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「大人は泣かないと思っていた」感想。“あの小説”の“あの名台詞”のような大人になりたい。

評価:★★★★★

「おかしくないですか? なんでまず転んだことを心配してあげないんですか? 怪我をしてるかもしれないのに。なんで、沢蟹を片づけるのをあなたは手伝わないんですか?」
(本文引用)
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 「大人は泣かないと思っていた」を読んでたら、ある言葉を思い出した。

 「強くなければ生きていけない。優しくなければ、生きていく資格はない」

 レイモンド・チャンドラーの小説「プレイバック」に出てくる名台詞だ。

 本書には、誰にも侵されぬ「絶対的優しさ」と、それを守りぬく「強さ」がある。
 周囲の嘲笑や差別に屈することなく「今、いちばんつらい思いをしてる人」にスッと手を差し伸べる。
 時に自分が盾となり、誰かを愛し、守り、助け出す。

 本書を読み、改めて“「優しさ」と「強さ」はワンセット”と認識。

 
 「優しい人」とは「真の強さを持ってる人」なのだと、心のすみずみまで染み渡るようにわかった。

 ああ、この物語に出てくるような人になりたいなぁ。
 生きているうちに、なれるんだろうか。
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■「大人は泣かないと思っていた」あらすじ



 時田翼は32歳の男性。
 田舎町の農協に勤めている。

 家族は年老いた父親一人。
 母親は昔、自由を求めて家を出た。

 翼が住む町は、とにかく男尊女卑の封建社会。
 人のプライベートにずかずか踏み込み、噂がすぐに広がる窮屈な世界だ。

 ある日、翼の父親が「家の柚子を盗まれている」と主張。
 父は、以前から気にくわない「隣の主婦」が犯人と断定し、怒りを募らせている。

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 その後、翼は柚子泥棒の犯人を発見。
 
 翼と犯人は、その後、意外な関係を結ぶことに・・・?
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■「大人は泣かないと思っていた」感想



 本書は7編から成る群像劇。
 登場人物それぞれの視点から、「窮屈な社会で生き方を必死に模索する姿」が描かれている。
 
 そこで強烈に感じるのが、「強そうに見けど優しくない人」は「弱い人」。
 「弱そうに見えるけど優しい人」は「強い人」ということだ。

 主人公の翼は線が細くナヨナヨしているが、とにかく優しい。
 周囲が何と言おうと決してブレない、「確固とした優しさ」を持っている。

 たとえば離婚経験があることを揶揄される人、母親の再婚で、勝手に複雑な家庭像をつくりあげられる人、結婚するつもりだった恋人を略奪された人。

 彼らは封建的な村落で「噂話の格好の餌」にされる。

 しかし翼は決して流されない。
 人の悲しみ、つらさを常に奥深くまで想像し、毅然とした態度で「周囲の悪意」から守り抜く。
 「強くなければ生きていけない。優しくなければ生きていく資格はない」を体現する態度を崩さず、生きていく。

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 その爽やかな姿、生き方には心底ほれぼれ。 
 久しぶりに「真のヒーロー」というものを見た。

 さらにこの物語には、「真のヒロイン」もいる。
 翼の親友の婚約者・玲子だ。

 常に背筋をピンと伸ばし、「隙がないからもてないよ」などとセクハラ発言をされる玲子。
 離婚歴があることで、偏見の目でみられる玲子。

 彼女はいたるところで尊厳を踏みにじられるが、「あること」をきっかけに、周囲を味方につけることに・・・?

 自分の信念を貫くこと、特に「純粋に人に優しくすること」を貫きとおすのは、簡単なようで難しい。
 
 たとえば「いじめ」を傍観したり、見てみぬふりしたりするのも、「優しくあることは非常に難しいから」だ。

 だからこそ、その困難を克服すれば、それまでの人生にない幸福が見えてくる。 
 翼や玲子の行く末を読めば、「優しさ=難しさ」という壁を突破することがどれほどの輝きをもたらすかがわかる。

 今現在「誰かを救いたい、誰かに優しくしたいけど、勇気が出ない」と悩んでるなら、ぜひ翼と玲子の姿を読んでみてほしい。
 必ず「エイッ」と一歩踏み出すことができる。

 「強くなければ生きていけない。優しくなければ生きていく資格はない」
 まっすぐな目でそう言い切れる人間に、きっとなれる。

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涙がポロポロと止まらなくなる、隠れた名作!「ミナトホテルの裏庭には」寺地はるな

評価:★★★★★

 「きれいな花が咲いている、って声に出して言うと、笑ったみたいな顔になるの。しかめ面しては、言えない言葉なの」
(本文引用)
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 「ダ・ヴィンチ 2017年1月号」で、「本読みのプロが選ぶ『とっておき』の今年の3冊」として紹介されていた小説。

 いわゆる「かくし玉」小説といったところでしょうか。
 
 皆が推薦する本もいいけれど、誰か1人が強烈に推している本もそそられますよね。

 「ミナトホテルの裏庭には」は一部のマニアの間で評価の高い小説なのですが、読んで納得。
 「ミナトホテルの裏庭には」を読んでいると、あれっ? あれあれあれっ? というように涙がポロポロとこぼれてきます。

 心が疲れてるのかなぁ?
 「ミナトホテルの裏庭には」の登場人物たちに「休んでいいんだよ」と頭をなでられている気がして、何だか涙が止まりませんでした。



 今現在、「もしかすると自分は疲れているのかもしれない」と思っていたら、ぜひ「ミナトホテルの裏庭には」を読んでみてください。

 体は大丈夫でも、意外なほど心が悲鳴を上げていたことに気づきます。

 そして、ミナトホテルの人たちが命の恩人に見えますよ。

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プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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