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「エンド・オブ・ライフ」。「いつか死ぬのに生きる意味はある?」という疑問が氷解した一冊。

 亡くなりゆく人がこの世に置いていくのは悲嘆だけではない。幸福もまた置いていくのだ。
(本文引用)
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 以前、こんな話を聞いた。
 「どうせ死ぬんなら、生きてる意味ないじゃん」と言う息子に、母親が「じゃあ、どうせお腹が空くんなら、食べなくてもいいんじゃない?」と言い返したとか。
 
 確かに母親の言う通りだなぁと思いつつも、息子さんの言うことも何となくわかる。
 
 「どうせ最後は死んでしまい、誰の記憶にも残らないのに、なぜ生きているのだろう? なぜ生まれてきたのだろう? なぜ勉強したり健康に気を遣ったり、家族のために仕事や家事をしたりしなくてはならないのだろう」

 私もふと、そんな気持ちになることがある。

 でも本書を読んだら、そんな疑問・悩みは溶けて無くなった。


 実は自分の生死は、自分だけのものではない。
 自分の家族や友人だけのものでもない。

 必死に生き、「あゝ生き抜いた」という思いで死んでいくことは、後世に受け継がれていく。

 自分の生死は、知らない誰かの「生き方・死に方」に影響を与え、時には「死の恐怖」から救うかもしれない。

 「知らない誰かの生死」など、興味が持てないかもしれない。
 しかし私は本書を読み、こう思った。

 「いずれ死ぬから」と人生投げるより、一生懸命生きて死のう。
 それで「どこかの誰か」が「死の恐怖」から抜け出せるなら・・・いいじゃない?

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紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている  佐々涼子

 「ささくれだった被災生活の中で、車に乗って俺たち家族はどこへ行ったと思う? 書店だったんですよ。心がどんどんがさつになっていくなか、俺が行きたかったのは書店でした」
(本文引用)
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 表紙に、鮮やかな千羽鶴がひっそりと映っている。小さな折鶴が1つひとつ丁寧につながれたその姿は、まさに紙をつなぐためにタスキをつなぎつづけた社員たちの姿そのものだ。
 「エンジェルフライト」の著者佐々涼子が放つドキュメンタリー「紙つなげ!彼らが本の紙を造っている」
 これは、本を待つ人々のために絶望の淵から這い上がった者たちの、奇跡の物語である。
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 場所は宮城県石巻市。そこに日本製紙石巻工場がある。日本製紙は日本の出版用紙の約4割を担っており、なかでもこの石巻工場は同社の主力工場だ。
 その工場を、あの未曾有の災害が襲った。東日本大震災だ。
 石巻市は大津波に飲み込まれ、多数の死者・行方不明者が出る。人々の悲鳴、助けを呼ぶ声、容赦なく荒れ狂う波と炎。目の前で次々と人が死んでいく状況のなか、石巻工場も例外ではなかった。

 奇跡的に従業員は助かったものの、工場は塩水と汚泥に埋もれ、壊滅的な被害を受ける。
 そんな先の見えない絶望的な状況のなか、ある日、工場長が社員らに驚きの声明を出す。

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エンジェルフライト 国際霊柩送還士 佐々涼子

 彼らは死の現場における産婆だった。
 (本文引用)
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 「7大陸最高峰制覇 渡辺さんが無言の帰宅 ロシアで交通事故死」
 「殺害された記者 昨年は最悪141人」
 (2013年1月4日 日本経済新聞 朝刊より)

 死は突然、やってくる。正月であろうが何であろうが、容赦してはくれない。
 多くの人が、心のどこかで、自分自身や愛する人の死を恐れながら過ごしているだろう。

 ではもし、その悲しい出来事に遭ってしまったとしたら?
 その報せを、見知らぬ土地から聞いたとしたら?
 現実を知るまでに、長い時間を要するとしたら?


 私たちは、ただ歯噛みしながら待ち、そして絶望に打ちひしがれるしかないのだろうか。
 いや、そんなことはない。
 ここに、遠く離れた場所で亡くなった人を「救う」者たちがいる。

 国際霊柩送還士-国外で亡くなった人の遺体を母国に送り届ける職業。

 この作品は、そんな“魂”を運ぶ者達を描いた渾身のドキュメンタリーである。
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 読んでいてまず驚いたのは、この仕事を請け負うエアハース・インターナショナル社社員達のプロ意識の高さだ。
 それは、死した者および遺族に対する「真心の表れ」と言って良い。

 遺体の上をまたぐなどは論外、棺の上にファイルを置くことすら決して許さない。
 寝ている自分の体の上に、ファイルを置かれたらどんな思いがするか - 常に遺体を、自分の身に置き換えて考えるのだ。

 だから彼らは、己の身だしなみにも徹底的に気を遣う。
 そしてその姿で、もう治ることのない無残な傷跡を丁寧に治療し、その人に合う色のファンデーションで愛情を込めて化粧をし、遺体を搬送する車は滑るようになめらかに運転する。

 睫毛と睫毛が触れあうほどに近づいて、心を込めて遺体に向き合う姿には「生きている人に対しても、果たしてここまでできるだろうか?」と驚き、そして頭が下がる。

 しかし中には、強盗に殺害された息子さんを、そのままの姿で帰してほしいという家族もいる。
 
 実は私もそう思った。

 納得のいかない死であった場合、その処置は真実を覆い隠してしまうのではないか、と。
 私が遺族だったら、そんな余計なことはしないでくれと思ってしまうのではないか、と。

 しかしエアハース・インターナショナルの社員たちは、そのような遺族の気持ちにもしっかり応えている。

 彼らの仕事は真実を隠すことではない。美化をすることでもない。
 彼らの使命とは、遺族に「遺体の声を確実に届ける」ことなのだ。
 
 その信念のもとに動く彼らの仕事ぶりは、誰よりも遺族の心に寄り添うものとなっている。
 何と悲しく、何と温かい仕事であることか。
 
 本書には、彼らの仕事内容だけでなく、彼らがこの仕事にたどり着くまでの道程も細かく書かれている。
 「死者を弔う」のならまだしも「死者を救う」仕事があることなど考えもしなかった私にとっては、興味深く、また大変価値のあるものであった。
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 読みながら、今もどこかで誰かが悲しみ、誰かが怒り、誰かが心の傷を癒す長い長い時を過ごしていることに思いを馳せ、涙がこぼれた。

 そして願う。

 「私の顔を見ると悲しかった時のことを思い出しちゃうじゃん。だから忘れてもらったほうがいいんだよ」
 (本文引用 エアハース・インターナショナル社長・木村利惠氏の言葉)

 エアハース・インターナショナルの社員の方たちが、一日でも早く遺族に忘れ去られる日が来るように、と。

プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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