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「あちらにいる鬼」感想。「モデルに書かれた瀬戸内寂聴も感動!」におおいに納得。

評価:★★★★★

 愛が、人に正しいことだけをさせるものであればいいのに。それとも自分ではどうしようもなく間違った道を歩くしかなくなったとき、私たちは愛という言葉を持ち出すのか。
(本文引用)
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 実話ベースの不倫小説。
 しかもモデルに書かれた人物が「傑作だ」と感動したという。

 「書かれた人物が感動する不倫小説って・・・いったいどんな本なのだろう?」
 もともと井上荒野さんの小説が好きなこともあり、私は表紙にドギマギしながらも読んでみた。

 読んで納得。
 不倫小説なのに、こんなに登場人物が堕落していてメチャクチャなのに、なんてキラキラ美しいんだろう。



 図らずも私自身が、猛烈に感動してしまった。
 胸を射抜かれるように、ズキューンと来てしまった。

 モデルにされた人物が、明らかにわかる内容のため、最初は「名誉棄損になるのでは?」とハラハラした。
 しかしこの物語なら、むしろその逆。
 
 名誉棄損どころか名誉挽回。
 ただ「あの人、不倫してたんだよ」などと言われていたところを、「こんなに純粋に、そして大きな覚悟をもって人を愛し、人生を真剣に歩んでいるのだな」と見直してもらえるのではないか。
 生意気な言い方だが、そう感じた。

 もしかすると「あちらにいる鬼」は不倫相手でも正妻でも、女たらしの夫でもなく、不倫を力任せに罵る「世間」なのかもしれない。 
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■「あちらにいる鬼」あらすじ



 長内みはるはかつて夫と娘を捨て、今は違う男性と暮らしている。
 しかしある日、作家・白木篤郎と出会う。

 そしていつの間にか、みはると篤郎は男女の仲になる。

 篤郎には美しい妻・笙子がいた。
 娘も二人いる。

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 笙子は篤郎の浮気癖をとっくに知っている。
 
 幼少期から「嘘つきあっちゃん」と呼ばれてきた篤郎は、巧みにみはるとの中を隠蔽しようとするが、笙子には全てわかっていた。

 そんなある日、予想もしなかった出来事が起きる。
 
 長内みはるが出家。
 髪を剃り上げ、尼となったのだ。
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■「あちらにいる鬼」感想



 冒頭で書いた通り、本書は思いっ切り実話ベースの小説だ。
 みはるは瀬戸内寂聴、篤郎は著者の父・井上光晴、篤郎の長女・海里が、著者・井上荒野である。

 本書は、みはると笙子、二人の視点から描かれる。
 そう聞くと、女性二人の憎悪劇に見えるかもしれない。

 しかし本書にそれは全くない。
 だから読んでいて、不思議なほどに気持ちがよい。

 不倫小説なのに、こんなに純粋に「美」を感じてしまっていいの?
 不倫小説なのに、こんなにのめりこんで読んでしまっていいの?
 不倫小説なのに、こんなに素直に涙を流してしまっていいの?
 
 本書を読んでいる間、そんな「背徳感」が心を占めたが、その「背徳感」は人生の財産となるだろう。

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 どうしようもなく人を愛してしまうこともある。
 それをどうして止められようか?
 自分であれ、他人であれ、その気持ちにどうして無理やりストップをかけられようか?

 「正論」からはずれたところに、人間の生命の輝きがある。
 「あちらにいる鬼」は、不倫を決して正当化することなく、「不倫なんてないに越したことはない」というスタンスをあくまで保ちつつ、不倫を通して人生の素晴らしさを描いている。

 決して真似したくはないが「ああ、こういう人生もあるのだ。こういう美しい生き方もあるのだ」と知ることができたのは、間違いなく私のなかで宝物となった。
 
 本書によると、著者は少女時代から文才を発揮していたようだ。
 「あちらにいる鬼」を読めば、それも納得。

 人の道からはずれたことを書きながら、ここまで心にスッとしみわたる物語を書いてしまうのだ。

 井上荒野さんは紛れもない天才!

 本書を読み、再認識した次第である。 

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井上荒野「ママがやった」感想。なぜママはパパを殺したのか。破綻した家族のハチャメチャな結末とは?

評価:★★★★★

こういう男は早死にするのかもしれない。いや、こういう男は、とっとと誰かが殺してしまうがいいのだ。
(本文引用)
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 「ママがやった」の副題は「MAMA KILLED HIM」
 聞いた瞬間、「ボヘミアン・ラプソディか!?」とツッコミを入れてしまった。(♪Mama~, just killed a man)。
 
 いえいえこちらは、ママが男を殺した話。
 QUEENは「ママ、僕は人を殺めてしまった」と嘆いているが、本書はママが人を殺める話。
 
 半世紀以上連れ添った夫を殺し、平然としているママと、とんでもない一計を案じる家族の物語である。

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■「ママがやった」あらすじ



 百々子は79歳、7歳年下の夫がいる。
 長女の手を借りながら、小料理屋を営んでいる。
 
 ある日、末っ子の創太が電話をすると、百々子は「ちょうど電話するところだった」という。

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 百々子の用件とは、夫を殺したこと。
 酔いつぶれていたところを窒息死させたのである。

 現場にはすでに、創太の姉二人も待機。
 呆然とした子どもたちを横に、百々子は平然とお米を研ぎ始める。

 そして百々子は言う。

 「ママはいいわよべつに、刑務所に入ったって」


 しかし娘たちは引き止める。
 当の母親はのんびりとした思案顔。

 いったいなぜ百々子は夫・拓人を殺すに至ったのか。
 
 そして家族が達した結論とは?
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■「ママがやった」感想



 まーーー、よくもここまで破綻した一族を描けるものだ!
 百々子の家族は家族そろって、良く言えば自由奔放、普通に言えば「だらしがない(特に「性」に関して)」。
 
 殺人は断じていけないが、何が起きても不思議ではない一家である。

 本書は8話からなる連作短編集。
 一話ごとに、百々子一家の歴史を遡り、「なぜママはパパを殺すにいたったか」をつぶさに追う。

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 はっきり言って、拓人をはじめ子どもも孫もかなりどうしようもない人間ばかり。
 
 長女は相手を変えては不倫と二股を続け、堕胎すること数回。
 ついには二人の男から同時に、堕胎手術のお金をせびる。

 次女は比較的まともだが、孫娘は周囲を顧みない気まぐれ娘。
 
 そして殺されたパパ・拓人は恋愛狂で、死ぬまで若い愛人を絶やさなかった。

 最終章では百々子と拓人のなれそめに触れているが、これも一悶着、二悶着ある衝撃のエピソードだ。
 
 私はかなり真面目に生きてきたほうなので、「こんな人いるの!?」と目玉が飛び出る思いで、時には反吐が出そうな思いで文字を追った。

 しかしこれが不思議と不快ではない。

 人格の破綻した者同士だからこそ、互いを信じ、許すような愛が感じられる。
 「普通」の感覚ならとうてい許されないであろう行動が、不真面目さゆえに、深い愛で許されている。

 理想的な生活ばかりが愛ではない。
 ぶっ壊れた生活のなかだからこそ、育める愛、許せる愛があるのだと、何だか妙に温かい気持ちで読むことができた。
 
 とはいえ、結果的にママはやってしまった。
 半世紀も目をつぶってきたのに、ママはやった。

 つまりは、どんな家族にも、どんな人にも「許せないもの・譲れないもの」があるということ。
 踏んではいけない地雷があるということ。
 どんなに破綻した人々にも、「最後まで残るまともさ、プライド」というのはあるものなのだ。

 しかしさすが井上荒野の作品。
 そうは問屋が卸さなかった。

 「何だ、案外まともなとこ、あるじゃん!」と思いラストに差し掛かった頃、百々子たちはとんでもない所業に・・・。

 小説としては面白いが、本当にこんな人がいたら・・・絶対関わりたくない!!

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綴られる愛人  井上荒野

評価:★★★★☆

 そうね、手紙って、なかったことにできない。それが手紙の独特な性質であって、運命でもあるんじゃないかしら。
(本文引用)
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 日経新聞読書面(2016/11/20)で絶賛されていたので、読んでみた。
 一言でいうと、恋愛小説だ。しかし、これほど歪み捻じ曲がり騙し騙される恋はなかなかない。そして、これほどストレートで純粋な恋もなかなかない。

 濁りに濁った泥水が、時間が経つうちに透明な水の部分ができてくるような、そんなおぞましくも美しい恋の形が、ここにある。
 こんな恋愛をする人は滅多にいないだろうが、恋愛の真髄みたいなものが、この物語には見え隠れしている。

 「そうか、だから人は恋をすると臆病になるのか!」

 思わず、そう膝を打ってしまった。



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プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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