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朱川湊人「なごり歌」感想。志村けんさんの訃報を聞き、涙しながら再読。

 「ゆっくり、ゆっくり・・・・・・全部ゆっくりでいいんですよ」
(本文引用)
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 志村けんさんが亡くなった。

 新型コロナウイルス肺炎は、「悪化するスピードが非常に速い」と聞いていた。
 しかし、まさかこれほどとは・・・。

 志村さんの訃報を聞き、猛烈な喪失感に襲われるとともに、改めて「新型コロナウイルス」の恐ろしさに戦慄した。

 そこで再読したのが、朱川湊人著「なごり歌」。
 「かたみ歌」とセットで語られる、亡き者を偲ぶ短編集だ。

 世の中に、故人を思う小説は数多ある。
 しかし「かたみ歌」と「なごり歌」ほど、「喪失の重み」を感じる小説は、そうそうない。

  
 気がつけばいつも、私たちを笑わせてくれた志村けんさん。
 幼稚園、小学校・・・そして大人になり子どもを持っても、笑いで支えつづけてくれた志村けんさん。

 そんな志村けんさんを喪い、茫然としている今、最もしっくりくる本が、この「なごり歌」。
 他の小説では、この喪失感を埋めることは、到底できないだろう。

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「かたみ歌」感想。「愛する人と会えなくなった。忘れるべき?」と思ったらおすすめ。

評価:★★★★★

誰かを護ろうという意思を持つ者は、きっと力強い姿でこの世に帰ってくる。
(本文引用)
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 愛する人と会えなくなった時、ふとこう思うことはないだろうか。

 前に進むには、忘れないと。

 しかし前に進むには、本当に忘れないといけないのだろうか。
 逆に、「忘れないからこそ前に進める」ともいえるのでは?

 もしあなたが、愛する人と会えなくなり、「忘れられない」と悩んでるなら本書がおすすめ。

 会えなくなっても、その人を思うことで、前に大きく踏み出せる。

 「かたみ歌」は、そんな励みをくれる短編集だ。


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  「かたみ歌」は7編から成る短編集。
 
 すべて、永遠の別れ・・・「死」にまつわる物語だ。

 ラーメン屋で起きた強殺事件、少年の命を脅かす謎の貼り紙、どうしようもない夫に悲観して無理心中を図る母親、詩の才能を夫につぶされ自死した女性・・・。

 こう書くと「ミステリー小説?」と思うかもしれない。
 「じゃあ、ホラー小説?」と思う人もいるかも。

 しかし本書はミステリーでもなくホラーでもなく、純粋なヒューマンドラマ。
 「死者と生者との交流」が描かれてるため、ファンタジー要素はあるが、ただただ純粋に「誰かを愛する」ということを描き切った人間ロマンだ。

 特に私が好きなのは、第一話「紫陽花のころ」。
 舞台は下町の商店街。
 ある若い男女がアパートに引っ越し、同棲を始める。

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 男は近隣を散策するが、そこである事実を知る。

 近所のラーメン店で強盗殺人事件が発生。
 殺されたのは店の主人で、妻と、重度の障害のある娘が遺されたという。

 男が現場周辺を歩いたところ、何やら不審な人物を発見。
 犯人はまだ捕まっていない・・・ということは、現場に戻ってきた犯人なのか?

 事実が露わになるにつれ、男女の仲にも変化が現れて・・・?

 本書の帯には「涙腺崩壊」と書かれているが、私は「紫陽花のころ」を読み、本当に涙腺が崩壊した。

 その理由は「誰かを思いつづけるということは、これほどまでに尊いものなのか」と頭を殴られたような衝撃を受けたから。

 そして「愛する人と会えなくなっても忘れる必要はないのだ」と、心の底から励まされたからだ。

 人が死ぬと、もう実際に姿も見えず声も聞けない。
 成長する姿も見られず、ともに何かを楽しむということはできなくなる。

 だからやはり、死は絶対的に悲しい。

 しかし時として死者は、生者に「生きていた時以上の何か」をくれる。
 生きている間にはわからなかった過ち、愚かしさ、幼さに、死者は気づかせてくれる。
 愛する人を置いて行った悔しさ、無念を心に抱えながら、生者をいつまでもいつまでも見守ってくれる。

 「紫陽花のころ」は、そんな「愛の永遠」を教えてくれるのだ。

 さらにそんな「永遠の愛の尊さ」が、若い男女の人生に一撃をくらわすラストが見事。

 私はその衝撃に、またまたはじかれたように涙が出た。

 死者は永遠に消えたわけではない。
 死んだからこそわかる真実を、生きる者に教え授けてくれる。
 現世に生きる「愛する人」を忘れることなく見守り、正しい道に誘ってくれる。

 死者はそんな役割を、永遠に担ってくれるのだ。 

 もしも今、「大切な人を忘れられず前に進めない」と悩んでるなら、ぜひ「かたみ歌」を。

 無理に忘れる必要はない。
 心に思いつづけることで、前に進めることもある。

 本書を読み、あなたがそう思えるようになった時、相手もきっと遠くで、あなたに笑顔を向けているだろう。
                                                                     
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「かたみ歌」を読んでから、この2曲を聴いたらますます涙が・・・。


花まんま  朱川湊人

評価:★★★★★

 たとえば鉄橋の裏側などに潜んでいるのは、孤独で哀れな妖怪ではない。きっとそこには何百何千何万の蝶たちが、そっと眠っているはずだ。
(本文引用)
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  小学校中学年のわが子は、ここのところグッと感情の機微といおうか心のヒダといったものが豊かになっている。

 楽しい話の合間合間に「いじめ」や「差別」等について真剣に自分の考えを語り、私に意見を求めてくる。
 そのたびに、私は全身全霊で向き合うようにしているのだが、時にそれが辛い時がある。
 それは、残酷で、恐ろしく思慮の浅かった子ども時代を思い出してしまうからだ。

 格別、誰かをいじめるとかいじめられたといった経験は多分ない。しかし、「あの時、ああすればよかった」とか「あの時、実は●●ちゃんは辛かったのではないか」などと思い出すと、その後悔の念に押しつぶされそうになる。
 しかし、勇気を振り絞って子ども時代を思い出し、追認しながら、次の世代に受け継いでいく。それが今の私の役割なのだ。そう思いながら、毎日子どもと話している。



 それに伴い、この小説を再読した。
 2005年に直木賞を受賞した、朱川湊人著「花まんま」。

 本書には、小学生ならではの心の傷や、小学生ならではの不思議な体験、そして大人が失ってしまった、小学生ならではの純粋な愛情が、情感たっぷりに描かれている。
 日々成長する小学生。本書は、そんな彼らのなかでどんどん形成されようとしている心のヒダや爆発しそうな感情を、全て受け止め包み込んでくれそうな名作だ。
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 本書は、6篇からなる短編集。主人公は全て小学生だ。

 近所の友だちが病気で死んで以来、町で幽霊騒ぎが起こる「トカビの夜」。
 不思議な生き物を育てながら、初恋の男性への思いを募らせる「妖精生物」。
 幼い妹が突然大人びた言動をとるようになり、その原因を探る表題作「花まんま」。

 昭和30~40年代の大阪の下町を舞台にした、セピア色の写真のようなノスタルジックな物語たちだが、隠されているテーマは時代を問わないものだ。
 民族や出自による差別や、大人の都合で振り回される境遇、それらの理不尽さに対する子どもたちの怒りや悲しみが、本書にはあふれている。

 なかでも強烈に印象に残ったのは、最終話「凍蝶」だ。
 主人公のミチオは、地域で差別されている。保育園でも小学校でも、子どもたちは親たちの指示で、ミチオとは遊んでくれない。
 そんななか、転入生のマサヒロがミチオと友だちになる。東京から来たマサヒロは、差別というもの自体を知らなかったのだ。
 二人は家を行き来するほど仲良くなるが、そんな日も長くは続かなかった。
 再び孤独になったミチオは、ある女性と知り合いになる。しかし彼女もまた、痛烈な孤独を味わっていた。

 個人的な話で恐縮だが、私も東京生まれの東京育ちということもあり、日本に「差別」があるということを全く知らなかった。
 高校時代に島崎藤村の「破戒」を読み、初めてそういうものがあるのを知り頭が混乱したほどだ。

 なので余計に、ミチオとマサヒロの関係の変遷には心を激しく揺さぶられた。子どもは残酷だというが、その残酷さを作っているのは大人ではないか! そんな怒りにも虚しさにも似た気持ちが嘔吐しそうなほど胸にうずまいた。
 そんな彼らの姿を、著者は冬を越す蝶に例える。「そんな美しいものに例えられるのか?」と疑問を持たれるかもしれないが、それは最後まで読めばわかる。彼らは確かに、春を待つ蝶なのだ。自力で自分の人生を舞う準備をしている、美しき蝶なのだ。

 子どもは皆、うららかな春を待つ凍えた蝶なのかもしれない。それを凍ったままにさせるか、春の太陽のもと飛び立つように送り出せるか。
 そんな、大人の責任をヒシヒシと感じずにはいられない6篇であった。

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プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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