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「アーモンド」あらすじ感想。本屋大賞翻訳部門第1位!読めば子どもが救われそうな青春ベストセラー。

 感じる、共感すると言うけれど、僕が思うに、それは本物ではなかった。

 僕はそんなふうに生きたくはなかった。

(本文引用)
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 本屋大賞・翻訳小説部門第1位。
 読みながら「これ、映画化向きだな~」と思っていたら、SNSの口コミでも「映画化してほしい」と評判。

 「みんな同じこと思ってるんだな~」としみじみしながら著者紹介を見たら、何と著者ソン・ウォンピョン氏は映画監督。
 どおりで、映像がありありと浮かぶ内容のはずだ・・・と納得した。

 それと同時に、翻訳者・矢島暁子氏の力に心底惚れ惚れ。
 流れるような文体で、読んでいて気持ちいいの何のって。
 
 そして「映像が鮮明に浮かぶ」という本書の魅力が、しっかり活かされた翻訳で、思わず゛marvelous!″と叫んでしまった。

 先天的な脳の構造で、「感情がわからない」という少年。
 そして、その少年をいじめつづける同級生。

 二人の間に起こる激しい摩擦は、彼らをどう変えていくか?

 映画化されたら、涙でスクリーンが見えなくなるはず。
 そして多くの子の心が救われるであろう、青春小説の傑作だ。

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「ザリガニの鳴くところ」あらすじ感想。「アメリカで一番売れた本」というのも納得!この結末は予想できなかった・・・。

 「私に孤独を語らないで。それがどんなふうに人を変えてしまうものか、私ほど知っている人間はいないと思う」
(本文引用)
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全米500万部突破。
 「2019年、アメリカで最も売れた本」らしい。

 いざ読んでみて、「こりゃ売れるわ」と納得。
 売れた理由は、口コミであると推察。
 
 「『ザリガニの鳴くところ』っていう本、読んだんだけどさ~、結末がもうビックリでさ~」
 「えっ? そうなの? 読んでみたい!」

 こんな口コミが伝播して、「全米500万部突破」に至ったのであろう。

 実際、私も今、本書について誰かに話したくてウズウズしている。
 コロナ禍で誰にも会えないので、取り急ぎ、このブログで口コミする所存。


 お付き合い願えれば幸いである。 

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「メインテーマは殺人」感想。「カササギ殺人事件」より面白いわけない!と思って読んでみたら・・・?

 だが、わたしはいまや、ようやく自分の目的が見つかったような気がしていた。
 探偵自身を、探偵すること。

(本文引用)
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 「カササギ殺人事件より面白い!」「カササギより好き!」・・・そんな口コミ、嘘だと思ってました。
 (※「カササギ殺人事件」のレビューはこちら

 アンソニー・ホロヴィッツの親戚か、出版社の人が、サクラになって言ってるだけかと思ってました。

 ところが信じられないことに、誠に信じられないことに、この「メインテーマは殺人」・・・。

 「カササギ殺人事件」より本当に面白かったんです!
  
 「カササギ~」よりスッキリとしたストーリー展開で、物語が頭にしみこむ、しみこむ。

 でもその「読みやすさ」が、本書の罠。

 グイグイ入り込めるだけに、だまされる衝撃はメガトン級。

 「事件の全貌が見えてきたー!」と油断していたところで、背負い投げ一本かけられます。
 
 ここまで気持ちよくだまされると、読後感も爽快。

 凝りに凝った「カササギ殺人事件」よりも、素直に「ミステリーって楽しい~!」と思える構成となっています。

 とにかく今、心の底から気持よくだまされたい、という方。
 「メインテーマは殺人」を手に取ってみませんか?

 決して損はしませんよ。





  

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「カササギ殺人事件」感想。上巻を読み終えても絶対に人に貸してはいけない理由とは?

評価:★★★★★

ずっと探偵役だった私が、今度は殺人犯になる。
(本文引用)
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 唖然、呆然、愕然、感嘆、驚愕、脱帽、圧巻・・・ああ、このミステリーを語るには、どんな言葉がふさわしいのだろう。
 解説には「一読唖然、二読感嘆」とあるが、それだけではとても足りない。

 


 読みながら、何度も全身が雷に打たれたような衝撃を感じた。
 そして読み終えた今も、心臓がバクバクビリビリ。
 
 個人的に、「今まで読んだミステリーのなかで、間違いなく飛びぬけて最高峰」である。
 
 実は私、本書を読む前に、ちょっとネタバレを読んでしまっていた
 書店に行けば平積み、どこに行っても「カササギ殺人事件」を絶賛する声が響いてくる。
 
 毎日毎日「カササギ殺人事件、面白いよ~!」と聞かされれば、自ずと中身が気になるもの。
 誘惑に負けて、「ネタバレ的レビュー」をいくつか読んでしまったのだ。

 それなのに、ああそれなのに!
 いざ読んだら顎がはずれるほど衝撃、衝撃、衝撃の連続。

 「ネタバレを読んじゃったから買う必要ないかな~」と思ったが、今は「買って良かった!本当~に読んで良かった!」と心から思っている。

 さて、2018年最高、いや21世紀最高ともいわれる「カササギ殺人事件」。
 いったいどんな物語なのか!(まだ興奮してます)

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■「カササギ殺人事件」あらすじ



 舞台は英国。
 准男爵で大地主のサー・マグナス・パイの屋敷で、家政婦メアリが急死する。

 掃除機のコードに足を引っかけ、転落したとのことだが、真相は藪の中だ。

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 さらに直後、当主マグナスも死亡。

 同じ屋敷で、謎の死亡事件が続発したことに、周囲は疑問の目を向ける。

 そこで現れたのが、名探偵アティカス・ピュント。

 さてメアリとマグナスの死の間には、関連性はあるのか?
 
 事件の本当に本当の真犯人は、いったい誰なのか?
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■「カササギ殺人事件」感想



 これから読む人に、ぜにお伝えしたいのは以下の2点だ。

 ●必ず上下巻一緒に買うこと。
 ●下巻を読み終えるまで、必ず上巻を手元に置いておくこと。(上巻を読み終えたからといって、すぐ人に貸したり、ブッ★オフに売ったりしないように!)


 「カササギ殺人事件」は上下巻同時並行で読むことで、面白さがジャンプアップ。
 いや「面白さがアップ」どころか、下巻を読む最中、上巻がないと心底困ってしまう。

 もし外出先で下巻を読む時には、財布・携帯・家のカギ、そして「カササギ殺人事件の上巻」をお忘れなく。
 一緒に読まないと「しまったー!」と頭を抱えることになる。
 
 解説で「一読唖然、二読感嘆」とあるのは、そういうわけ。
 下巻を読み進めるうちに、何度も上巻に戻っては「ホントだーー!!」とドビックリ。

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 昔から「読み返したくなるミステリーは、優れたミステリー」と言われているが、「カササギ殺人事件」の「読み返し」はひと味違う。

 カササギ殺人事件の「ホントにホントの真相」を暴くカギは、上巻のあちこちに隠れている。

 だから本書は「上下巻まとめ買い」必須。
 そして「下巻を完読するまでは、絶対に上巻を持っていなければならない」のだ。

 最後に、「カササギ殺人事件」のトリックに引っかかりやすい人の特徴を記しておきたい。

 それは「家電製品等の取扱説明書をよく読まない人」

 ずばりこれは、私のこと。

 「トリセツなんていいや~、使い始めれば何とかなる!」

 そういうタイプの人は、気持ちいいほど本書のトリックに引っかかり、「ステーン!!」と盛大に転ぶことだろう。
 
 でもそんな風に転べた自分が、今は何だか・・・メチャクチャ嬉しい!

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「もうひとつのワンダー」でジュリアンのその後を知れば「ワンダー」の良さがもっとわかる!

評価:★★★★★

「ジュリアン、人生の素晴らしさはね、ときにまちがいを正せるってことなんだ。」
(本文引用)
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 現在、映画公開中の「ワンダー」。

 本編「ワンダー」を読んだ方は、こんなことを気にしているのでは?

 「ジュリアンはどうしたんだろう」

 ジュリアンはオーガストを執拗にいじめた男の子。

 母親もやや問題のある人で、ちょっと救いのない状態のまま本編は終わります。

 本書「もうひとつのワンダー」は、ジュリアン一家の「その後」を描いた物語。

 ジュリアンの心、そしてジュリアンを変えた「ある事実」を知れば、もっと「ワンダー」が面白くなりますよ。


  

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■「もうひとつのワンダー」あらすじ



 ジュリアンはオーガストへのいじめがばれ、先生方に厳しく叱責されることに。
 しかしジュリアンは、それの何が悪いのかなかなか把握できない様子。

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 それに輪をかけて、ジュリアンの父母がなかなか非を認めず、学校側との話し合いは泥沼化。
 ジュリアンの母は「もうこんな学校には行かせられない」と、転校を決めます。
 
 先生方は、この展開に落胆。

 ジュリアンの行為がいかに卑劣で、人としてやってはいけないことであるか。

 ついにそれがわからないまま、「ジュリアンが転校すれば良し」となったことに、激しい憤怒と悲しみ、諦めを感じます。

 ジュリアンは学校を移るまでの間、祖母の家に預けられますが、そこで驚きの事実が発覚。

 ジュリアン、母、そして父親までもが大きく改心することになるのですが・・・?
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■「もうひとつのワンダー」感想



 本書はジュリアンの他、クリストファーやシャーロットの物語も掲載。
 
 女の子の友情に悩む人は、シャーロットの物語がおすすめです。

 でも本書の肝は、やはりジュリアンの物語。

 ジュリアンがなぜオーガストをいじめつづけたのか、ジュリアンの母親がなぜ「ジュリアンの非道な行動」を正当化しつづけたのか。
 
 その理由が本書で明らかになります。
 
 いじめは、いじめる子が絶対に悪いし、弱いものいじめをして良い理由などこの世にはありません。

 でも本書を読むと、1分でも1秒でもいいから、「いじめる側」の気持ちに耳を傾けなければならない・・・心からそう思います。

 本書を読むかぎり、いじめっ子って「何が悪いのかわからない」場合が多いのかな?と感じます。

 擁護するわけではありませんが、「言って良いことと悪いことの区別をつけること」や、「他人の気持ちを俯瞰すること」を教えてもらうことなく大きくなっちゃったのかな、と。

 あとはそう、他人から本当に優しくされた経験がなかったのかな、とも。

 だからこそ、いじめっ子の気持ちに一度せいいっぱい寄り添うことは重要なんですね。

 「人の温かさ」に触れてやっと、「自分の行ないの非道さ」を知ることができる。
 人は与えられないと、授けることはできない。
 
 そんなことを、ジュリアンの心の変化から学ぶことができます。

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 ジュリアンの祖母が語ったエピソードは、ジュリアン一家の心を変えるのに充分なもの。
 ある意味「衝撃の事実」ですが、これでジュリアンは、一生いじめをすることはないでしょう。

 「ワンダー」のコンセプトは「親切」ですが、「親切」というのは全ての人を救うのだな、と心に大きく響きました。
 (本書を読み、私は三浦綾子著「銃口」を思い出しました。
 「銃口」に描かれる、親切のループは号泣必至!
 興味のある方はぜひお手に取ってみてください。)


 「ワンダー」を読み、ジュリアンのその後が気になっている方。
 いじめの根本的な解決法を、原因からじっくり探りたい方。
 
 ぜひ「もうひとつのワンダー」も読んでみてください。

 私は「ワンダー」より好きです!!
 
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映画「ワンダー 君は太陽」原作レビュー。いじめ・仲違いなどで悩む方に心からおすすめ!

評価:★★★★★

「オギー、いつどこにでも意地悪な人っているのよ。だけど、ママが信じてるのは――それからパパも信じてるのは――、この地球上には、悪い人よりもいい人のほうが多いってこと。いい人たちが、おたがいに見守ったり助け合ったりしているの。ちょうど、ジャックがオギーのためにしてくれたようにね」
(本文引用)
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 今、いじめや友だちとの仲違いで、憂うつな日々を送っている人もいるだろう。
 出口の見えないトンネルをフラフラ歩き、倒れそうになっている人もいるだろう。
 
 そんななかでももし、本を一冊読む力が残っているのなら、本書を読んでほしい。
 
 「WONDER」――映画「ワンダー 君は太陽」の原作だ。
 
 大きな文字でパパッと読めるので、さして労力はいらない。
 しかし読んだ後には、大きな力がわいてくるはずだ。

 そして、今歩いているトンネルに出口は必ずあるということを、信じることができるだろう。



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■「ワンダー」あらすじ



 主人公オーガストは10歳の少年。
 生まれつき「下顎顔面異骨症」という障害があり、10年で30回近く手術。
 
 しかしまだなお、オーガストを見る者は誰もが驚くという状況だ。

 オーガストは外見のこともあり、学校に通っていなかったが、ついに学校に通うことに。
 両親が、オーガストの将来を考え下した英断である。

 オーガストは入学後、優しい友だちと出会う。
 ジャックやシャーロットはオーガストと分け隔てなく付き合うが、なかには意地悪な子も。

 ジュリアンは大人の前では良い子だが、その陰でオーガストに対し卑劣ないじめを繰り返す。

 オーガストはジュリアンを疎ましく思いながらも、ジャックたちを信じて楽しく学校に通う。

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 しかしある日、オーガストはジュリアンとジャックの会話を聞いてしまう。

 その内容は、あまりに辛いもの。
 オーガストは再び、家に閉じこもってしまうが・・・?

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■「ワンダー」感想



 「ワンダー」の面白いところは、登場人物ごとに章が分かれている点だ。
 
 「オーガストの章」、「姉・ヴィアの章」、「親友ジャックの章」などと分かれているため、それぞれの「表には出せない思い」をじっくり読み込むことができる。

 「なぜオーガストを見た時、うろたえてしまったのだろう」
 「なぜオーガストは突然、あんな態度をとったんだろう」
 「自分の何がいけなかったの?」
 「私は絶対、秘密を守る」
 「僕はオーガストをどう思ってるんだろう」

 第三者の目線ではなく、章ごとに本人の目線で書かれているので、オーガストを囲む人々の気持ちをより深く理解することができるのだ。

 人間関係で悩むと、つい暗い方向、暗い方向に思考が暴走しがちだ。
 皆が敵に見えることもあるだろう。

 しかし本書で、いろんな立場の人の気持ちを知ると、その暴走を食い止めることができる。
 
 「落ち着いて考えよう。彼がそんなことをする人間か?」
 「落ち着いて考えよう。僕が本当に好きな人間は誰なんだ? 嫌な奴にあおられてないか?」

 そんなことを考える余裕ができるのだ。

 これは「登場人物ごとに章が変わる」という構成が奏功している。
 様々な立場の考え方を、文字を追って冷静に考える。

 もし今、いじめや仲違い、人間関係で気持ちがいっぱいいっぱいになっている人は、ぜひ本書を読んでみてほしい。
 いっぱいいっぱいでは見えなかった何かが見えて、心にスッと風穴が開くことだろう。
 
 そして、いじめっ子への対処も本書の読みどころ。
 ジュリアンは取り巻きと共にオーガストをいじめるが、果たしてその結末は?

 ラストは非常に爽快だが、同時に大人としては身の引き締まる思いがした。

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 大人はしっかりと子どもたちを見つめ、悪には毅然とした態度を示し、正義を貫かねばならない。

 それができないと、どんなに子どもたちが必死でもがいても溺れさせるだけ。
 もがく子どもをしっかり引き上げるには、大人が逃げないこと、事実と向き合うことが大切なのだ。

 「ワンダー」は子どものいじめ・仲違い・人間関係でお悩みなら、必読の一冊。
 
 雲がかかった心に、オーガストと仲間たちが暑いほどの太陽を当ててくれる。
 
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祝ノーベル賞!カズオ・イシグロ「忘れられた巨人」は、高齢化社会に読みたい一冊

評価:★★★★★

「分かち合ってきた過去を思い出せないんじゃ、夫婦の愛をどう証明したらいいの?」
(本文引用)
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 今年、カズオ・イシグロさんがノーベル文学賞を受賞されました。
 
 現在、ベストセラーランキングでもカズオ・イシグロ作品が1位からズラリ。
 そのなかでも特に売れているのが、この「忘れられた巨人」です。

 この「忘れられた巨人」ですが、ファンタジーなのに非常に現実味があり、背筋がツーッと寒くなります。

 なぜなら、高齢化社会の現実を突きつけるような物語だから。

 カズオ・イシグロさんに、そのつもりはないのかもしれません。




 でも今後、認知症など「記憶」にまつわる問題が頻発するであろう日本において、これはもはやフィクションではない。
 今すぐにでも直面する問題が、この物語には丸ごと詰め込まれている。

 そんな気すらするのです。

 さて、「忘れられた巨人」とはどんな物語なのか。
 そして、「巨人」とはいったい何なのか。
 
 物語を追ってみましょう。
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■「忘れられた巨人」あらすじ



 老夫婦アクセルとベアトリスは、不思議な村に暮らしています。

 その村には呪いの霧がかかっており、人々は記憶を失っていきます。

 村人たちは思い出をなくしてしまうせいか、会話も少なく、静かに暮らしています。

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 アクセルとベアトリスは、自分たちの記憶も徐々に薄れていくことを感じ、旅に出ることを決意します。

 それは、とうの昔に家を出ていった息子に会う旅。

 二人は、息子を授かったことすらうろ覚えの状態となりますが、何とか記憶を取り戻そうと長旅に出ます。

 そこで二人が気づいたものとは・・・?
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■「忘れられた巨人」感想



 以前、介護に関する俳句で、こんな内容のものを見かけました。

 いくら相手を愛し、献身的に介護をしても、相手はそれを忘れてしまう。
 そもそも認識すらしていない。

 何と悲しく虚しい気持ちになることか。

 そんな俳句でした。
 
 私はこの「忘れられた巨人」を読み、その介護俳句を思い出し、涙がボロボロとこぼれました。

 そういえば、国民的アニメの主人公の声を何十年も務めた方が、認知症で、そのキャラクターを演じたことをすっかり忘れていたとか。
 その声優さんのご主人は、何よりもそれがショックだったと語っています。

 記憶とは、その人の人生を形作るものであり、その人そのものを作るもの。
 重要な記憶を失うということは、生きる意味すら失わせるものなのかもしれません。

 だからといって、記憶をなくした人が死んで良いわけでは絶対にありません。
 ただ、記憶というものはその人のアイデンティティに深く関わるもの。
 
 記憶がないと、自分が何者かがわからず、立っているのもやっとの状態になるのかもしれません。

 「忘れられた巨人」は、そんな状態を怖れた夫婦の物語。
 息子に会いに行く旅に出ながらも、そもそも息子がいたのかどうか、息子を胎内に宿したかどうかすら記憶が曖昧になっていく二人。
 そのうち、記憶をなくすと、夫婦の愛すら崩れ去るのではないかと不安を感じはじめます。

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 そんなアクセルとベアトリスの心境は、現代日本の介護問題、高齢化問題を如実に描いていると思いませんか?

 家族の絆は、思い出でつながっていると言っても過言ではありません。
 その記憶が、誰か一人でもフツッとなくなると、途端に家族のバランスは崩れ、ピッタリはまっていたピースがボロボロと離れていく・・・そんな状態になると、介護の心理的負担は倍増します。

 アクセルとベアトリスの苦しみは、まさに記憶を失うことの心理的負担の象徴。

 「忘れられた巨人」はイングランドを舞台としたファンタジーですが、日本の遠からぬ未来を暗示している気がします。

 カズオ・イシグロさんが日本人であるとかイギリス人であるとか関係なく、現代の日本人が読むべき一冊だと思います。

 ちなみに本書の帯に、角田光代さんがこんな言葉を寄せています。

「この小説は、今私たちが立つ場所にまっすぐつながっている」

 間違いなく、21世紀を生きる私たちが立つ場所に、この小説はつながっています。

 「忘れられた巨人」を読んで感じた恐怖は、今後の日本を変えていくきっかけになるかもしれません。

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プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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