評価:★★★★★
悩んでる妊婦さんいたら、「ここのばあちゃん呼び出して話してやらなあかん」って、おばあちゃんを呼んで話をしますよ。「ばあちゃん! あんたの時代と違うで!」って。(本文引用)
______________________________
妊娠・出産はとてもめでたいことなのに、それで傷つく人が少なくない。
そのなかで代表的なのが、「帝王切開」と「ミルク育児」に関する引け目。
「帝王切開だとお腹を痛めて産んでいない。だから愛情が少ない」だの「母乳じゃないから愛情が少ない」だの外野にヤイヤイ言われ、追い詰められる女性が多い。
もし今、そんな悩みを持っている人がいたら、もうホント、ぜひぜひぜひぜひ本書を読んでほしい!
そして「ヤイヤイ言う外野の人」にも、ぜひぜひぜひぜひ薦めてほしい!
(薦めるのはチョット・・・と思うなら、さり気なくテーブルに置いておくとか、鞄から出して「最近、こんな本を読んでるのー。出産(あるいは育児)に役立つかと思って」などと言ってみるのも有効。)
ママ自身が読めば、外野の声は気にならなくなり、自信と安心をもって出産・育児ができる。
さらに周囲が読めば、それまでの無責任発言がシュウウッ・・・と鳴りを潜めるはずだ。
「楽しくてためになる、“役に立たない本”にしましょう!」
というのが本書のコンセプトらしいが、何の何の、これほど世の中のママを救ってくれる本はない。
妊娠・出産を控えている方は、一家に一冊(二世帯や三世代同居などなら2~3冊)持っておきたい超名著だ。
________________________________
■「胎児のはなし」内容
本書は対談形式。
聞き手(生徒)は、科学系ノンフィクションのトップライター・最相葉月氏。
先生は、長崎大学名誉教授・増﨑英明氏。
増﨑氏は、日本の産科・婦人科をリードしてきた「産婦人科の権威」だ。
「胎児のはなし」では、妊娠・出産にまつわるありとあらゆる謎に迫る。
超音波以前、胎児が見えなかった時代の驚きの考察。
「なぜ頭が下なのか」「なぜ3000グラムで生まれるのか」「羊水とは何か」等、誰もがふと疑問に思う「あんなこと・こんなこと」もわかりやすく解説。
技術の進歩による「母子死亡率激減」の歴史や、出生前診断や不妊治療のメリット・デメリット、さらに無痛分娩や水中出産についても、名医の観点からとことん詳しく説明する。
____________________________________
■「胎児のはなし」感想
本書を読んでつくづく思った。
妊娠・出産・育児で最も大切なのは、とにかく本人(特に母親)の意思。
そして次に大切なのは、医師の意見。
それら2つがあれば、極端な話、他の人の意見は無視してよい。
帝王切開やミルクを無暗に否定してくる人の言葉は、スルーして良い、いや場合によっては「スルーすべき」なのだ。
確かに「自然」というのは、どことなく聞こえが良い。
本書も「自然」を否定しているわけでは決して、ない。
だが本書を読めば、科学技術の発展で、いかに多くの生命が救われたかがよーくわかる。
例えば今なら、胎内で手術をしたり、赤ちゃんの頭部だけ出して手術をしたりするのも可能。
横隔膜ヘルニアやリンパ管腫を患った胎児は、そのまま産まれるとほぼ確実に死んでしまう。
しかし胎児治療・周産期医療の進歩で、今は助かるようになったのだ。
そして帝王切開やミルク育児も同様。
両方とも、助からなかった生命を助ける行為。
「愛情がない」なんていうのは、むしろ逆。
「愛情があってこそ」の選択なのだ。
たとえば帝王切開と自然分娩の違いについて、増﨑医師は「赤ちゃんが肺胞液を出すプロセス」について細かく解説。
赤ちゃんは産まれた時、肺から肺胞液を出さないと死んでしまう。
自然分娩の場合は、赤ん坊が鼻から出して空気を吸い、帝王切開はチューブで肺胞液を抜かれて、自分で空気を吸うという。
(言ってみれば、違いはそれぐらいなのだ。)
本書ではさらにそこから、帝王切開の歴史・重要性について論を展開。
逆子や、多胎妊娠の両方あるいはいずれかが逆子、そして一回目の出産が帝王切開の場合は、「母体を救うためには帝王切開を」と解説する。
母親の子宮破裂や、大出血を防ぐためにも、ある一定の条件下では帝王切開が必要なのである。
これほどの歴史・医学的エビデンスを経てもなお、帝王切開が批判される世の中に、増﨑医師は憤慨。
先生:自然分娩だろうと帝王切開だろうと、元気に生まれればそれでいいんですよ。それがゴールなんです、お産って。だって、無理やり経腟分娩することにメリット感じないですよ。リスクを十分説明したうえで、それでも下から産みたいっていう話を聞くと、ぼくらがピンと思うのは、「わがままだな、この人」ということです。
その言葉を受け、最相氏が「わがままというのはかわいそう。そういうことを追い詰められている状況が気の毒では?」と返すと、さらに増﨑医師は熱く主張。
先生:追い詰めてる人が悪いんですよ!
先生:「私がお産した頃はなぁんにもなかったのよぉ~」って、ばあちゃんたちがいうわけです。それはその人の話で、じゃあ一万人見たらどうなる?
と語る。
そして母乳信仰についても、増﨑医師は警鐘を鳴らす。
成人T細胞白血病のキャリアである母親が、母乳をあげると、赤ちゃんに感染する。
そのため病院側は、キャリアである産婦に対しては決して母乳をあげないよう指導する。
しかし「母乳信仰」というプレッシャーに負けて、こっそりあげてしまう母親がいるという。
赤ん坊の命を救うための指導が台無しだ。
もし医師によるきちんとした指導・エビデンスがあるにも関わらず、それを無視して「経腟分娩」「完全母乳」を迫る人がいたら、その人の意見は愛情ではない。
ママに対する支配・コントロール・自己満足だ。
今現在、帝王切開やミルク育児に引け目やプレッシャーを感じている人がいたら、本書を読み、自信をもってほしい。
経腟分娩も帝王切開も、母乳もミルクも関係ない。
どちらが上で、どちらが下など、順位をつけるのはナンセンス。
「私は、自分と子どもの生命を救う選択・判断をしたのだ」と胸を張って育児をしてほしいと思う。
ただでさえ不安でいっぱいの、妊娠・出産・育児。
ふとしたことや、他人のちょっとした言葉で落ち込むこともあるだろう。
そんな時にはぜひ、本書をパラパラッと・・・。
目を通すたびに、「私はこんなにすごいんだ!」と元気・自信を取り戻すことができるだろう。
詳細情報・ご購入はこちら↓
