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「植物図鑑」感想。「恋にうつつをぬかすな」と言われたら、親御さんにぜひ読ませてみて!

評価:★★★★★

たったの一つでも花は毎年咲くというのに――自分はイツキに一体どれだけ花や野草の名前を教え込まれただろう!
 こんなにたくさん刻み込まれたら、きっと一生忘れることなんてできない。

(本文引用)
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 一度でも恋をしたことがあるなら、共感必至。
 「そうそう! 結局、恋の楽しさってこういうことなんだよね!」と、首がもげるほどうなずいてしまうだろう。

 「植物図鑑」は映画化もされたベストセラー。
 人気の秘密は、恋をしたことがある人なら皆「そう、そうそうそうそうそう!」と共感できるから小説だからだ。

 恋はつらいこともたくさんあるが、それ以上に楽しいこと・嬉しいことがいっぱいあるもの。
 
 好きな人と一緒に歩く、一緒に美味しい食事をする、同じ映画を観て泣いて笑う。
 恋の楽しみはいろいろあるが、実は「恋の楽しさ」はもう一個ある。


 その「もう1個」が、恋のメリットベスト1
 そして「植物図鑑」には、「恋のメリットベスト1」がはちきれんばかりに描かれている。

 本書を読めば「恋は人生に不可欠なもの」とよくわかる。

 もし現在、誰かに恋することを親に止められてる人は、本書をすすめてみよう。
 「勉強も大事だが・・、うむ、恋も大事だな、うん」と親御さんは納得してくれるはずだ。

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レインツリーの国  有川浩

痛みにも悩みにも貴賤はない。周りにどれだけ陳腐に見えようと、苦しむ本人にはそれが世界で一番重大な悩みだ。
(本文引用)
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 今秋11月、映画「レインツリーの国」が公開される。初めてこの小説を読んだ時、「20年ぐらい前にトム・ハンクスとメグ・ライアンが演じてくれていたら、最高だな」なんて思ったものだ。

 要するに、それぐらい純粋でまっすぐな恋愛小説。

 刺激的でなくてもいい。静かに誰かにときめきたい、ひたすら誠実に誰かを愛したい、好きな人を大切にしたい。そんな小さくも温かいドキドキを味わいたい人には、とびきりお薦めの小説だ。
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 主人公の伸行には、忘れられない小説があった。


 それは10年前、中学時代に読んだライトノベルだが、ラストがどうにも納得がいかないものだったのだ。

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旅猫リポート 有川浩

 僕らは旅の思い出を数えながら、次の旅へと向かうんだ。
 先に行ったひとを思いながら、後から来るひとを思いながら。
 そうして僕らはいつかまた、愛しいすべてのひとびとと地平線の向こうで会うだろう。

 (本文引用)
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 「こ、こんな物語で泣くもんか。泣くもんか。な、泣くもん・・・か~~!」

 号泣。

 また有川マジックにやられてしまった。

 当代随一のストーリー・テラーが放つ今回のテーマは、「旅」。
 1人の青年が、愛猫の新しい飼い主を探すために、かつての同級生達と再会する物語だ。

 一緒に捨て猫を拾った幼なじみ、お互い複雑な境遇のなか、共に農作業に従事した中学時代の悪友、ちょっぴり甘酸っぱい三角関係だった高校時代の友達夫婦・・・。


 銀色のワゴンに乗った1人と1匹は、カーステレオで「オリーブの首飾り」を聴きながら、「俺のお母さんが好きだったんだよ、ポール・モーリア」「うん、悪くないよ。ハトとか出てきそうで猫的に楽しいし」などと会話をしながら、日本各地を巡っていく。

 そして最後にたどり着いた先は・・・。
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 最終章で、この旅のもうひとつの、いや、本当の目的に気づいたとき、一瞬足元が激しく揺れた。

 「まさか、この旅は、そのために?」

 本書に向かって何度もそう問いかけ、そうするうちに喉の奥にどんどん重い石が詰まっていき、崩れ落ちるように泣いた。

 あまりにも涙が止まらないため「涙というものは、いったいどこから来てどこへ行くのか」と、私は猫と青年だけでなく、自身の涙の旅路まで案じてしまった。
 そして悔しい。何で泣く準備をしておかなかったのか、と。

 しかし後で振り返ってみると、この物語の広野には、真相に向けたヒントがあちこちにちりばめられていた。
 
 猫を手放す理由として、「暮らしていけなくなった」と言ったこと、
 他の友人に猫を手放す理由を聞かれて困った顔で黙り込んだこと、
 そして友達夫婦の奥さんが「預かるだけだと思ってるから」と言ったこと・・・。

 著者から投げられたこれだけのヒントに、気づかなかった私が馬鹿だったのだろう。
 しかしいい年をして、この真相を見抜けなかった自分の単純さが、今はなぜか嬉しい。
 そしてこの物語に泣ける感性を、いまだ自分がもっていたことに、喜びを感じて仕方がないのだ。

 良い本というものは、読者に新しい気づき、なかでも「新しい自分自身の姿」を発見させてくれるものだと常々思っているが、この本はまさにそうだった。
 完敗であり、乾杯だ。

 ちなみにこの本、表紙カバーが「猫と青年の写真がコルクボードに貼られている」というデザインなのだが、カバーをめくれば何とまあ、猫と青年の歩みを描いたイラストが所狭しと飾られている。

 さすが有川作品、細かいところまでサービス満点だなあ・・・などと感動しながら、そこに映る青年と猫の姿にまた、声を殺して泣くのである。

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他の有川浩作品のレビュー→「県庁おもてなし課」
                   「ヒア・カムズ・ザ・サン」
                「三匹のおっさん」
                     「三匹のおっさん ふたたび」

「三匹のおっさん ふたたび」

 「これはこの前、君たちが盗ろうとした漫画だ」
 井脇が事務机の上に置いてあった漫画を手に取り、中学生たちに向けて裏を返した。
 「税込み四百円。これを一冊売って、おじさんの店はいくら儲かると思う?」

(本文引用)
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 さて、前回「三匹のおっさん」をご紹介したが、あまりの面白さに「三匹のおっさん ふたたび」をすぐに買ってしまった。
 すでにドラマ「三匹が斬る!」のようなシリーズ化の様相を呈しているが、まだまだ三匹の活躍が見たい!という読者の方が多かったのであろう。私もその一人だ。

 そうして手に取った、この「ふたたび」の表紙を開いてみると、何と登場したのは漫画!
 元祖「三匹のおっさん」から表紙イラスト・挿絵を担当されている須藤真澄氏による、元祖編のダイジェスト漫画である。
 さすが「おもてなしマインド」満載の有川作品。
 ハイライトシーンのみとはいえ、第一巻のストーリーを漫画で読むことができるとは、何とも嬉しいサービスだ。


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 さてストーリーはどうかというと、今回は、三匹を取り巻く家族たちの物語が中心となっている。
 
 「働いたこともない甘ったれ女」と、元祖「三匹~」で散々言われ続けた清一の嫁・貴子が、改心して始めたパート先で思いもよらないトラブルに巻き込まれる。そのとき、おっとりとしたお嬢さんだった貴子がとった驚きの行動とは・・・?

 他にも、
 おっさんの再婚話、おっさんの息子たちの複雑な思い、孫や娘の大学受験
 ・・・と、元祖編ではどことなく頼りなかった家族たちが、この続編で様々な人生の壁に直面し、たくましく成長していく。

 そして、三匹の本拠地である地域の人々の素顔も、この続編では垣間見ることができる。
 
 商店街でのお祭を再開させるために、寄付金集めに奔走する男たち。
 ゴミの不法投棄を続ける、ごく一部の非常識な住民。
 少年たちの万引きに頭を悩ませる書店店主。

 ・・・いかにもありがちな地域の問題に、今回は「三匹のおっさん」だけでなく住民たちも共に向き合い、知恵を出し合っていく。
 その様子は、以前NHKで放送されていた「近所の底力」を見ているようで、エンタテインメントとしてだけでなく、お役立ち情報としても非常に楽しめる。
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 さらに見ものなのは、「偽三匹のおっさん」の登場。
 ヒーローになりたいがために、無実の市民までをも強引に犯罪者扱いをする勘違いトリオだ。
 本物の「三匹のおっさん」のファンである者にとっては、非常に腹立たしい存在であるが、それが「地域の守り方」の本質を改めて問うきっかけとなっている。コメディでありながら、実にオトナなストーリーなのだ。

 というわけで、続編ということで飽きてしまうかな?とも心配したが、それはまったくの杞憂であった。

 それは、元祖編と解決方法が違うためであろう。

 「三匹のおっさん」では、おっさんたちが快刀乱麻のごとく事件をバッサバッサと斬っていく爽快さを楽しんだが、この「ふたたび」はちょっと違う。
 ただ犯人を捕まえるというだけでなく、犯人に対し、どこまでも長く温かい目で「ことの重大さ」をじっくりと教えている。対症療法ではない、根治を目指した解決法といえ、非常に説得力のある結末となっている。これでは飽きてしまうわけがない。

 最後に、有川浩氏は「本を買うことは、未来の本、未来の作家への投資」と書かれている。
 どうやら、私はおっさんたちだけでなく、有川氏にも長く温かい目で人生を諭されてしまったようだ。
 そう、この作品には、人生を導いてくれるヒーロー・ヒロインが何匹も隠れているのである。

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他の有川浩作品のレビューはこちら→「ヒア・カムズ・ザ・サン」
                         「県庁おもてなし課」
                        「三匹のおっさん」


「三匹のおっさん」

「まだまだおっさんの箱に入っときたい俺としてはだ、暇な時間をただ流してちゃなまっていくだけだと思うわけだ。そこでよ」
重雄はニヤリと笑った。
「『三匹の悪ガキ』のなれの果ての『三匹のおっさん』どもでよ、私設ボランティアでもやってみねぇか」
(本文引用)
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 先日、朝起きると、何と家の前に「犬の落し物」があった。
 通勤・通学の人たちの足を汚さぬよう、渋々私が処理をしたが、その間、腹が立って仕方がなかった。
 と同時に、こうも思った。

 「あの3人組がいてくれたら・・・」

 その3人組とは、今、最も世間を賑わせている正義の味方。
 若くもイケメンでもない、還暦を迎えた「いぶし銀」の男たち。
 書店で、その姿を見かけた方も多いのではないだろうか。

 今や当代随一の人気作家となった有川浩が放つスーパーヒーロー、「三匹のおっさん」である。


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 清一(キヨ)、重雄(シゲ)、則夫(ノリ)は、還暦を迎えた幼なじみ三人組。
 大手建設会社や自営の店などでバリバリ働いてきた彼らだが、お互い定年退職や事業の承継などで、徐々に社会から取り残されつつある。

 しかし、今どきの60歳は若い。

 「ジジイ」と呼ばれるには、ちと早い。俺たちはまだまだ「おっさん」だ。引退なんて真っ平御免。
 かくして、かつての「三匹の悪ガキ」は、武道の腕と抜群の知能とを結集させて、私設自警団「三匹のおっさん」を結成する。
 
 そんななか、地元では様々な事件が巻き起こる。
 ゲームセンターの売上金強奪、女の敵に結婚詐欺、動物虐待にマルチ商法・・・。
 耳を塞ぎたくなるような凶悪事件に、果たしておっさんたちはどう立ち向かっていくのか?
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 ベストセラーランキングのトップに立つだけあり、まず文句なしに面白い。

 正義の味方を描く物語など、ともすれば子供じみたものになりそうだが、大人でも十二分に楽しめる小説になっているのは、緻密な状況設定のなせる技だろう。
 娯楽施設の知られざるしくみ、裏社会とのつながり、詐欺のカラクリ、地域や学校の盲点、人々の心の隙間・・・。
 徹底的に取材したと思われるそれらの描写と、暴かれる事件の真相は、本格ミステリー小説も真っ青になるほど。
 それが軽妙洒脱な文章と合わさると、こんなに心が弾み、こんなに心にしみる味わい深い作品になるのか・・・と目の覚める思いだった。

 さらに3人組を取り巻く、家族たちの物語もなかなか読ませる。
 気が利くようでいて、その見当違いぶりが小賢しさに映ってしまうお嬢さん育ちの嫁。
 それをとりなせない頼りない息子。
 夫から「ババァ」扱いされ、その寂しさから小さな恋心を起こす妻。
 家事を一手に引き受けるが、「しっかり者」のラベルを貼られるのを嫌がる娘。

 そして、忘れてはいけない清一の孫・祐希。
 この、派手に髪を染め、ポケットからチェーンをジャラジャラいわせる高校生・祐希の活躍ぶりが、何とも微笑ましい。厳格な清一を邪魔に思いながらも、いつの間にか正義の味方に引き入れられている心根の優しさと見事な機転は、世の男子たちを見る目が変わってしまうほどだ。ああ、何て頼もしい!

 そんなこんなでページをめくる手が止まらないまま、最後の一行を読み終えた後、「この3人組がいてくれたらなぁ・・・」という気持ちが心から湧き上がった。

 しかし考えてみると、毎晩「火の用心!」と拍子木を鳴らしながら回っている近所のおじさんたちも、何匹(失礼!)かはわからないが正義の味方なのだ。
 会うたびに笑顔で挨拶をしてくれるおじさんの姿も、不審者を遠ざけるのに一役買っているはずだ。
 そう、「三匹のおっさん」は案外近くにいるのだ。

 「これからは、もうちょっと地域に協力してみるか・・・」

 そんな気持ちにもなれた、有難い一冊であった。
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他の有川浩作品のレビューはこちら→「ヒア・カムズ・ザ・サン」
                        「県庁おもてなし課」


「ヒア・カムズ・ザ・サン」

  思いがいびつにすれ違ってしまっているこの不思議な家族に、「余分な」気づきを持っている自分が立ち会ったことは、もしかすると運命かもしれない。
 カオルのために、彼らのためにもしもこの力を使えるのなら、もう少し自分を前向きに認めることができるような気がした。
(本文引用)
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 この1冊には、2つの物語が収められている。

 それらはいずれも、「物に触れるだけで人の記憶が見える特殊能力をもった男性編集者が、恋人の父親を成田空港まで迎えに行く」という、あらかじめ用意された「7行のあらすじ」から広げられた物語である。

 なぜ2編あるのかというと、小説版と舞台版があるからだ。

 この7行のあらすじから、小説家有川浩と劇団キャラメルボックスの脚本・演出家成井豊が作品を作ったらどうなるか。

 それを実現させたのが、この「ヒア・カムズ・ザ・サン」「ヒア・カムズ・ザ・サン Parallel」であり、前者が小説版、後者は舞台版に加筆されたものである。


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 主人公は、出版社に勤める30歳の男性編集者・古川真也。
 彼は幼少時から、物に触れるだけで持ち主の感情や記憶を鮮明に見ることができるという超能力をもっていた。
 そのために、誰よりも周囲の気持ちを汲み取るのがうまく、作家と編集者の間でトラブルが起きた際には、その能力を駆使して解決することもある。
 しかし真也は、この能力により自分は「ずる」をしていると後ろ暗さを常に感じている。

 そんな真也の恋人は、同じ出版社に勤めるカオル。
 いつもひた向きな姿勢で仕事に打ち込み、誰からも好感をもたれるカオルだが、実はある事実を隠して生きていた。

 「大ヒットドラマを手がけた脚本家の父が、アメリカで暮らしている」

 そしてその父親が、アメリカから20年ぶりに帰国するという。

 空港のロビーで待つ真也。
 そこに現れた父親の姿とは・・・?

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 以上がこの2編に、だいたい共通した物語のパーツである。
 そしてここから、真也・カオル・カオルの父親の3人を軸とした2つの物語が別々に展開されていくのであるが、これが実に巧みだ。

 まず驚いたのが、登場人物が同じであるにもかかわらず、この2編が全く別の物語として、独立した面白さを十分にもっているということだ。

 1編目を終えて2編目の「Parallel」を読み始めたときには、編集長や同僚等いずれも濃いサブキャラクターが変わっていたことに戸惑いと寂しさを感じたが、そんなことはすぐに忘れてしまった。
 両方とも、他の一編を忘れさせるほど強烈な輝きを放っており、「一粒で二度おいしい」お得感のある一冊に仕上がっている

 しかしそれでは、1冊に収めた意味がないのではないか?
 
 そう思いそうなところだが、やはり、これは1冊でなければならない。
 それは、1+1が2より大きくなるシナジー効果が、この本には発揮されているからだ。

 別々の物語とはいえ、主な登場人物たちの性格はほぼ同じである。

 人の気持ちを汲むのに長けている真也は、どこまでも思いやり深く、
 カオルはどこまでも一生懸命で、でもどこか拭い去れない陰があり、
 父親は成功者であろうと失敗者であろうと破天荒で不器用で、
 その妻・輝子は夫を包むひだまりのような温かさをもつ・・・。

 2編を通してこのキャラクター設定がぶれていないために、各登場人物たちの別の側面を、それぞれの物語で味わうことができる。

 この長所をもっているがために、こんな苦労がある。
 一歩違う道を選んだがために、同じ人間でもこれだけ人生がこじれてしまう。

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 人生とは、ほんの1つボタンを掛け違えただけで、ガラリと違うものになるということを突きつける圧倒的な力強さをこの本はもっており、それは1冊に2編収めた故の効果であろう。

 たった「7行のあらすじ」から、うまく生きられない人間たちを生き生きと浮かび上がらせ、豊かな愛情をもって人生の艱難さと面白さを伝えてくれた有川浩氏。


 これからも有川ワールドからは目が離せない、と感じさせてくれた一冊であった。
 
(ところで、作中に出てくる愛猫家の作家とは内田百であろうか?「ノラや」を彷彿とさせる内容だったので・・・。)

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この作家の他作品のレビューはこちら→「県庁おもてなし課」

「県庁おもてなし課」

「おもてなしマインド」
ーたどり着いた、と思った。
 この言葉にたどり着くために今までのあがきはあったのだと思った。

(本文引用)
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この本を、どのカテゴリーに入れればよいのか、非常に迷った。
 「ダ・ヴィンチ」BOOK OF THE YEAR 2011で、総合ランキング第1位、そして「恋愛小説ランキング」第1位・・・とされてはいるものの・・・

 「これは小説なのか?ノンフィクションなのか?恋愛小説なのか?ビジネス本なのか?」と、私の頭はクラクラした。

 この本は、言ってみれば、
 「最高にファンタジックなノンフィクション」であり、
 「驚くほどリアリティをもったフィクション」であり、
 「仕事に役立つ恋愛小説」であり、
 「ちょっと頬が紅潮してしまうビジネス本」なのである。



とにもかくにも、現実と虚構、それぞれの面白さをたっぷりとすくい上げた極上の「おもてなし」本であった。

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 舞台は高知県。そして主人公は、その県庁観光部に実在する「おもてなし課」の面々だ。

 「観光立県を目指す」とのコンセプトのもとに、県外から来た旅行者をもてなすために組織された「おもてなし課」。

 しかし、何をするにも手続き、手続きで政策は遅々として進まず、その政策自体も空回り。
 そして、「おもてなし課」の職員自身がそのことに気づいていないという体たらくである  

 そんなある日、おもてなし課の電話が鳴った。
 電話の相手は、ひと月前に観光特使を依頼した、県出身の人気作家である。
 作家は言った。

 「具体的にあんたたちがこの一ヶ月で損したことを教えてやるよ」

 そこから、錆びついていた「おもてなし課」の歯車は、一気に回りだす。
 
 さあ、どうなる、「おもてなし課」!?どうなる、高知県!?
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 どうすれば、人々を喜ばせることができる?
 どうすれば、好きな人を泣かせずに生きることができる?
 
 そんな仕事と恋愛を絡ませながら、グイグイ読ませるスピード感あふれる作品だが、途中から、なぜか読むスピードが落ちてしまった。
 なぜなら、ずっとこの本に浸かっていたいような・・・それは、超高級ホテルに泊まって夢か現かわからなくなっている・・・そんな気分になったからだ。

 この作品、実は終盤に近づくにつれて、「なぜこの小説が書かれることになったのか」という、作品の根源に関わる重大な秘密が明かされる仕掛けとなっている。

 そして、気づく。

 「もしかして、一番もてなされてるのって、私・・・?」 
 
 そう、いつの間にか私自身がこの本を訪れた観光客となり、有川浩さんを課長とした「おもてなし課」の方々から至高のおもてなしを受けていたのだ。
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「おもてなしマインド」
―たどり着いた、と思った。


 ストーリーの面白さに加え、巧妙な構成、そしてそこにたどり着くまでの、この小説に関わった人達の熱意と温かさとユーモア。

 まさにこの小説こそ「おもてなしマインド」そのもの!

 おもてなしが、ここまで人を幸せな気持ちにしてくれるとは・・・。
 これから仕事や人間関係に行き詰りそうになったら、都度読み返してしまいそうな・・・いや読み返すべき作品といえるだろう。
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 今年は明るい年にしたい、と願う方も多いのではないだろうか。

 「県庁おもてなし課」-これは、そんな願いが込められた新しい年の幕開けにふさわしい一冊である。

 (・・・というわけで、あけましておめでとうございます。
  今年もよろしくお願い申し上げます。)

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プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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