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「さよならの儀式」感想。防犯カメラが人を狂わす!?宮部みゆきのSFは現実よりも現実的で戦慄。

評価:★★★★★

この世界で、俺はもう人間でいたくない。
(本文引用)
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 SFは非現実だ。虚構だ。 
 なのに、「現実の問題」がより胸に迫る。
 ルポやドキュメンタリーで読むよりも、「どうにかしなきゃ!」と猛烈に焦る。

 SFなのにそう思うのは、宮部みゆきの本だからだろうか。

 読み終えて一日経った今、ゾワワワワ・・・と「あの物語、現実に起こるかも」と震えが来ている。

 「宮部みゆきの新境地」と話題の「さよならの儀式」。

 SFということで確かに「新境地」だが、「今そこにある危機」を思わせる点は、さすが宮部みゆき。

 ミステリーで社会に斬りこんできた宮部さんならではの、「ダブル超現実」(=現実を超えてるのに、非常に現実的)短編集だ。


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■「さよならの儀式」あらすじ



 本書は8編から成る短編集。

 第一話「母の法律」は、母と娘の物語。

 一美と二葉は血のつながらない姉妹。
 二人はそれぞれ施設から引き取られ、優しい養父母のもと暮らしていた。

 しかし養母が病気で死亡。
 一美と二葉は「マザー法」という法律により、また施設に戻らなくてはならない。
 
 愛情深い養母と別れ、落ち込む二葉のもとに、ある一人の女性が声をかける。

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 女性は二葉の実母を知っている、という。

 そして「実母に会ってみないか」とも・・・。

 施設の子と実母が会うのは、法律上許されない。
 だが二葉の実母はたいへんな局面に遭っていた。
 
 二葉は実母の愛に、ようやく触れることができるのか?
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■「さよならの儀式」感想



 SF・社会問題・近未来、この3つが融合すると「ここまで背筋凍る物語ができるのか・・・」と、目の覚める思い。

 幼児虐待もイジメもプライバシー監視もSF要素が加わると、解決に本腰を入れたくなる。

 「今うかうかしていたら、未来は本当にこうなってしまうかもしれない・・・」と、悶絶するような焦燥感に襲われるのだ。

 特に強烈なのが、第二話「戦闘員」。

 80代の男性は散歩が日課。
 ある日、近所のマンションで気になる光景を発見。

 小学生の男の子が、マンションの防犯カメラを棒で突つき、落とそうとしているのだ。

 男性は少年を叱り、その場は事なきを得るが、徐々に周囲に異変が。

 あんなところに防犯カメラ、あったっけ?と思うことが、明らかに増えているのだ。

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 そのうち、あの少年の真意が見えてきて・・・。

 どことなくジョージ・オーウェル「一九八四年」を思い起させるストーリーだが、恐怖はそれ以上。
 実際に、この物語のような現象は起きないだろうが、「目に見えぬ形で起きる可能性」は十分ある。
 
 そしてその恐怖は、他の物語にも波及。

 本書は一話一話独立しており、連作短編でも群像劇でもない。
 しかし、それぞれの話が補う合うように「人間社会の恐怖」を指摘。
 
 とある物語の
 

それより、俺はロボットになりたい。


 

この世界で、俺はもう人間でいたくない。


 という結論に集結していくのだ。

 やっぱり自分は人間でいたい、人間でいるしかない・・・と思うなら、本書はぜひ読みたい一冊。
 
 「AIに乗っ取られる」と叫ぶ新書を選ぶなら、まずその前に「さよならの儀式」を。

 人間という貨車がこのまま突っ込んでいったら、どんな事態に陥るか。

 ベストセラー作家が鳴らすだけに、さすが胸にグイグイ迫る警鐘だ。

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宮部みゆき「R.P.G.」感想。だまされない人がいたら会ってみたい!なぜ仮想家族の父は殺されたのか。

評価:★★★★★

 「どうして誰も気づかないんだろう。どうして誰も気づいてやらないんだろう」
(本文引用)
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 ウハァ・・・面白かったっ!

 2001年に発行されて、現在第39刷。
 「これだけ重版しているのだから、さぞかし面白いのだろう」と思い手に取ったが、予想以上。
 
 子どもと行ったカフェで読み終え(子どもは塾の宿題やってた)、思わず「えっ、何これ何これどういうこと? フワッ、おっもしろかった!」とつぶやいてしまった(子どもは「良かったね」と言ってくれました)。

 でも意外とAmazonでの評価、低いのね。
 なぜだろう?

 
 と同時に、今目の前にいる子どもの声に、よーく耳を澄まさなきゃいけないなぁ・・・と反省。
 
 家族から目をそらし、己の快楽のみを追求した男が、本事件の被害者。
 
 なぜ彼は殺されたのか。
 そしていったい誰が殺したのか。

 誰もがコロリコロリとだまされる、宮部みゆきミステリーの大傑作だ。
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■「R.P.G.」あらすじ



 ある住宅街で40代の男性・所田良介が殺される。
 妻と娘がいる、一般的なサラリーマンだ。

 その3日前、繁華街のカラオケボックスで20代の若い女性・今井直子が殺される。

 警察はそれぞれの事件を捜査するうち、「この2つの事件はつながっている」と判断。
 
 遺族の証言や、彼らが持っていた携帯電話やパソコンを探るうちに、ある意外な事実が判明する。

 実は所田には、もうひとつ家族があった。

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 ネット空間のなかで結成された、架空の家族。
 彼は仮想ファミリーのなかで、父親となっていたのだ。

 しかも所田はいたるところで、若い女性をとっかえひっかえする浮気性。

 恨まれる原因はいくらでもありそうだが、果たして「犯人の本当の恨み」とは何か。
 
 仮想ファミリーの妻・娘・息子たちの証言から浮かび上がる、予想外の真実とは?

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■「R.P.G.」感想



 まず「R.P.G.」を読む前には、並々ならぬ気合が必要。

 「絶対にだまされないぞー!」と頬をパンパーンと叩き、隅から隅まで疑ってかかっていただきたい。
 それでもこの小説、この事件のカラクリに気づくのは、相当難しい。
 
 「R.P.G.」の真相(※1つとは限らない)を見抜くには、もう赤ん坊に対しても「この子が連続殺人犯かもしれない・・・」と疑うレベルの、常軌を逸した猜疑心が必要だ。

 さらにこの「R.P.G.」、謎解きが秀逸なだけではない。
 
 読むうちに犯人探しや謎解きのことなど忘れるぐらい、「人間ドラマ」に没頭できる。
 
 仮想家族でも実際の家族でも、“良きパパ”でいつづけた被害者。
 彼の態度の何が、相手に憎しみをもたらしたのか。
 絶命させるほどの怒りを与えてしまったのか。
 そしてなぜ犯人の憤怒に、誰も気づかなかったのか。

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 読むうちに、犯人の「思い」が胸をズキズキつつき、謎解きのことを忘れてしまう。

 本当に・・・
 

「どうして誰も気づかないんだろう。どうして誰も気づいてやらないんだろう」


 今現実に起きている事件も、警察や周囲の人々は、同じことを思っているのだろう。
  

「どうして誰も気づかないんだろう。どうして誰も気づいてやらないんだろう」

と・・・。

 そんな悲しい真相にたどり着くプロセスも、実は意外な「仮想空間」から判明。

 仮想家族から生まれた、惨殺事件。
 まさかそこにも「仮想空間」があったとは・・・。
 ある意味、加害者・被害者に対する「意趣返し」か。
 
 こんな仕掛けができるあたり、さすが宮部みゆきである。

 ミステリーで盛大にだまされたい人に、「R.P.G.」はホントおすすめ。
 そしてミステリーでズキズキホロリとしたい人にも、心の底からおすすめ。

 なるほど重版重版の本というのは、やっぱり格別面白いんだな・・・。

 「R.P.G.」で改めて、ベストセラーの底力というものを知った。
 いやはや、大傑作。
 (Amazonでの評価が低くても、私は「面白かった」と思うぞ!←しつこい。)

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「昨日がなければ明日もない」感想。やっぱり宮部みゆきは面白い!と見直した一冊。

評価:★★★★★

 「わたしは、一度だって自分の昨日を選べなかったのに」(本文引用)
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 「う~ん、やっぱり宮部みゆきは面白い!」

 そう観念するしかない一冊だった。

 実は最近、宮部みゆきさんの本からはちょっと遠ざかっていた。
 以前は宮部さんの本なら1日足らずでシュパパパパパッ!と読めたのに、どうも最近は停滞気味。
 
 ところがこの「昨日がなければ明日もない」は、ひっさしぶりの超速一気読み。
 私があまりに夢中で読んでいるため、小学生の子供まで傍らで読書にふけるという、素晴らしい副産物まで得ることができた。



 宮部作品でおなじみ「杉村三郎シリーズ」だが、はっきり言って本作が一番よい。
 かなりエグイ話ではあるが、先が読めない展開に終始ワクワクゾワゾワしっぱなしだった。

 400ページのハードカバーで、かなり重量はあるが、読みはじめたが最後。
 肩が凝ろうが、手首が腱鞘炎になろうが、持ち歩いてでも読んでしまうだろう。
 (実際私は外出先でも読んでいた。次の展開が気になっちゃってもう・・・)
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■「昨日がなければ明日もない」あらすじ



 私立探偵・杉村三郎のもとに、ある女性が相談に来る。
 娘が自殺未遂をしたというのだ。

 娘は現在20代後半の専業主婦。
 ベタ惚れした男性と結婚し、幸せいっぱいのはずだった。

 しかも女性は、娘に会わせてもらえない状況。
 娘婿が面会を徹底的に妨害。
 「自殺未遂の原因は母親の過干渉」と訴え、決して会わせないようにするのだ。
 
 だが三郎が調べを進めると、母娘の関係は良好だった様子。
 さらに近親者の話を聞くうちに、娘婿の人格に、かなり問題があることが判明。

 そして関係者の中には、「自殺既遂」をした人物も・・・。

 いったい娘の身に、何が起こったのか。
 娘夫婦の間に、どんな過去があるのか。

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■「昨日がなければ明日もない」感想



 本書には3つの物語が収められている。
 
 新婚主婦自殺未遂事件を追う「絶対零度」。
 結婚式で相次いでドタキャンが発生する「華燭」。
 触る者皆傷つける、超自己中ママが暴れる「昨日がなければ明日もない」。

 どれもメガトン級に「胸が悪くなる」ミステリーだ。(特に第一話)

 以前だったら、「確かに面白いけど、こんな人いないよー!」と思っていただろうが、なぜだろう、今は違う。
 「これぐらいひどい人、いるよね。これぐらいひどく人間が描かれてるから、リアリティあるよね」と思ってしまう。

 本書を読んでいて気づいたのだが、最近、世の中の「善悪の判断」が大きく揺らいでいる気がする。
 揺らいでいるというか、「これだけは言ってはいけない・やってはいけない」のハードルが非常に低くなっている気がするのだ。

 それは本書にも登場するが、SNS隆盛のせいかもしれない。
 今、SNSで「いいね!」がほしいばっかりに、危険運転をしたり暴力行為に及んだり、自分のやんちゃぶりを見せつけたりする人が増えている。

 以前だったら「こんなことをしたら危ないよ、人の命にかかわるよ、明らかに犯罪行為だよ」とブレーキをかけるところが、今はブレーキがきかなくなっている。

 そんな「歯止めがきかなくなった人間たち」を、このうえなく濃厚に描いているのが「昨日がなければ明日もない」。

 昔は、犯罪をおかしていたのは一部のモンスターだけだったかもしれないが、今は誰もがモンスターになりうる。
 常軌を逸した承認欲求や、「言ったもん勝ち・やったもん勝ち」といった思考が、頭の中でチロチロと燃え出せば、いつでも誰でも怪物になってしまうのだ。

 純粋なミステリーとしても、存分に楽しめる「昨日がなければ明日もない」。
 しかしその一方で、「私、加害者になる可能性ない?」と自問したくなる一冊。

 被害者にも加害者にもなりたくなければ、今、心に刻むべき物語だ。

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サラッと読める夏の怪談!?宮部みゆき「地下街の雨」

評価:★★★★☆

  「なんちゅうのかねえ・・・・・・あんな稼業をしていると、他人様の人生をのぞくような気分を味わうことがよくあるんだけども、あの時は、ただのぞいただけじゃなしに、他人様の人生を盗んだような気がしたんですよ」
(本文引用)
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 集英社文庫「ナツイチ」の一冊。
 宮部みゆきさんによる、サラッと読めるミステリー・・・というか怪談ですね。

 人間、心に何か後ろめたいところがあると、何でも「恐怖」になってしまうものなんですね。

 「幽霊の正体見たり枯れ尾花」というのは、枯れ尾花に原因があるのではなく、枯れ尾花を見た人の心に原因があるようです。

 心に濁りが一点もない人はいないと思いますが、その一点がとんでもない事態を引き起こすことも・・・。

 「地下街の雨」を読むと、心の整理整頓が必要なことがよーくわかります。
 そうしないと、車ごと海に突っ込んだり、人の葬儀でもめたり、突然世の中から音が消えたりするかもしれませんよ。



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「地下街の雨」あらすじ



 本書は7篇から成る短編集です。

 表題作「地下街の雨」は、喫茶店のウェイトレスの話。
 大手企業に勤めていた麻子は、婚約が破談になり退職。
 会社近くの喫茶店で、ウェイトレスとして働きはじめます。

 ある日、そこにひとりの女性がやってきます。
 女性は麻子に親しげに話しかけますが、どうやら、かなり問題のある人間の様子。
 調べてみると、彼女は思い込みや妄想が激しい性格で、前職を辞めさせられたとか。

 麻子は彼女と距離を置きたいと思いますが、なぜかずいずいと麻子に近づいてきます。
 しかしそこには、意外な理由があったのです。
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「地下街の雨」感想



 「あらすじ」では、表題作「地下街の雨」について書きましたが、実は私がいちばん好きなのは第5話「勝ち逃げ」です。

 主人公の浩美は、ある日、叔母の訃報を聞きます。
 叔母は非常に頭の切れる女性で、教育者として長く社会に尽くしてきましたが、恋愛とは無縁の人生のようでした。

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 ところがある日、叔母のもとに一通の手紙が届きます。
 浩美はその手紙を読み、叔母が若い頃、駆け落ちをしようとしたことを知ります。

 さて、いったい誰がそんな手紙を入れたのでしょうか。

 この「勝ち逃げ」は、ラスト1ページで「え?ええ?」と読み返したくなる事実が判明します。

 しかしそこに至るまでの、親戚たちの心の交錯がなかなか見もの。

 誰がこの手紙を入れたのか、手紙によって叔母への気持ちはどう変わるのか、そして駆け落ちの相手は誰なのか。

 さんざん読者を翻弄し、疲れた頃にソロリと種を明かし、アッと驚かせる仕掛けは、さすがミステリーの名手!
 「勝ち逃げ」を読む時には、一語一句よく頭に叩き込みながら読んでみてください。

 本書に収められる物語はすべて、心の迷いが大きな騒動を引き起こすものばかり。
 心に引っかかるものがあると、ほんの小さなことがトリガーとなり、人命を落とすことにもなるようです。

 宮部作品としては、長編ミステリーに比べると、やや物足りなさを感じるかもしれません。
 でもちょっとした心のボタンのかけちがいや、不満、嫉妬、羨望、自己否定感が自分の人生も他人の人生も狂わせてしまうという点では、非常に宮部みゆきらしい短編集といえます。

 サラッと読めるけどグサッとくる、夏の怪談「地下街の雨」。
 読むと涼しくなるので、猛暑の日にどうぞ。

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仲間由紀恵主演でドラマスタート!宮部みゆき「楽園」はこんな物語。 

評価:★★★★★

 「あのね、幸せになるって、半端じゃなく難しいんですよ。血の繋がった人だってね、切って捨てなくちゃならないときだってあるんです。ろくでなしだったら、しょうがないでしょ?」
(本文引用)
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 2017年1月8日から、WOWOWでドラマ放送される。出演は仲間由紀恵、黒木瞳、小林薫と、新年のスタートにふさわしい豪華な顔ぶれだ。
 そしてそれ以上に、原作はあの宮部みゆきだ。これは面白くないわけがない。

 というわけで、年末年始にかけて読んでみたが、予想を上回る面白さ!

 そして、何といっても物語の密度が濃い。どこまで読んでも濃度が下がることなく、いつまでも冷めない上等なブラックコーヒーをじっくりと味わうような気持ちで、最後まで読むことができた。

 これがドラマになるなんて、どれだけ視聴者を釘付けにすることか・・・。想像するだけでゾワゾワッと鳥肌が立つ。嬉しさと恐ろしさで。
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 主人公は、ライターの前畑滋子。彼女は、9年前の連続誘拐殺人事件(「模倣犯」参照)に深く関わり、大きな精神的痛手を負った。
 そのダメージは未だ癒えないものの、何とかライターとして復帰。そんなある日、滋子に仕事の依頼が舞い込んでくる。
 
 それは、「自分の息子が超能力を持っているかどうか調べてほしい」という奇妙なものだった。

 実は先ごろ、火事のあった家から少女の遺体が発見されるという事件が報道された。それは16年前に失踪した少女の遺体のようだが、ある少年が、それを予知するような絵を描いていたという。

 さて、その少年は本当に超能力を有していたのだろうか?
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 上下巻合わせて1000頁近くになる大作だが、全く苦にならずに読めた。むしろ、いつまでも読んでいたいと思ったほどだ。

 16年前の失踪事件、被害者少女の家族関係、超能力少年の生い立ち、少女と少年を囲む大人たちの苦しみ、そして、怪しい家の前をわざと通る幼い少女・・・。
 次々と現れる複雑な事情は、どれも眉をひそめたくなる痛ましいもので、聞くだけでも胸がギュウウッと痛くなる。







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希望荘  宮部みゆき 

評価:★★★★☆

人は幸福を求め、そのために努力する。だが万人にとっての幸福などない。人は楽園を求め、必死で歩み続ける。だが万人にとっての楽園もまた存在しない。
(本文引用)
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 宮部みゆきのミステリーは、いつも切ない。
 
 いつからこんな風になっちゃったんだろうなぁ。いつから人生が狂っちゃったんだろうなぁ・・・。読みながら、そんな思いに胸を切り裂かれそうになる。

 それは、加害者に限らない。加害者も被害者も、こんな事件に巻き込まれるために生まれてきたわけではない。ただ普通に幸せになるために、そこそこ一生懸命生きていただけだ。それなのに、悪夢に唸り、夜中に叫び、愛する人から離れなければならないような苦しみに追い詰められる。

 杉村三郎シリーズ第4弾「希望荘」には、そんな人たちが肩を寄せ合って暮らしている。そして皮肉なことに、そんな人たちの物語だからこそ、どうしようもないほど惹き込まれた。



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悲嘆の門 宮部みゆき

「だって、さっきはネットには嘘と真実が混在してるって言ったじゃないか」
「それは、あくまでおまえたちの目から見た場合の嘘と真実という意味だ。私には全てが真実だから、見分けがつかない」

(本文引用)
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 どうも最近、「怪物」「怪獣」と聞くと、円谷プロではなく「宮部みゆき」が浮かぶようになってしまった。
 前作「荒神」では、実際の怪獣の捕物劇から「人の心に巣食う怪物」を浮き彫りにしたが、今回の怪物はさらに手強い。

 新宿の高層ビルの屋上にたつ、ガーゴイル像。大きな翼と鋭い爪、血の臭いのしそうな牙をもつその像が、実は「動く」としたら?
 社会派ミステリーとファンタジーの世界とを行き来しながら、社会の恐ろしさをえぐり出していく「悲嘆の門」。
 これは、「あなたはどこまで正当に人を裁く『普通の人間』でいられるか」を試す、実に恐ろしい小説だ。
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 大学生・三島孝太郎のアルバイト先は、とあるIT企業。本業はサイバー・パトロールだ。
 学業の傍ら、日々ドラッグや自殺サイトなど違法・有害サイトを巡回しつづける孝太郎だが、そんな彼にある依頼が舞い込む。
 それは、「孫娘が学校裏サイトで悪口を書きこまれているらしいので、調べてほしい」というものだった。

 その一方で、世の中では連続殺人事件が起きていた。死体はいずれも指を切られるなど損壊しており、その猟奇的な犯行に世間は震撼する。

 さらに孝太郎の近くで、別の男も動いていた。
 元刑事の都築は、高層ビル屋上にあるガーゴイル像が動いているのではないかとの話を聞き、捜査に乗り出す。





 ある日、新宿で独居老人が行方不明になったという。その事件をきっかけに、孝太郎と都築はいよいよクロスしていくことになるのだが――?

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プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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