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三浦しをん「ののはな通信」感想。読むのをやめそうになったけど読み切ってよかった!

評価:★★★★★

 もともと、私たちはなにも持っていないのよ。この体と、心以外は。だったら、それが発する声に従って生きるほかないじゃない?
(本文引用)
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 三浦しをんさんの新刊ということで、さっそくワクワクしながらページを開いた。

 しかし最初は、なかなか読む手が進まず挫折しそうになった。
 三浦さんの作品はたいてい読みやすいため、「あれっ? こんなはずでは」と猛烈な不安に・・・。

 やや独特な世界観(あくまで私にとっては、だが)に心がついていけず、もう少しで他の本に手が伸びそうになった。

 しかし読むうちに、グイグイ引き込まれていった。
 ページから放たれる「友情」という名の輝き、きらめきに打たれ、「これは最後まで読む価値がありそうだ」と判断。
 
 448ページを読み終え、「ああ、読んで良かった」としみじみ感じている。



 三浦しをん初の往復書簡型物語。

 それは武者小路実篤さながらの、友情大河小説である。
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■「ののはな通信」あらすじ



 野々原茜(のの)と牧田はな(はな)は大の仲良し。
 お嬢様学校の同級生で、日々のあれこれをお互い手紙で伝えあっている。

 そのうち、ののとはなは互いの思いを吐露し、愛を深め合っていく。

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 一生離れないと信じあったののとはな。

 しかし成長するにつれて、二人は別の地へ。

 もっと深い「自分の心の声」に耳を澄ませるようになり・・・?
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■「ののはな通信」感想



 「ののはな通信」を読み、まず驚いたのは作家・三浦しをん氏の筆力である(今さらだが)。

 ののとはなのやり取りは、1984年から2011年までの27年間続く。
 
 人として女性として、ライフスタイルが激変する27年間を、三浦氏は驚くほど緻密に描いていく。

 いつもふざけ合っていた高校時代、先の見えない進路の悩み、抑制と暴走の間で迷う性への関心、結婚、夫婦としてのありかた・・・。

 幼稚だった少女が、少しずつ少しずつ思慮を深め、自分の道をしっかり見つめていく。

 その心の過程が臨場感たっぷりに描かれているため、私は本書がフィクションであることを忘れ読みふけった。
 完全に、ノンフィクションを読んでいる気持ちでのめりこんでしまったのである。

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 フィクションをノンフィクションと思わせるということは、それだけ作者・三浦しをん氏の筆力が優れているということである。

 改めて、人気作家の凄みというものを感じた。

 また本書を読み、往復書簡小説というジャンルが途轍もなく好きになった。

 最初は往復書簡小説に対し、偏見を持っていた。
 「そんな他人の心のうちだけ読まされてもなー」と斜に構えた気持ちでいたのだ。

 しかし本書を読むうちに、認識がガラリと変わった。

 手紙こそ、最高の小説なのだ。
 「相手にこれを伝えたい」「この気持ちを伝えるには、どんな言葉を選べばよいのか」
 そんな熱意でいっぱいの「手紙」という文書こそが、至高の小説と言えるのだ。

 本書の終盤、ののとはなの「人間としての成長」ぶりには涙、涙。

 「心から信じられる友を持つことは・・・良いものだな・・・」

 素直にそう思えるラストだった。

 娘が高校生ぐらいになったら、ぜひ読ませたい一冊だ。
 
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光 三浦しをん

 「暴力に暴力で返したものは、もう人間の世界にはいられないのかもしれない」
(本文引用)
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 作中、こんなシーンがある。

 5歳の少女が描いた絵に、白く塗り残された部分がある。形は丸く、それはどうやら太陽を表しているらしい。
 それを見た母親は、他の子のように赤色で表現していないことを気に病む。しかし主人公である父親は、こう言う。

「いいんじゃないか。俺は、昼間の太陽が赤く見えたことなんてないけど?」


 私はこの一言が、本作品全体を象徴しているように思える。


 赤色に見えたことなどない太陽を、人は赤色で描こうとする。
 それはまるで、実際に見えていることを、自分が見たいものに歪めてしまうかのようだ。しかしそうして歪めつづけた結果、どうなるか。

 三浦しをん作「光」
 これは、過去を糊塗し、現実をねじまげることの虚しさと恐ろしさを峻烈に描いた、地獄譚である。
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 舞台は自然豊かな離島、美浜島。中学生の信之と美花、そして小学生の輔は、島に暮らす数少ない若者だ。人口が少ないだけに人間関係は密で、親戚同士である家も多い。
 
 ある日、美浜島を大津波が襲う。
 助かったのは、たまたま高台にいた信之ら3人と、ごく少数の大人のみ。未曾有の大惨事であった。
 信之らは島を出ることになるが、その最後の夜、信之はある罪を犯す。

 それを誰にも知られぬまま時は過ぎ、信之は幸せな家庭を築くが、徐々に平穏な日々は崩れ始める。
 奈落の底に突き落とされる信之の家族。そのなかで彼らは何を捨て、何を守ろうとするのか。
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 本書の帯には、「暴力はやってくるのではない。帰ってくるのだ。」という言葉が書かれている。たしかにこの物語には、数々の暴力が存在する。そのほとんどは明らかに法に触れるような陰惨なものであり、一見、自分とはかけ離れた話に思える。

 しかし解説によると、三浦氏はこう語っていたという。日常の中に潜んでいる暴力についてどうしたらいいのか、読者に考えてほしい、と。

 それを読み、いつの間にか自分は暴力の波のなかにいることに気づき、慄然とした。

 容赦なく歩行者の脇をすり抜ける車、駅の混雑、仕事上の行き違い、SNSでの炎上・・・。どれもこれも、ひとつタガが外れれば暴力になりうるものであり、すでに暴力へと発展しているものもある。
 そして考える。暴力と非暴力の違いは何だろう、と。

 それが前述の、白い太陽なのだ。太陽を赤く描こうとする限り、腰を据えて現実を見つめることはできない。
 現実を見ず、自分にとって都合の良いものばかりを見つづける限りは、相手の胸ぐらをつかんで離さないだろう。それはすでに暴力だ。
 
 この小説の登場人物は、誰もが皆、赤い太陽を見つづけたばかりに最悪の事態を引き起こす。
 その末路は、あまりに無惨だ。

 朗らかでユーモアあふれる「三浦しをん節」とは一線を画す内容で、あまりのブラックさに眉をしかめる人もいるだろう。私もその一人だ。
 
 しかし私は、この作品を忘れることはないだろう。いや、忘れてはいけないのだ。
 目に映る太陽を、「赤い」と思い込まないためにも。

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政と源 三浦しをん

 ゴールや正解がないから、終わりもない。幸せを求める気持ち。自分がしてきたこと。それらに思いを馳せては死ぬまでひたすら生きる。その時間を永遠というのかもしれない。
(本文引用)
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 疲れた時には、三浦しをん。安らぎたければ、三浦しをん。笑いたい時にも、三浦しをん。
 どうにもこうにも低空飛行、とにかく気持ちを明るくしたい。そんな時には、三浦しをんさんの小説がよく効く。

 なかでもこの「政と源」は特効薬。
 読みやすく、時に(いやかなり高頻度に)ププッと笑えて、時に泣けて、気がつけば生きる気力がわいてくる。
 合計年齢146歳。異色の爺さんコンビが奔走するこの小説は、心の滋養強壮にもってこいの人情物語だ。
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 舞台は東京下町。荒川と隅田川に挟まれた地域に住む源二郎と国政は、お互い73歳同士の幼なじみだ。 
 

 つまみ簪(かんざし)職人の源二郎は、小さな頃から修行一筋。学もなく「飲む打つ買う」の破綻した生活を送ってはいるが、職人としては一流で、なぜか人から愛される豪快な男である。
 一方の国政は、大学卒業後に銀行に就職。定年後に勤めた関連企業も辞し、今はすっかり隠居の身。いわゆるエリート街道を歩いてきた、ひたすら堅実な男だ。

 そんな、まるで逆のタイプの二人だが、どういうわけか馬が合い、寄り添い続けて70年。酸いも甘いも共にくぐりぬけてきた、二人が巻き起こす珍騒動とは!?
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 とにかく読んでいて清々しい。しかもその清々しさが、全く嫌らしくない。いや、嫌らしくないから清々しいのであろうが、何と言うか、二人ともとことん「無私」の人なのだ。

 かといって、清廉潔白な聖人というわけではない。
 源二郎は実にスキャンダラスな人生を送ってきたし、国政は家庭を全く顧みなかったツケが回り、妻や娘たちから総スカンを食っている。

 そんな身勝手な二人が、本当に誰かの幸せを願う瞬間、驚くべき力を発揮するのがこの小説の見どころ。

 源二郎の弟子・徹平が過去の不良仲間にからまれた時、源二郎が運命の女性と出会った時・・・。

 源二郎と国政は、徹平や徹平の彼女、そして互いが窮地に陥った時には、恥も外聞も身の危険もいとわず相手を助けるのである。

 なかでも心打たれたのは、国政が徹平夫婦の仲人をするために、別居している妻にハガキを出す場面。

 堅い父親を納得させるため、徹平は世間体の良い国政に仲人を懇願する。
 しかし国政一人で仲人はできない。そこで国政は、完全に自分に愛想をつかしている妻に毎日ハガキを送り続ける。
 最初は単なる仲人依頼の内容だったのが、国政は妻の興味をひくために様々な工夫をしはじめ、いつしかわが身を振り返る内容に・・・。意地とプライドで頑なになっていた国政の心が、ハガキを書く作業を通じて日に日に柔らかく溶けていく。
 徹平の幸せのために必死にやったことが、徐々に思わぬ効果をもたらすという展開は、読んでいて本当に心地好い。
 「ダ・ヴィンチ」10月号掲載のインタヴューにおいて、三浦氏は「政、お前は反省するがよいと思って書いていましたね」と語っているが、こんなに清涼感あふれる制裁はなかなかお目にかかれない。

 情けは人の為ならず、巡り巡って己が為。

 ほろ苦いことも、ひどく辛いこともたくさんあるが、腐ることなく誰かの幸せを想えば、ささやかでも自分に幸せが返ってくる。
 そんなことを思わせてくれる、たいへん気持ちの良い小説だった。

 装丁も挿画も非常に美しく、内容も見た目も心が洗い清められる。
 心がささくれ立っている時、今すぐちょっと幸せを感じたい時、人間不信になりそうな時・・・そんな時にぜひ、この本をひと口味わっていただきたい。心の中のエンジンが、澄んだ音を立て始めること間違いなしだ。

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神去なあなあ日常 三浦しをん

 山は毎日、ちがう顔を見せる。木は一瞬ごとに、成長したり衰えたりする。些細な変化かもしれないが、その些細な変化を見逃したら、絶対にいい木は育てられないし、山を万全の状態に保つこともできない。
(本文引用)
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 三浦しをんは、読者をトリップさせる名人だ。
 
 気がつけば、私たちは箱根駅伝に挑戦し、町の便利屋となり、辞書作りに粉骨砕身している。実際は、ただ本を読んでいるだけというのに。

 そしてこの作品では、読者を山に連れて行く。ただのハイキングではない。斧とチェーンソー片手に、だ。

 「神去なあなあ日常」
 不思議なタイトルのこの本は、山の登り方も知らなかったモヤシッ子が、命がけで山林を守る男へと成長していく “お仕事”コメディーである。
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 主人公・平野勇気は横浜に住む高校生。


 卒業後はフリーターとなってブラブラしようと考えていたが、母親の陰謀で、何と林業に就くことになる。

 無理やり連れて来られた先は、三重県・神去村。
 見渡す限りの山と川、ケータイは圏外、住民はお年寄りばかりで、未婚の若者はほぼ皆無。
 そんな環境の中、日本屈指の山林地主のもと、勇気は社員として日々森林と格闘する。
 荒っぽい先輩、よそ者を見る白い目、巨大なダニやヒル、そして一方通行の恋・・・。
 思いもよらぬ過酷な運命を背負わされ、勇気はこのままどうなってしまうのか?
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 三浦氏の小説らしく、ものすごい引力をもつ物語だ。
 読んでいる間、私は確かに汗をしたたらせながら山に登り、大木が自分の身に倒れてこないよう、慎重にチェーンソーの刃をあて、林業会社としての経営戦略を考えて、「売れる」商品とすべく木を磨き上げていた。
 そして村の女性たちと共にいなり寿司を作り、男たちと一緒に冷水を浴びて震え上がり、大木にまたがり、急斜面を滑り降りていた。

 つまり、私もすっかり神去村の住民になっていたのだ。
 
 これはまず、作者の恐ろしいほど丹念な取材によるものだろう。

 林業とは何か。
 それについて三浦氏は、伐採だけでなく、商品企画からマーケティング、顧客満足に至るまで徹底的に調べあげている。
 そして林業経営の背後にそびえる数々の問題点・・・都会に流出する若者、技術の伝達などにまで言及している。
 
 しかしそこを決して説明臭くしないのが、三浦しをん流。
 登場人物たちのユーモア溢れる会話や日常生活の様子に、それらをさりげなく織り込ませ、充分考えさせる作品に仕上げている。
 私は読みながら何度も笑い、ノンストップで読了してしまったが、その後、「確かな何か」が残った。

 仕事とは何か。いやその前に、この大地の上で生きるとは何か。

 所詮、人は自然には勝てない。
 そんな途方もない驚異と共に暮らしていくためには、「なあなあ」=「のんびりいきましょうや」の精神がなくてはならない。
 この小説の謎めいたタイトルには、そんな厳しい心構えが隠されているのだ。

 そしてこれは、人里はなれた農村だけでなく、都会に住んでいても同じことだ。

 目先のことでカリカリしていたら、目に見えない大きな力に、あっさりと足をすくわれる。

 そんなことを、この小説は大量の汗と涙をもって教えてくれているのである。


「舟を編む」

 普段はあまり、本を装丁だけ見て買う(いわゆるジャケ買い)ことはないのだが、今回ばかりは違った。

 書店に足を踏み入れ、平積みコーナーを見回した瞬間、私は一冊の本に吸い寄せられた。

 夜の海のような濃い藍色のカバー、帯は月光のごとく淡いクリーム色(+ポップなイラスト入り♪)、表紙をめくると現れる見返しの紙も、同じクリーム色だった。
 本体の天地につけられる飾りとなる花布は、夜空に輝く月そのものの銀色をしている。

 「舟を編む」という文字も銀色で、藍色をバックに堂々たる書体が浮かびあがる。
 背の部分には、古代の帆船のような形状の船が描かれ、いままさに荒波を越えようとするところだ。



 ・・・慎ましさと明るさ、堅実さとユーモアを兼ね備えた、とにかく「この女性と結婚しなければ一生公開するぞ!」と思わせるような美しさをたたえた本。
それが、三浦しをん著「舟を編む」であった。

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 内容は、言葉に魅入られ、それゆえ辞書に魅入られた人間たちが、新しい国語辞典「大渡海」(だいとかい)を作り上げていくストーリーだ。

 辞書編纂メンバーは、どれもヒトクセもフタクセもある個性豊かな面々。

 それを率いるのは、「まじめさん」こと馬締光也。
 クシャクシャの髪に腕カバーという姿で、名前の通りの超真面目人間。
 言葉に対する愛情と知識は天下一品なのだが、それが災いしてか、一目惚れした女性に当てた手紙は難解すぎて意味が伝わらない始末。



 そしてそれに続くのは、社内きってのチャラ男社員・西岡。
 いつもお洒落なスーツに身を包み、つきあった女性は数知れず。

 夏目漱石の「こころ」の感想を聞かれれば、
 「だいたい、これから自殺しようってのに、ふつうはあんなに長大な遺書なんて書きませんよ。小包で遺書を送りつけられたら、だれだってびびるってもんです」(本文引用)
 などとのたまう。
 
 そんな調子だから、人間とくに異性に疎い馬締に苛立つのだが、ついつい馬締の世話を焼いてしまう人のいい若者だ。

三大コレクションと聞いて、かたや「パリ・ミラノ・ニューヨーク」と答え、かたや「切手・カメラ・箸袋」と答えるような凸凹な2人だが、彼らを中心に辞書編纂部は大海に漕ぎ出してゆく。

その後、大渡海完成までには長年の月日が費やされ、人事異動で現場から去る者もいれば、病に倒れる者も現れる。

しかし彼らは、決してくじけない。

各界の専門家から原稿を集め、選んだ言葉は的確か、解説は正しいか、時代に即しているか、紙はめくりやすいか、本は重くなりすぎないか・・・。

などなど数え切れないほどの問題にぶつかるたびに、全員でオールを思いっきり漕いで突破し、ようやく姿を現した辞書「大渡海」は・・・。

 ここで私は思いっきり「!!!」と頭を抱え、膝を打ち、そして大笑いしてしまった!

 いやいやいやいや、ストーリーももちろん面白かったのであるが、こんな仕掛けがあったとは。

 この本をジャケ買いしたっていうことは、書店に入った瞬間から、私自身もこの本のストーリーの中に入っていたってことか!

 うわ~~~~・・・久しぶりに「やられた」感が全身を貫いた。
 買ってよかった。本当にこの本、買ってよかった。
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 これ以上書くと、その秘密がばれそうなので、ここで締めることにする。
 ヒントはこのブログの中にあるのだが・・・。



驚愕度★★★★★
笑える度★★★★★
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プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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