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「駅までの道をおしえて」感想。満足度200%の名作短編!大切な人を永遠に失った人だけ「見えるもの」とは?

★「駅までの道をおしえて」は、こんな人におすすめ!

●つらい死別をした人。
●「つらい死別をした人」の気持ちに、寄り添いたい人。
●大切な人の死を信じられずにいる人。
●「短時間で泣ける小説」をお探しの人。
●お腹いっぱいに満足できる短編を読みたい人。

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 「本当なんだ。今は遠くに行ってるだけできっと帰ってくるんだよ」(本文引用)
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 映画公開中の「駅までの道をおしえて」
 
 つらい死別をした人は、涙なしでは読めないだろう。

 なぜなら「駅までの道をおしえて」は、「死別した人の気持ち」を驚くほどそのまま描いてるから。

 私など本書を読んだ時、思わずこう叫んだほどだ。

 「これ、父が死んだときの母と、同じことを言ってる!」
 
 大切な人と死別すると、どんな気持ちになるのか。
 大切な人と死別すると、今まで見てきた風景はどう変わるのか。


 そんな疑問を持ったら、ぜひ「駅までの道をおしえて」を読んでみてほしい。

 「経験者にしかわからない気持ち」というものが、本当にこの世にあるのだと、思わず瞠目する。

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「琥珀の夢 ~小説 鳥井信治郎~」感想。クリスマス・お正月のお酒がグッとおいしくなる一冊!

評価:★★★★★

同じ人間がこしらえたもんやないか。それが同じ人間のわてにでけんはずはない。 
(本文引用)
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 年末年始はお酒を飲む機会が増える。
 そこでお薦めなのが、「琥珀の夢」。
 
 サントリー創業者・鳥井信治郎の生涯を描いたノンフィクション小説だ。
 
 「赤玉」「山崎」「角瓶」、そして「プレミアム・モルツ」はいかにして生まれたのか。

 その味に行き着くまで、どれほどの苦労と情熱、喜びと悲しみがあったことか。

 本書を読めば、お酒の味がググーッと深くなる。
 
 上司から「ずいぶんおいしそうに飲むねぇ」なーんて、好感度が一気に上がるかもしれない。

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■「琥珀の夢」あらすじ


 
 舞台は大阪。
 明治12年の年明け、ある両替商のもとに一人の男の子が産まれる。





 男児は信治郎と名づけられた。

 信治郎は次男で、跡を継げない身分。
 薬種問屋に奉公に出され、そこで目端の効いた働きをみせる。

 奉公先の主人は薬の商いに加え、洋酒・ビール造りにも挑戦していた。

 好奇心の強い信治郎は、いつしか自分も洋酒造りの夢を見るようになる。

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 しかし洋酒を商売とするには、手ごわい敵が。

 すでに洋酒業界では、鉄壁のブランド力をもつ企業がいたのだ。

 その企業がつくる葡萄酒に、信治郎は衝撃を受けるが・・・?
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■「琥珀の夢」感想



 本書を読んだ第一印象は、まず「非常にまじめな本」ということ。
 誇張や余計なエピソードを極力省き、「夢」に向かって一直線に進む人を、一直線に描いている。
 鳥井信治郎氏をはじめ、氏を囲む全ての人に対する「敬愛の心」が、本書にはあふれている。

 本書を読むと、お酒が余計においしく感じられるのは、たぶんそのせい。
 酒造りへの真摯な気持ちを、美しく透き通る琥珀のようにストレートに描いてるから、本もお酒ものど越しが良く感じられるのだ。

 だから宴会前に、本書は必読。
 読むのと読まないのとでは、味・深みが断然違ってくるだろう。

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 そして信治郎の幼少期を知ることで、サントリーの活動が、より興味深く見えてくる。
 サントリーホールの建設や、奨学金事業になぜ取り組んでいるのか。
 しかも奨学金を受け、世界的研究者になった人物が礼を言っても、「援助したことを否定した」のはなぜか。

 少年時代の信治郎をたどれば、それがありありと見えてくる。

 特に母親・こまの教えに注目。
 信治郎に対する母親の愛・助言は、サントリーという企業の礎を作ったと言えるだろう。

 さらに注目したいのは、意外な人物とのつながり。
 ある日、信治郎の店に、一人の少年がやってくる。
 自転車屋に奉公していた少年が、超高級自転車を納めに来たのだ。

 この少年は信治郎の店の葡萄酒にウットリ。
 その様子を見た信治郎は、「見どころのある少年」と認めるが・・・?

 さてその少年、実際本当に見どころのある人物だったのだが、いったい誰か。

 あの「マッサン」こと竹鶴政孝氏との関りも読み応えあり!

 (※「琥珀色の夢を見る 竹鶴政孝とニッカウヰスキー物語」のレビューはこちら

 「えっ?あの人とあの人がこんなところで!?」と意外な事実を知れるのも、本書の醍醐味だ。

 年末年始、おいしくお酒を飲みたい人、飲みながら、誰かに言いたくなる話をしたい人に、本書はおすすめ。
 いつもよりちょっと楽しいクリスマス・お正月を、必ず過ごせることだろう。
 
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ノボさん 小説 正岡子規と夏目漱石  伊集院静

 漱石は以前聞いた、或る話を思い出した。
 「これは山に登る人から聞いたんだが、山登りというのは、その山が高ければ高いほど途中の道は下りが多いそうだ」
 子規は漱石の顔をじっと見ていた。

(本文引用)
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 本を読みながら、これほど泣いて泣いて泣いて、そして励まされたのは何年ぶりだろう。

 その秘密は、すでにこの表紙が教えてくれている。
 
 青い空に白い雲、そして時に休みながら、眼下の風景を眺めながら、山を登り続ける人々。
 そう、この小説に登場する人物は、いずれも錚々たる登山家たち-ピッケルの代わりに筆とペンを持ちながら命を削る、人生の登山家たちなのだ。
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 時は明治中頃。主人公・ノボさんこと正岡升(のぼる)は、幼少時から学問殊に文才に優れ、東京大学予備門(一高)に合格。愛媛から、夢にまで見た東京に降り立つ。そこでノボさんは詩文や俳句の創作、編纂に没頭する。


 そんなある日、ノボさんは一人の秀才と出会う。
 名前は夏目金之助。ひょんな会話から馬が合うことを悟った二人は、後にかけがえのない友となっていく。
 しかし結核や脚気で若者が死んでいく時代、いつの間にかノボさんの体も病魔に蝕まれ、ある日ついに大喀血をする。

 そこで、ノボさんは言う。

「時鳥が血を吐くまで鳴いて自分のことを皆に知らしめるように、あしも血を吐くがごとく何かをあらわしてやろうと決めた。それで子規じゃ」


 俳人・正岡子規誕生の瞬間であった。
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 この物語を読み、最も衝撃を受けたのは「死があまりに身近であること」と、それに連なる「鬼気迫る生き方」だ。

 抗生物質もなく、大病にかかれば休養と栄養をとるしかないとされた時代。子規の周囲の若者たちは様々な病で人生の幕を閉じる。なかには世を儚みピストル自殺を遂げた者もいるが、多くは病で夭折している。
 桶からあふれるほどの喀血、背中から漏れる膿、動かぬ足・・・。普通に考えれば、病を治すことに集中すべきだと思うだろう。
 
 しかし、彼らは違う。どう考えても無理、といおうか無茶をしているのである。
 それは何も彼らが「これぐらいなら大丈夫」と楽観視しているわけではなく(多少その様子もあるが)、確実に死を悟り、悟っているからこそ己の表現したいことを出し切らんと無茶をしてしまうのである。

 私は、命を縮めてまで志を全うすることを讃えるつもりはない。命あっての物種であるし、特に親からすれば、どんな形であっても生きていてほしいと願うであろう。(作中の、子規逝去時における母・八重の姿が、これを物語っている)
 
 しかし、ここに描かれる子規に、そんな声をかけるのは却って残酷だ。
 瞳に写る風景を、感じる心を、一つでも多く書にしたためんとする子規。そんな彗星のごとき命のきらめきを、いったい誰が止められよう。
 儚い人生だったかもしれないが、こんな生き方もある。子規の短くも情熱的な生き方は、新しい人生観・死生観というものを教えてくれているように思う。

 またそれだけに、漱石との友情も涙なしでは読めない。「坊ちゃん」のように無鉄砲で、退路を断ってから進路を決めていく子規と、後々のことを考えて常に低リスク・合理的に生きる漱石。そんなタイプの違う二人だからこそ紡ぐことができた友情の糸は、切れることももつれることもなく、太く長く続いていく。
 「小説家になる前」の漱石が、小説への夢を諦める子規を励まし、後に小説家になったように。

 子規の命焦がす生き方、漱石との熱く静かな友情、それを囲む若者たちの清廉な志。それらの結晶は、読む者の涙となって眼前の景色を濡らしていく。
 しかしその後に見えるのは、この表紙に描かれるような、晴れ渡る空である。

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価格:1,680円(税込、送料込)



ドナルド・キーンの「正岡子規」もお薦め。
子規の書いた漢詩や英文、死の直前の思いをつづった文書等も
非常に豊富に載せられており、読み応え抜群!↓



プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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