評価:★★★★★
そもそも憲法を読んだことがなくては、変えるべきか変えないでいいか、議論ができません。まずは、憲法を読んでみる。そこから始まるのではないでしょうか。(本文引用)
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改元に伴う天皇陛下の儀式を見ていたら、ムクムクとこんな衝動がわいてきた。
「今一度、憲法について知らなくちゃ!」
第二次世界大戦前の大日本帝国憲法と、現在の日本国憲法の大きな違いは、「主権が誰にあるか」。
大日本帝国憲法下では主権は「天皇」にあったのが、日本国憲法では国民主権に。
天皇のお立場も、「国の元首」から「象徴」になった。
さらに司法も、かつては「天皇の名による裁判」だったのが「司法権の独立」となった。
憲法を考えるうえで、「天皇陛下のお立場・あり方」を考えることは欠かせない。
天皇の位置づけは、そのまま憲法、引いては「国の信念・かたち」を確認するうえで、認識しておかねばならないことなのだ。
というわけで、今回の天皇陛下退位・即位は憲法を学ぶ絶好のチャンス。
首相が何が何でも憲法改正しようとしている今、最も必要なのは「憲法を読み理解すること」。
本書のようなわかりやすい本で、憲法を学ぶことで、自分なりの「正しい判断」「賢明な選択」をすることができる。
改元し、天皇陛下への関心がピークになっている今、読んでみてはいかがだろうか。
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■「池上彰の憲法入門」内容
本書ではまず「憲法とは何か」からスタート。
法律が「国民が守るべきもの」である一方、憲法は「その国の権力者が守るべきもの」と解説。
国家権力を野放図にせず、憲法で制限することで、「国民の自由と権利を保障する」としている。
つづいて日本国憲法が完成するまでのプロセスを、詳しく説明。
ある新聞社のスクープにより、当初の憲法案が大きく変更されたこと。
日本と米国それぞれの主張が意外な点で混じり合い、意外な点でぶつかったことなどを詳しく解説する。
そこから憲法の主な条文について解説。
今、「違憲か合憲か」で問題となっている事例を交えて、憲法の本質や「現実とのズレ」にグイグイ迫っていく。
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■「池上彰の憲法入門」感想
本書の特徴は、まず「憲法ができあがるまでのプロセス」を重視していること。
マッカーサー元帥主導のもと、日本国憲法ができあがるまでの過程に、大きくページを割いているのだ。
そう聞くと「今すぐ、憲法について知りたい」という人は焦るかもしれない。
「そんなものを読んでる暇はない。ムダ」と思う人もいるかもしれない。
しかし実際に読んでみると、その認識は間違いであると、すぐ気づく。
完成までの道すじを知ると、日本国憲法の本質が目が覚めるように見えてくる、頭にスイスイ入ってくるということがよくわかる。
日本国憲法を作る過程で、最も驚かされるのが「スクープによって変えられた」という事件。
実は当初は、「天皇主権」は変えないつもりだったという。
ところがある新聞社がそれをスクープとして報道。
記事を見たマッカーサー元帥が激怒。
「天皇の仕事は憲法にもとづいておこなわれる」、 「封建制度は廃止する」という方向で憲法を作ることになり、現在の「国民主権」「基本的人権の尊重」に落ち着いたのである。
また自衛隊のあり方を知るうえでも、憲法作りのプロセスを知ることは非常に有効。
マッカーサー元帥と、他の米国関係者との間で意見がぶつかり、「戦争の放棄の線引き」が行なわれたエピソードを紹介。
この「戦争放棄」にまつわるエピソードは、憲法九条改正論議を考えるうえで欠かせない。
そう、本書の魅力は「起源にさかのぼること」で、「真の理解をサポートする」点。
ただ日本国憲法を読むのではなく、「どのようにして生まれたのか」を知ることで、これほど憲法がわかるとは・・・と目の覚める思いがした。
さすが池上彰さん。
「どうすれば、人は物事を深く理解できるのか」をしっかり押さえた構成となっている。
さらに本書では、主な条文について「事例」を交えて解説。
首相の靖国参拝問題、一票の格差、生活保護とワーキングプア等々・・・。
そして時おり問題となる、「不逮捕特権」。
国会が開かれている間、なぜ国会議員は逮捕されないのか。
このような問題が起こると、ネット上では怒りの声がわく。
しかし実はこの不逮捕特権、憲法に照らすと「なるほどごもっとも!」とうなる「決まり」。
もし「どうしても成立させたい法案」に反対する議員が、逮捕される事態になったら・・・?
逮捕する権力をもつ人間が、常に公正で正しいわけではないと考えると、非常に納得できる特権なのである。
本書を読めば、憲法がいかに「権力者の傍若無人行為を許さぬか」がわかる。
そしてその「憲法の本質」を知れば、憲法改正論議への姿勢も変わってくる。
令和になり、憲法は変わるのか変わらないのか。
本書を通して憲法誕生のスタート地点、こめられた思いに立ち返り、慎重に慎重に考えていきたい。
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