、必ず見せ場を作る」と言って譲らない。
 一方、考次郎は「目立つのが嫌いな子もいるはず」と主張し、子どもの個性に合わせた対応をしていく。

 考次郎は自分の信念に自信をもつが、時々それが揺らぎそうになる。

 その原因は、母親たちの態度。
 ボスママが最近、どうも自分に冷たい。
 ボスママの取り巻きママたちも同様だ。

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 ここはやはり園児1人ひとりに見せ場を作るべきなのか?
 
 しかし取り巻きママの息子は、どうしても目立ちたくないという。
 そこで考次郎が考えた苦肉の策とは?

 「立て! 金次郎」はどんでん返しが見もの。
 ハートウォーミングな笑顔の裏には、思わぬ策略が。
 
 でも「教育現場」を考えるうえで、こんなどんでん返しはあっていいかも。
 「親と教師が共に子育てをすること」について、今一度真剣に考えさせてくれる傑作だ。
 
 さすがに実行はできないけれど、ね・・・。

 そして第4話は、まさに「現代」を切り取った名作。
 「過激なタイトルによるアクセス稼ぎ」を風刺した、実に実に平成らしい物語だ。

 朝井リョウさんは直木賞受賞作「何者」といい、ネットを題材とした物語が本当~にうまい!
 しかもネットをテーマとした物語は薄っぺらくなりがちなのに、いつも深い。

 ネットやSNSに溺れた人間を、泥沼の底からズボウッと引き上げるような力強さがあり、しょっちゅう「ハッ」とさせられる。

 第4話を読み、改めて「朝井リョウという作家の登場は革命的だったのだな」と立ち尽くした。

 とにかく、今の私の願いは「世にも奇妙な君物語」をドラマ化してくれることだ。
 
 放送されたらツイッターが騒然となりそう。

 そしてその騒動をまた、朝井リョウさんが極上の物語に仕立ててくれるだろう。

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広瀬すず主演「チア☆ダン」が面白かったので「チア男子!!」も読んでみました。

評価:★★★★★

「男子が力でやってしまうことを、女子は努力で成功させる。それはつまり、男子が力に頼らないで努力を重ね続けたら、女子よりも美しいチアができるかもしれないってこと」
(本文引用)
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 先日、映画「チア☆ダン」を観ました。

 チアダンスの素人だった女子高生が、3年で全米制覇するという夢のような物語ですが、どうやら実話みたいですね。

 主演の広瀬すずさんはもちろん、中条あやみさん(可愛い方ですね~)や真剣佑くん、そして顧問の先生役の天海祐希さん等々みなさんとても魅力的で、全く飽きることなく最後まで楽しめました。

 でも、いちばんハマっていたのは広瀬すずちゃんの父親役のTKO・木下さんかも。
 これは映画を観ていただければ、必ず納得できると思います。ぜひご覧になってみてください。

 さてここで本題。

 「チア☆ダン」が非常に面白かったため、勢いで「チア男子!!」を買ってしまいました。 (※チアダンスとチアリーディングは若干異なりますが、そこはご容赦くださいませ。)
 朝井リョウさんの小説なので、嫌な気分になることはないだろうと思い読みましたが、やっぱり読んで良かった!

 ストレートで、ちょっとしたヒネリがあって、でも最終的には涙が出てしまう気分爽快な青春小説です。

 これから進級・進学など新たな出会いがある方にお薦めしたい一冊です。





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何様  朝井リョウ

評価:★★★★★

――――本当はなんて思ってるのか、聴かせて。どんな言葉でもいいから、誠実な言葉ならそれでいいから。
(本文引用)
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 直木賞受賞作「何者」のサイドストーリー。「何者」が非常に面白かったので読んでみたが、私としては本作のほうがずっと面白く、心打たれた。
 「何者」は読んでなくても、「何様」は読んでほしい。そう言って回りたいぐらい、心の底から「読んで良かった!」と思える小説だった。

 こんなことを言うのは、まさに「何様」という感じなのだが、朝井リョウさんは「何者」の頃に比べて、我々が思っている以上に作家として人間として成長したのだろう。そう考えると、「何者」で直木賞を獲ってしまったのがもったいないような気がしてくる。
 直木賞選考委員会の皆さま、「何様」への授与も検討していただけないだろうか。
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 本書は6篇からなる短編集。ラストの表題作に限らず、全て「いつの間にか周囲を下に見ていた自分に気づく」といったストーリーだ。そして全作、それに気づいた瞬間こそ、豊潤な人生の始まりであることを示唆している。

 自分が母親の胎内に宿った日を恋人に知らされて以来、街ゆく人皆について逆算をしつづける女性、
 成績優秀品行方正なのに、なぜかいつも「ワル」だった人に抜かされてしまう女性、
 「何者」では面接をされる側だったが、本作で面接をする側に回り、自分に採用面接をする資格などあるのかを自問自答する男性・・・。





 主人公たちは皆、いわゆる「上から目線」で人々を見つめては、等身大の自分に勇気をもって向き合い、一度壊れた自分を立て直していく。

 なかでも泣けたのは、第一話「水曜日の南階段はきれい」だ。

 主人公の神谷光太郎は高校3年生。目標となるインディーズバンドがいるという理由で、とある大学を目指す。
 そんな神谷には、ちょっと気になる女生徒がいる。それは、英語を得意とする夕子だ。
 
 神谷は、夕子が週に2回、滅多に人が使わない南階段を掃除していることを知る。
 神谷はその理由を知りたいと思うが、卒業間際、意外な理由を知ることになる。

 この物語を読み、久しぶりに透明な涙を流した。混じりっ気のない、ただ気がついたら頬を伝っているといった、純粋な涙だ。
 
 周囲に自分の夢を語りまくり、その夢に向かって着実に近づこうとする神谷。
 学校の、誰も使わない場所を掃除しつづける夕子。

 二人の夢が交差した瞬間、本書のタイトル「何様」が浮かび上がるような思いが、神谷の胸をつんざく。
 その意外な結末といおうか、夕子が南階段を掃除しつづける驚きの理由が明かされる展開は、出色の青春ミステリーともいえる。
 「良いものを読んだなあ」と、素直に思える物語だった。

 さらに私が気に入っているのは、第二話「それでは二人組を作ってください」
 
 一緒に住んでいた姉が婚約者と同棲を始めるため、急きょ同居人探しを始める理香。彼女は、友人女性との同居に向けて準備を進める。
 その友人は、あるシェアハウス番組に夢中だったため、理香はその番組に登場するインテリアを買いそろえる。
後は友人の引っ越しを待つばかりだったが・・・?

 これは最も「何様」というタイトルが似合う作品。「何様」という気持ちをまとめているのは第六話「何様」なのだろうが、「何様」と言いたくなる視点を持つことの虚しさを、残酷なまでに描き出している。
 誰の心にも大なり小なり巣くっている「何様」という感情を深~いところから丁寧に引き出しており、表題作以上に「本書の代表作」といえるのではないか。結構キツイ内容だが、私はなぜかこの物語が強烈に好きだ。

 10月に映画「何者」が公開されるが、ぜひその前に、この「何様」も読んでみていただきたい。
 本書を通して、彼らの裡に潜む夢、トラウマ、秘密、そして人生を知れば、映画を何倍も楽しめることだろう。

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星やどりの声  朝井リョウ

評価:★★★☆☆

「だって、笑ってたら、また、悲しい別れがくるんだ」(本文引用)
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 日本経済新聞「プロムナード」の、朝井リョウさんの回を毎週楽しみにしている。
 有名作家としての朝井氏、無名の一個の人間としての朝井氏、両方の視点から常に自分を見つめ直しており、「作家ってこんなことを考えるんだぁ」「ああ、こうやって生きられればいいよねぇ」などとウンウンうなずきながら、毎回読みふけっている(バレーボールをすることで体がつながりあっている仲間=「バフレ」という言葉も良かった)。

 とりわけ、この「星やどりの声」について書かれた記事は印象深かった。
 都立国立高校(くにたち高校ですよ、念のため)の文化祭で、この小説が舞台化され、それを朝井リョウ氏が観に行ったというものだ。国立高校は、私もちょっと縁があるため、思わず「オオッ」と前のめりになって読んでしまった。すごいぞ、国高生!



 その記事を読み、このたび本書を読んでみたわけだが、なるほど、これは劇にしたくなる小説だなと会得した。言葉遣いなどは、正直ちょっとついていけない部分もあったのだが、非常に良い舞台になっただろうなと、想像するだけでウルッときた。

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世界地図の下書き 朝井リョウ

 「それが逃げ道だって言われるような道でも、その先に延びる太さはこれまでと同じなの。どんどん道が細くなっていったりなんか、絶対にしない」
(本文引用)
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 昔、ECHOESというバンドが、こんな歌をうたった。

 本当の気持ちを隠すカメレオン
 挨拶をしても返事はしない九官鳥
 ライオンやヒョウに頭を下げてばかりいるハイエナ


 人間を様々な動物たち-いや動物を様々な人間たちにと言った方がよいだろうか-そんな巧みな比喩を用いて、「ZOO」という曲を歌っていた。

 そして皆の共通する思いは、これだ。
 「愛をください」


 朝井リョウの直木賞受賞後第一作「世界地図の下書き」を読み終えたとき、私は真っ先にその歌を思い出した。
 
 人間とは、1人ひとり違う習性をもつ動物であり、でも誰もがみな必死に「愛」を乞うている。
 そんな当たり前のような衝撃的な事実に、今さらながら気づかされたからだ。

 そしてこうも思う。
 ただ愛を待っているだけでは、愛はやってこない。
 愛を自ら与えられる場所を見つけないと、愛など永遠に手に入らないのだ、と。
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 小学3年生の太輔は、両親の事故死により、児童養護施設で暮らすことになる。
 そこで太輔は、しっかり者の中学3年生・佐緒里と、太輔と同学年の淳也、その妹の麻利、そして気取り屋の小学2年生・美保子と出会う。

 5人は、それぞれ異なる事情で施設に預けられており、個性も様々。
 学校でうまくやっている子、いじめられている子、他に家族がいることを隠す子、週末に母親と会えることを自慢する子・・・。

 複雑な人間模様が交錯しつつも5人の結束は固く、それだけに誰かが施設から出ることに関しては敏感だ。

 しかし、必ず別れは来る。
 皆が頼りにしていた佐緒里が施設を出ることとなり、4人は学校を巻き込んでの、ある大作戦を計画する。
 さて、作戦は成功するのか?
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 結論から言うと、私はこの小説を非常に面白く読んだ。
 読んでいない時間は、次の展開や、子供たち1人ひとりの胸中や人生が気になって気になって仕方がなく、読める時間が来たら「さあ!」とばかりにかぶりついて読むほど熱中して読んだ。

 それはおそらく、各キャラクターの人となりが、実に緻密に設定されていたからであろう。

 幸せな家庭で健やかに育っていたにも関わらず、心に受けた傷の大きさ故か、姑息な手段で他人の幸せや楽しみを阻もうとする太輔。
 たとえ叩くのがやめられない母親でも、求めて止まず、その寂しさを振り払うように母親の自慢をする美保子。

 さらに5人組だけではない。
 かつて太輔を引き取っていたものの上手くいかず、再度一緒に暮らしたいと望む伯母の描写などは唸るばかり。

 太輔を本当に愛しているのか、伯母はいったい誰を必要としているのか。

 太輔の鋭い観察から、伯母の心の闇が浮かびあがる場面は、鳥肌が立つ細やかさ。
 そんな精巧な人間描写が、5人組をはじめ、彼らの肉親や学校の先生といったサブキャラクターにまでしっかりと行き渡っているため、物語全体にドクドクと血が通っており、思わず引き込まれる。

 そして何と言っても注目すべきは、最年少・麻利の勇姿だ。
 声も体も大きいクラスメートの女子にいじめられ、唯一仲良くしてくれた友達との仲も裂かれてしまう。

 しかし麻利は、決して負けようとしない。
 6年生を送る会の出し物を決める際、麻利は、いじめっ子の女子の意見を頑としてはねつけ、大論争となる。
 小さくて泣き虫で、5人組の中でいちばん足手まといな存在だったのに、いつの間にか最も頼もしい存在となっている。
 さらにその麻利の姿に勇気づけられるように、5人組が何としてでも大作戦を成功させようとする姿は、実に痛快。
 途中、「え?そんなことをしちゃダメだよ!」と大人の立場から訝しく思う場面もあったが、後にしっかりフォローされていてホッ。
 7/14放送の「情熱大陸」で、法に触れるような場面を練りに練って直している様子が放送されていたが、なるほどこのような形になるのだな、と納得した。

 こう書くと、最後は「めでたしめでたし」と思うかもしれないが、そこをどう捉えるかは読む人によって違うかもしれない。
 「自分も同意見だ」と言う人もいるだろうし、「私なら、こうはしない」と言う人もいるだろう。

 しかし私は、麻利の兄・淳也の言葉を全面的に評価したい。
 

「それでも変わらん人がおるってことを、麻利に知ってもらいたかった」


でも
 

「自分たちだけは変われるんやって、そうも思いたかったんや」


 愛を本当に手に入れようとする人間たちの物語に、これ以外の、そしてこれ以上の終わり方は、おそらく、ない。

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何者 朝井リョウ

 想像力が足りない人ほど、他人に想像力を求める。他の人間とは違う自分を、誰かに想像してほしくてたまらないのだ。
 (本文引用)
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 イタタタタタタタ・・・。
 
 この小説を読み、まず感じたことだ。
 これは決して、この小説がイタいという意味ではない。
 イタいのは、この私だ。

 平成生まれ、私より20歳近くも下の若者に、私は自分の胸倉をつかまれ思いっきり引っぱたかれてしまった。イタタタタタ・・・。
 
 そう感じてしまうのは、おそらく約20年前の就職活動のせい。
 私は様々な会社で「何者」かになりたがり、そして見事なまでに惨敗したからだ。
 (とりあえずもぐりこめた企業に、結婚・出産も経つつ何とか約20年も勤めていられるのは非常に幸運だといえるであろう。職場の皆様に改めて感謝。)


 さて、そんな就職活動をめぐる大学生たちの心模様、人間模様を鮮やかに描き出した朝井リョウ著「何者」。
 私のようなオバハンに果たして理解できるだろうか・・・とかなりドキドキしながら購入したのだが、読み終えて一言。

 「すっごく面白かった!」

 ・・・そして思う。
 朝井さん、なぜもう20年早く生まれてくれなかったのか(もしくは「私よ、なぜもう20年遅く生まれなかったのか」)と。
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 仲間同士でエントリーシートを見せ合い、キャリアセンターに足を運び、面接会場でバッタリ出会い、内定すればお互いに祝いあう。
 物語に登場する学生たちの活動は、一見どこまでも健全だ。
 
 しかし、その心中は壮絶なまでに毒々しい。
 その毒の吐き方は、まさにネット全盛の現代ならではのものなのだが、思う気持ちは世代を問わない。
 ちょっと表現ツールが違うだけで、誰にでも渦巻く感情だ。

 この小説は、その描き方が非常にうまい。残酷なまでにうまい。
 そのために、か弱い私は途中、胸の痛みと眩暈とで読んでいられなくなりそうになった。
 
 しかし実を言うと、そのちょっと意地悪な目線が、もうたまらなく面白かった。
 まるで橋田寿賀子か内舘牧子のドラマを観ているようで、最後の最後まで目が離せなかった(どこがか弱いんだか)。

 そんなブラックな気持ちで読み進めながら、私は自分の就職活動を思い出し、なぜ落ち続けたのかがようやくわかった気がした。
 
 「こりゃ、誰も採らないわな」と。

 ずいぶん長い月日を要してしまったが、それに気づけただけでも、この小説を読んで本当に良かった。私は今、満足感でいっぱいだ。

 20年前とは違い、今やSNSでいくらでも「何者」かになれる。「何者」かを量産できる。
 充実した毎日を送る「誰か」、ソ、ソ、ソクラテスかプラトンか、とでも言いたくなる深い思想を持つ「誰か」、そしてそれを「上から目線」で傍観する「誰か」・・・。
 朝井リョウさんは「自分も含めた同世代に、こうした問題を提起するつもりで書いた」と語るが(2013/1/21 日本経済新聞 夕刊より)、同世代なんてとんでもない、あらゆる世代に十分提起できる問題だと、私は思う。

 実際、私もこうしてブログやツイッターを書くことで「何者」かになれると、まだ信じているのだから。
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 最後にひとつ、お願いが。
 朝井さん、次は純粋なミステリーを書いてはいただけないだろうか。
 なぜなら想像力が足りない私は、この物語の結末にひっくり返るほど驚いてしまったから。

 まさか、あの人が、ねえ・・・。

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プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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