評価:★★★★★
「他人同士でも、人は人なんだから、横断歩道を挟んで向き合った時点である種の関係性はできてるでしょ? 高瀬くんは、そういうのに無頓着なの。で、わたしはそれがちょっとツラい」(本文引用)
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ずっと気になっていた「ひと」。
「本の雑誌」で2位に選ばれ、本屋大賞にもノミネート。
書店でもあまりに宣伝されているので、却って引いていたのだが・・・。
ああ、何でそんな邪推をしてしまったのか。
もっと早く読めばよかった。
読んでおけば、一生のうち幸せな時間が少し前倒しで増やせたのに。
豊かな日々を一日でも二日でも増やせたのに。
この際だから言おう。
書店で気になった本は、即買うべし!
「ひと」を早く買わず、激しく後悔している私が言うのだから間違いない。
人間の一生は長いようで短い。
幸せの時間を少しでも増やしたいなら、書店でプッシュされている本は買うべきだ。
ところで、本屋大賞ってまだ決まってなかったんだっけ?
他のノミネート作には大変申し訳ないが、「ひと」でよいのではないか?
いやいや、そんなことを言っては「ひと」の作者にも失礼だ。
世の中にはいろんな「ひと」がいる。
人間の多様性を認め、他人の尊厳を傷つけることなく、より温かい方に行動する。
見えない誰かの笑顔を思い、誰も否定することなく、より温かい手を差し伸べる。
その大切さ、美しさを教えてくれるのが「ひと」なのだから。
う~んでも、やっぱり大賞は「ひと」が受賞してほしいけどね。
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■「ひと」あらすじ
柏木聖輔は20歳の大学生。
3年前に父親が事故で他界。
そして大学入学後まもなく、母親も無理がたたって突然死する。
聖輔は大学を辞め、仕事を探すことに。
そこで出会ったのが、コロッケがおいしい総菜屋。
所持金55円で、何とかコロッケが1つ買えそうだが、店の主人がオマケをしてくれる。
どうやらその総菜店、バイトを募集しているらしい。
聖輔はさっそく応募。
惣菜屋で働くこととなる。
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■「ひと」感想
たとえばレストランや喫茶店、美容院、病院の受付・・・。
同じ店員さん・スタッフさんなのに、「この人が対応してくれると嬉しい」と言いたくなる人がいる。
「あの人がいるから、またあのお店に行こうかな」と言いたくなる人がいる。
ちなみにスーパーのレジでも「人気のある店員さん」というのがいる。
一見みんな同じに見えて、「特定の店員さんのレジに人が集まる」という現象が起こるのだ。
他にもあらゆる場面で、人は「人気の有無」が分かれる。
名前も知らない人だけど、「あんな人に会えるなんて今日はハッピー!」と思える人がいる。
一方で「この店員さんかあ・・・」と客を落胆させるスタッフや、二度と会うこともないだろうに「金輪際会いたくない!」と思わせてしまう人もいる。
いったい彼らの違いは何なのか。
その違いが如実にわかるのが、この「ひと」だ。
本書には実にいろんな人間が登場する。
生まれ育ちも年齢もバラバラだが、ある「ひとつのこと」でパックリ分かれている。
それは「情の有無」だ。
主人公の聖輔は物静かで真面目で実直。
誰もが彼を信用する。
しかしややお人好しなのが、玉にキズ。
天涯孤独で後ろ盾がないため、社会的な立場も非常に弱い。
ではそんな聖輔に対し、人々はどう接するか。
そこで人間は大きく分かれる。
生活態度はルーズだが、聖輔を守り抜く者。
聖輔に気を遣わせないよう、最大限の配慮をしながら金銭的支援をする者。
アポなしでやってきた見知らぬ青年(聖輔)を、おいしいお茶で迎える者。
自信を失いかける聖輔の「良さ」を認め、ひっそりと寄り添う者。
一方、こんな人間もいる。
聖輔が孤独なのをいいことに、金銭をむしり取ろうとする者。
上から目線で、自分の都合を押しつける者。
杓子定規な対応で、聖輔の訪問をピシャリとはねのける者。
この違いは、情があるかないか。
本書に登場する「悪人」「嫌な人間」は、犯罪をおかすほどの者ではない。
ただ単に、ちょっとした情がないだけ。
おそらく社会で滞りなく生活はしていけるだろう。
もしかすると「情のある人」より、ある意味「勝ち組」の人生を歩むかもしれない。
しかし本書を読むと、こう思える。
同じ「人間」なら、同じ「人生」なら、やっぱり「情のある人生」のほうがいい。
少しぐらい損をしても「情のある人」として生きたい。
その方が、どんなに心が満たされるか。
どんなにどんなに、涙が出るほど幸せか。
本書の「情あるチーム」の行動を見ていると、そう思わずにいられないのだ。
話は戻って、お店等で人気のある店員さんは、本書で描かれるような「情」があるのだろう。
目立つほどの善行を施すわけではない。
でも、生まれついての気質からあふれるような、さり気ない優しさ・情がある。
「あの人がいるから、あのお店に行きたい」
そう思わせる人は、聖輔を支える「情あるチーム」のような人たちなのだ。
さて、そんな聖輔だが、終盤はちょっとした変身が。
ただの「良い人」を越えた先に、聖輔が待ち受ける未来とは?
ああ、聖輔の将来が気になる!
ぜひ続編を出していただきたい。
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