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ことり 小川洋子

 天に昇る時、そういう人々だけが殊更に美しい声で鳴く小鳥に導かれてゆくのではないだろうか、と思えた。
(本文引用)
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 静かな小説だ。そしてそれ以上に、凄みのある小説だ。
 この小説の中で、最も大きな声を出しているのは、「チィーチュルチィーチュル・・・」と鳴くメジロであろう。

 それぐらい静かな小説なのに、そのシンとしたうねりの中に、人間の“負”の感情がゴォゴォと渦巻いている。そんな小説だ。
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 主人公は「小鳥の小父さん」。
 幼稚園で毎日丁寧に鳥小屋の掃除をしてきたため、子供たちにそう呼ばれている。

 小父さんは、障害をもつ兄と共に、いつも鳥のさえずりに耳を澄ましてきた。


 小父さんは、刺激や不規則を苦手とする兄を伴い、閑静なゲストハウスの管理人として働く。そこで二人は、美しい薔薇と鳥の歌声を心のよりどころとしながら、慎ましく暮らしていく。

 兄との空想旅行、図書館司書との出会い、鈴虫を愛でる老人、幼稚園の鳥小屋掃除・・・。
 時に心を波打たせながらも、平穏に日々暮らしていく小父さん。
 そんな小父さんの人生の結末とは・・・?
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 この小説を読み、まず思ったのは「人を弱らせるのに、大声も刃物もいらない」ということだ。

 人は常に、異質のものを排除し、弱いものを虐げ、世の中の隅に追いやろうとする。
 そのためには、ジロジロと見つめ、通り過ぎざまに耳打ちをしあい、後ろ指をさし、何も言わずに離れていけばいい。
 それだけで、人の身も心も十分に傷つけることができると、人は知っている。

 それは何も赤の他人とは限らない。
 自分の思うように生まれなかったわが子を受け入れず、まるでそこから逃げるように死んでいった、小父さんとお兄さんの父母・・・そう、肉親ですら異質で理解できないものを遠ざけようとすることが、時としてあるのである。

 さらに恐ろしいことに、町である事件が起きた時、人々は真っ先に小父さんを疑いはじめる。
 確かに疑われる要素があったとはいえ、これは「小父さん」だから疑われたのではない。
 独りで過ごす老人だから疑われたのだ。強い力と大きな声をもつ若者たちにとって、異質の存在だから疑われたのだ。

 自分もいつか必ず年をとり、若者にとって面倒な存在になる。
 その事実から目を背け、人々は弱者を痛めつける。

 そう、この小説の凄みは、静謐な筆致とは裏腹に、そんな残酷さをズブリとえぐっていることから来るのだ。

 私の読み方は、いささか悲観的すぎるかもしれない。
 しかし私は、どうしても小父さんを囲む所謂「社会的強者たち」が許せなかった。
 そしてその許せない気持ちを、そのまま自分に向けなければならない。
 その刃を鈍らせないためにも、私はこれから何度もこの本を開くだろう。
 何度も。何度でも。

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プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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