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「騙し絵の牙」あらすじ・感想。「大泉洋そのまま」なのに「大泉洋が演じるの!?」と不安に。

 ただただ“大泉洋”という男をイメージしながら読んでいただく、そこから驚きの渦に巻き込まれていくのが、この作品の面白さ。
(大泉洋さんによる「解説」引用)
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 大泉洋のファンなら必読。
 「ファンというわけではないけれど、大泉洋が出るドラマなら観る」という人も、必読だ。

 何しろ役どころは「稀代の人たらし編集者」。
 
 誰もがメロメロになる、ユーモアたっぷりの機関銃トークは「大泉洋」そのもの。
 ページから大泉洋がムックリ立ち上がり、紙上で演じる幻覚まで見えてくる。

 ところがおやおや?
 読むうちに、不安になってきた。

 「これ、本当に大泉洋が演じるの!?」


 「大泉洋そのもの」なのに「大泉洋らしくない」という、不思議現象を巻き起こす「騙し絵の牙」。

 いったいどんな「騙し絵」が、読者に牙をむくのか。
 あなたの知らない「大泉洋」が、ここにいる!

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塩田武士「盤上のアルファ」感想。まるで中年男版「赤毛のアン」。ドラマ化される小説ってやっぱり面白いんだ!と納得の傑作。

評価:★★★★★

これからの人生をどうするか。まるで当てがなかった。それを考えることは体が震えるほど怖いことだった。
(本文引用)
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 2019年2月3日からBSプレミアムでドラマスタート!
 そう聞いて読んでみた「盤上のアルファ」。

 改めて「ドラマ化される小説って、文句なしに面白いんだ!」と確信した。
 
 関西独特のセリフ回しに、何度もブハッ。
 非情なようで人情味たっぷり。
 ラストでは、思いもよらない事実も明かされ(しかも伏線がさりげなくて脱帽)、大満足の一冊だった。

 著者・塩田武士さんは「罪の声」「歪んだ波紋」等で、今や人気作家の地位を確立。
 そんな塩田さんのデビュー作ということだが、「売れる作家」はデビュー作からして違う!


 
 そういえば松田聖子さんも、デビュー当時から、他のアイドルと一線を画していたしねぇ・・・。

 とにかく「塩田武士さん、やっぱり好きだぁ~!」と、空に向かって叫びたくなる傑作だった。

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■「盤上のアルファ」あらすじ



 新聞記者・秋葉は県警担当から左遷。
 文化部の将棋担当になる。

 将棋に全く興味を持てず、失意の日々を送る秋葉。
 
 小料理屋で将棋について愚痴っていたところ、ある男に絡まれる。

 男の名は真田信繫。
 かつて奨励会に所属し、プロになれずに退会した男だった。

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 秋葉と真田のつながりは、そこで終わらなかった。

 真田はその後失職し、ホームレスに。
 アポなしで秋葉のアパートを訪れ、奇妙な同居生活を送ることに・・・。
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■「盤上のアルファ」感想



 本書はいわば、中年男版の「赤毛のアン」。

 赤毛のアンは、曲がり角の先に何があるかわからないけれど、進んでみると歩き続けた。

 「盤上のアルファ」の男たちも同様。

 今歩いているのは、出口の見えない真っ暗闇。

 でも歩いていたら、酸素と光がうっすら。
 出口の先に何があるかわからない。
 幸せが来るかどうかもわからない。

 でも、とにかく這い出ることができそうだ。
 這い出そう、這い出るんだ! 

 「盤上のアルファ」を読んでいると、そんな気になり全身がブルブル震えてくる。
 読む前は恐怖・不安で震えていたのが、読後は武者震いに変わるのだ。

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 アマチュア棋士・真田は、父と共に借金取りに終われ、父がいなくなれば親戚に預けられ理不尽な仕打ちを受けてきた。

 自尊心が破壊された状態で大人になるが、そのなかで唯一の救いが将棋。
 そして、ボスオオカミ「アルファ」の写真で、自分を勇気づけてきた。

 エリート意識が強く天邪鬼の秋葉にとって、そんな真田は理解しがたい存在。
 はっきり言って「邪魔」と言いたくなる男だった。

 しかし真田の呆れるほどの純粋さに、秋葉の心はだんだん氷解。

 互いに憎まれ口をたたきながらも、「俺がお前を、お前が俺を」支える関係となっていく。
 
 「盤上のアルファ」を読むと元気が出るのは、「生きるのに必要なものは最小限でいい」と思えるからだ。

 小さくても良い、「夢」と「希望」、そして「誰かを思う気持ち」さえ持っていれば生きられる、と心底思える。

 曲がり角の先に何があるかは、わからない。

 でも「信じられる人」「愛する人」、そしてわずかでも「希望」を持っていれば人は生きられる。
 価値ある人生を生きられる、と本気で思えるのだ。

 ちなみにラストで明かされる驚きの事実が最高!
 「あのエピソードが伏線になっていたとは!」とやられた感満載。
 
 ちょっと悔しいが、こんな「気持ちいい騙され方」なら大歓迎だ。

 ドラマでもきっと、視聴者を「アッ!」と驚かすに違いない。

 ※それにしても秋葉役が玉木宏さんって、ちょっとカッコ良すぎるのでは?
  私のイメージでは、秋葉役は小藪千豊さんなんだけどな。


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「歪んだ波紋」レビュー。連作短編好きなら、これは絶対にうなる!

評価:★★★★★

 許されたわけではない-。
 一瞬の反転に打ちのめされ、沢村は初めて自分の仕事の怖さを知った。

(本文引用)
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 災害が起こればライオンが逃げたのシマウマが逃げたの。
 事件・事故が起これば、苗字が同じというだけで加害者の家族扱い。

 SNSが普及してから、急速に「嘘」が増えた。
 そして「嘘」による波紋が広がるスピードが、尋常じゃなく速い。
 
 後から真実を伝えようにも追いつけず、嘘に追い詰められ人生を壊される人が後を絶たない。
 
 そんな今だからこそ読みたいのが、「歪んだ波紋」。
 もし、真実を伝えるプロが、誤報を流してしまったら・・・?
 
 本書は「誤報」にまつわる連作短編。
 事件・事故に関連する、小さな点と点を「憶測」でつなぐと、途轍もなく大きな罪となる。
 そんな「誤報の恐ろしさ」に、足下からブルッとくる一冊だ。




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■「歪んだ波紋」あらすじ



 沢村は地方紙の記者。
 勤める新聞社が、「有名タレントが市長選に出馬」というスクープを出し、気持ちがわいている。

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 そこへきて、沢村に任されたのはひき逃げ事件だった。
 被害者は40代の男性で、妻は妊娠中。
 「これから」という時の事件だったが、事件は意外な展開に。

 容疑者のものと思われた車が、実は被害者宅の駐車場に・・・。

 沢村は、ひき逃げ事件の犯人を「妻」だとにらみ、直撃取材をするが?
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■「歪んだ波紋」感想



 本書は連作短編集。
 「誤報」がカギとなる物語が5つ収録されており、全て静かにつながっている。

 「誤報がカギとなる」と聞くと、物語の核となるニュースだけが「誤報」と思うだろう。
 しかし本書は、そんな甘いものではない。

 真実がわかって良かった良かった・・・と思っていたら、最後の最後でまた「嘘」が浮上。
 最後の1行まで、全く気の抜けない展開となっている。

 読めば読むほど何が正義で何が悪なのか、何が真実で何が嘘なのかわからなくなり、頭がクラクラしてくるが、本書はやはり現代必読。

 「ちょっとした憶測」「正義感をまとった嘘」が、一個の人間の人生を狂わせ、命を脅かす。
 本書を読むと、その途轍もない恐ろしさに全身がこわばってくる。

 最終話は、それまでの「嘘・誤報」のさらなる事実が明らかに。
 連作短編好きなら、「こういうの読みたかった!」と思わずうなるラストとなっている。

 社会派読書が好きな人も、エンタメ・ミステリー好きな人も、思わず「うまい!」とうなるはずだ。

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罪の声  塩田武士

評価:★★★★☆

「事件を起こして、あなたの言う“社会”を見せて、世の中は変わったんですか?」
(本文引用)
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  若い方はご存知ないかもしれないが、その昔、「グリコ・森永事件」というものがあった。その事件の頃に小学生以上だった人は、みな覚えているのではないだろうか。

 江崎グリコの社長が誘拐されたことに始まり、その後、多数の食品会社が脅迫された。その犯人とされる「キツネ目の男」は、今もなおテレビ等で時々報道される。昭和・平成を通じて、屈指の大事件といえるだろう。

 「罪の声」は、その「グリコ森永事件」をモチーフとした、家族の物語だ。 
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 京都でテーラーを開く曽根俊也は、ある日、自宅でカセットテープとノートを見つける。
 テープを聞くと、幼い頃の自分の声が入っていた。


 
 そのテープの声とノートから、俊也はある重大事件を思い出す。
 かつて多くの製菓会社や食品メーカーが脅迫された「ギン萬事件」。
 その事件の犯人が使ったテープは、紛れもなくさっきのテープだった。自分の声の入ったカセットテープだった。

 その一方で、新聞記者の阿久津も「ギン萬事件」を追っていた。
 俊也と阿久津、この二人がギリギリまで「ギン萬事件」の真相に迫った時、二人の心に残されたものは何か。そして、この事件が社会に残したものとは何なのか。
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 まず、著者の取材力と緻密な描写に度肝を抜かれた。

 事件自体は30年前で、すでに時効を迎えているが、この物語の家族にとっては時効ではない。家族の来し方行く末に大きく関わり、これからの生き方を左右する一大事だ。
 
 それだけに、事件に関わる「とるに足らなそうな小さな点」が念入りに書かれているのが生きる。そして、そんな小さな点が徐々に太い線になっていく過程も、実に読み応えがある。
 その迫力ある描写は、どこか横山秀夫作品を彷彿とさせる。新聞社に勤めた経験のある小説家は、やはり取材力や描写力が一段優れているのだろうか。とにかく、読み手の私まで一緒に事件を追っているような気分になりドキドキした。

 また、実際の事件を題材としながら、ここまで人情味豊かなドラマに仕上げられるというのもすごい。
 明らかに、実在した事件をモデルとした内容であるため、それを人情ドラマに仕立て上げるなど不謹慎との気持ちが湧きそうなものだが、ここまで綺麗に融合しているとそんな気も起らない。ひとつのれっきとした読み物として堪能でき、また同時に「事件の裏には、私たちには計り知れない苦しみがある」事実に思いを馳せることもできる。

 そんな純粋な気持ちで本書を読めるのは、作中にあるこのセリフのせいだろう。 

「俺らの仕事は因数分解みたいなもんや。何ぼしんどうでも、正面にある不幸や悲しみから目を逸らさんと『なぜ』という想いで割り続けなあかん。素数になるまで割り続けるのは並大抵のことやないけど、諦めたらあかん。その素数こそ事件の本質であり、人間が求める真実や」

 俊也や阿久津らの、終わりの見えない因数分解への挑戦は、本当に並大抵の努力・労力ではない。それが素数になった瞬間、読者はホッとすると同時に、思わず涙がこぼれるだろう。

 そしてその因数分解が終わった時に、さらに大きな割り切れぬものが立ちはだかる。
 人生とは、生きるとは、いつまでも割り切れぬものを割り続けようとする作業なのかもしれない。
 「罪の声」は、そんなことを教えてくれる大作であった。

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プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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