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「偽りの春」感想。ラストの「騙し」で全身電流走った!日本推理作家協会賞をとるはずだわ・・・。

評価:★★★★★

俺は殺人罪で起訴される。心臓が激しく鼓動し、体が震えはじめる。
 俺は――勝った!

(本文引用)
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 「これは推理作家協会賞、とるはずだわ・・・」
 本書のラスト、第5話を読み、思わずうなった。
 
 降田天さんといえば、「匿名交叉」が顎が外れるほど面白かった。
 そんな降田天さんが、この「偽りの春」で日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞。

 「えっ? ということはつまり『匿名交叉』より、さらに面白いってこと?」と、私の期待度はMAXに。 
 実際に読んだところ、顎が外れるどころか、全身に電流が走り、命すら危ういレベルの面白さだった。

 しかもこのミステリー、犯人じゃなくて警察官がイヤ~な奴。
 ミステリーを読みながら、警察でなく犯人を応援した経験は初めてだ。


 真実と犯人、そして何ともイヤらしい警察官。
 この三つ巴の勝負、最後に勝つのは誰なのか?
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■「偽りの春」あらすじ



 本書は5話からなる短編集。
 
 舞台は神奈川県神倉市。
 すべて神倉駅前交番勤務・狩野雷太が登場する。

 ここではとりあえず、表題作「偽りの春」をご紹介。

 水野光代はかつて郵便局に勤めていたが、好きな男に貢ぐため、顧客のお金を横領。
 出所後も高齢者詐欺などを重ね、常に汚い金と同居している。

 そんなある日、詐欺グループのメンバーがお金を持ち逃げ。
 いよいよ足を洗う覚悟を決め、土地を離れようとするが、ひとつだけやり残したことが。

 それは隣家の少年に、ランドセルを買ってあげること。
 光代は少年にランドセルを買ったら、土地を去ろうと決めた。

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 だが事態は急転。
 光代に一千万円を要求する脅迫状が。

 もう罪は犯さない・・・そう決めた光代だったが、裕福な老人に近寄り、仏壇から一千万円を拝借。

 その帰り、一人の警察官に呼び止められ・・・?

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■「偽りの春」感想



 日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞したのは、「あらすじ」で紹介した「偽りの春」。

 警察官・狩野のねちっこ~い追及と、次第にボロを出す光代。
 そして光代の行く手を阻むように、あちこちにちりばめられた「まさかの真相」。

 その意外性は「そんなあ!」と叫びたくなるもので、思わず光代を慰めたくなる。
 やはり悪いことはできないものなのだ。

 さてこう書くと、表題作「偽りの春」だけが面白いように見えるかもしれない。
 ところがどっこい。
 ラストの2話「見知らぬ親友」と「サロメの遺言」が、めっぽう面白い。
 ややネタバレになるが、この2話を続けて読むことで、「全身電流レベル」の衝撃が味わえるのだ。

 主人公・美穂は美大の学生。
 同じ大学に通う夏希と同居している。

 実は美穂は、夏希を疎ましく思っている。
 夏希は何かにつけて、美穂に甘え支配しようとする。
 それは夏希が、美穂の弱みを握っているからだ。

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 美穂は夏希との付き合いに疲れ、夏希を消すことを考える。
 そっと夏希のスマホに手を伸ばし、ある日時に「殺す」という文字が出るよう設定。
 
 しかしその前に、夏希は駅で殺されかける。
 その時、美穂は自宅にいたが、警察に疑われることに。
 
 だが、美穂のある一言で、犯人は別にいると判明。
 
 そして事件は、美穂と夏希だけで終わるものではなかった・・・。

 さてそこで、第5話だ。
 ある日、人気声優の女性が死亡。
 一緒にいた男はあらゆる痕跡を消し、その場を離れる。

 指紋も消し、犯行が映り込んでしまっているであろう隠しカメラも、しっかり押収。
 途中、本棚から本が崩れ落ちたが、もともとバラバラに置かれていた本だ。
 男はささっと本を棚に戻し、現場を後にする。

 数日後、案の定、警察官が男を訪問。
 男は起訴、拘留されることに。
 
 そこで明かされる、容疑者が本当に消したかった過去、本当のねらいとは?


 この結末、ミステリーを数多く読んだ人ほど腰を抜かすかも。

 本書の真相は、ミステリーの王道を逆走したもの。
 推理小説をたくさん読み、あらゆる「手」を知り尽くした人ほど、コロッと騙される。

 騙されないようにするには、徹頭徹尾、「犯人の思考・行動」の「逆張り」を考えるべきだ。

 いや、犯人どころか推理小説の「逆張り」か。
 被害者・加害者というくくり、「事件は隠すべき・疑いは晴らすべき」という固定観念を頭の中で粉砕しないと、とうてい真相には迫れない。

 推理力に絶対の自信がある人は、ぜひ第4話・5話に挑戦を。

 ヒントは警察官・狩野が、かつて「落としの狩野」とよばれた刑事だったこと。
 そしてスマホには、人間にはないちょっとした欠点があること。

 このヒントをもとに「ミステリーの王道を逆走、逆走!」と念じつづければ、謎がスルリと解けるかもしれない。

 まぁ私としては素直に、「全身ビリビリ級の騙し」を味わうのをお勧めするが・・・。
                                                                
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匿名交叉  降田天

評価:★★★★★

 ――私は多分、狂ってる。
(本文引用)
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「鋭いつもりだったんだけどな」


 物語終盤で、ある事実が明かされた瞬間、驚愕と共にこんな言葉を吐いてしまった。

 実は本書の中で、ある登場人物もこの言葉をつぶやいている。
 推理小説やどんでん返し小説に少々慣れている人でも、この事実にはなかなか気づけないのではないか。
 今考えると、なぜ気づかなかったのか不思議だが、そう思わせるところがこの小説のすごさだろう。



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プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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