石田衣良「1ポンドの悲しみ」感想。恋愛小説に溺れるように浸かりたい人に・・・。
評価:★★★★★
「好きな人の名前って、それだけでしあわせの呪文なんだね」
(本文引用)
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「1ポンドの悲しみ」は、厳格な人から寛容な人まで、恋愛待ちの人から恋愛に疲れた人まで、全て受け入れOK。
読んだ後、どんな形であれ「誰かを愛し、ときめくことができた自分」が愛おしくなるだろう。
恋人ができない自分も、恋に溺れやすい自分も認め、生きるのがきっと楽しくなる。
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同棲中の朝世と俊樹は、家の中の物すべてにイニシャルを書いている。
家具から、卵1つひとつに至るまで、「A」と「T」と油性ペンで記入。
常に「自分の物」・「自分のぶん」がわかるようにしてあるのだ。
ある日、朝世は友人のつてで子猫を譲り受ける。
ところがその猫は、心臓に障害を抱えていた。
まだ名前もつけていないうちに、生死の境をさまよう子猫。
朝世と俊樹は共に子猫の快復を願うが、そこで得た二人の結論とは・・・?
(第1話「ふたりの名前」)
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先述したように、本書には、全く設定の異なる10の恋愛小説が収められている。
だから当然、合う・合わないが出てくる。
恋愛に消極的な人なら、ラストの「スターティング・オーバー」の女性たちの思考回路には驚くだろう。
潔癖な人なら「1ポンドの悲しみ」の描写には耐えられないかもしれない。
奔放な人なら「デートは本屋で」や「誰かのウエディング」などを読んだら、イライラするかもしれない。
でも不思議と、つまらない物語はひとつもない。
読めば読むほど、「自分に合った恋愛の仕方」が見えてくるし、読めば読むほど「恋愛に関する自分の見識」がバアアアアッと広がるのを実感し、何ともワクワクするのだ。
ちなみに私がいちばん好きなのは「十一月のつぼみ」。
生花店に勤める英恵には、夫と5歳の息子がいる。
しかし最近、ちょっと気になる人ができる。
それは毎週、必ず花束を作りにくる男性・芹沢。
どうやら芹沢は、英恵目当てに来店している様子。
芹沢の注文どおりに花束を作り、その間に交わす二言三言の会話・・・。
そんなほんの短い時間が、英恵にとって清涼剤となっている。
ある日、芹沢は作った花束を英恵に渡し、カードをしのばせる。
カードを読み、英恵が出した結論とは?
・・・「鳴かぬ蛍が身を焦がす」といった物語で、本書で最も「恋の痛み」を感じさせる。
そして「十一月のつぼみ」は、恋の起点、恋愛の基盤を描いている。
奔放な人も奥手な人も、この「十一月のつぼみ」のような心の動きから、恋をスタートさせているのではないか。
男女の出会いとは、英恵と芹沢のような思いから始まり、それを継続させるもストップさせるも、英恵と芹沢のような思い・熟慮から結論づけられるのではないか。
「十一月のつぼみ」には、そんな恋の礎がくっきり描かれている。
以前、「恋とはどんなものかしら?」が副題となったドラマが流行ったが、そんな疑問を持ったら「十一月のつぼみ」を読むのがおすすめ。
「ああ、こういうものかもしれないな」とストンと腑に落ちることだろう。
恋愛の基礎・応用・上級すべてを学べる、珠玉の短編集「1ポンドの悲しみ」。
秋深し、恋愛小説で心をしっとり落ち着かせたい・・・そう思う人は、ぜひ手に取ってみてほしい。
いつもの秋と、人も風景も違って見えることだろう。
「好きな人の名前って、それだけでしあわせの呪文なんだね」
(本文引用)
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「とにかく何でもいいから、心の響く恋愛小説を読みたい!」
そんな素朴かつ贅沢な希望をお持ちの方に、本書はおすすめ。
本書に収められた10編のストーリーは、見事なまでに全くバラバラの恋愛小説。
内容も設定も異なるが、「面白さ」「ジーンと来る度」はどれも一級品。
なかには「この話は自分には合わないな」「自分とは異世界の人の話だな」と、共感できない物語もあるだろう。
しかしこれだけ異なる10の恋愛小説があれば、そのうち2~3編はしっくりくるはず。
奥手の人、積極的な人、結婚している人、独身の人、禁じられた恋に揺れそうな人、「そんなこと絶対に許せない!」という人・・・。
そんな素朴かつ贅沢な希望をお持ちの方に、本書はおすすめ。
本書に収められた10編のストーリーは、見事なまでに全くバラバラの恋愛小説。
内容も設定も異なるが、「面白さ」「ジーンと来る度」はどれも一級品。
なかには「この話は自分には合わないな」「自分とは異世界の人の話だな」と、共感できない物語もあるだろう。
しかしこれだけ異なる10の恋愛小説があれば、そのうち2~3編はしっくりくるはず。
奥手の人、積極的な人、結婚している人、独身の人、禁じられた恋に揺れそうな人、「そんなこと絶対に許せない!」という人・・・。
「1ポンドの悲しみ」は、厳格な人から寛容な人まで、恋愛待ちの人から恋愛に疲れた人まで、全て受け入れOK。
読んだ後、どんな形であれ「誰かを愛し、ときめくことができた自分」が愛おしくなるだろう。
恋人ができない自分も、恋に溺れやすい自分も認め、生きるのがきっと楽しくなる。
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■「1ポンドの悲しみ」あらすじ
同棲中の朝世と俊樹は、家の中の物すべてにイニシャルを書いている。
家具から、卵1つひとつに至るまで、「A」と「T」と油性ペンで記入。
常に「自分の物」・「自分のぶん」がわかるようにしてあるのだ。
ある日、朝世は友人のつてで子猫を譲り受ける。
ところがその猫は、心臓に障害を抱えていた。
まだ名前もつけていないうちに、生死の境をさまよう子猫。
朝世と俊樹は共に子猫の快復を願うが、そこで得た二人の結論とは・・・?
(第1話「ふたりの名前」)
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■「1ポンドの悲しみ」感想
先述したように、本書には、全く設定の異なる10の恋愛小説が収められている。
だから当然、合う・合わないが出てくる。
恋愛に消極的な人なら、ラストの「スターティング・オーバー」の女性たちの思考回路には驚くだろう。
潔癖な人なら「1ポンドの悲しみ」の描写には耐えられないかもしれない。
奔放な人なら「デートは本屋で」や「誰かのウエディング」などを読んだら、イライラするかもしれない。
でも不思議と、つまらない物語はひとつもない。
読めば読むほど、「自分に合った恋愛の仕方」が見えてくるし、読めば読むほど「恋愛に関する自分の見識」がバアアアアッと広がるのを実感し、何ともワクワクするのだ。
ちなみに私がいちばん好きなのは「十一月のつぼみ」。
生花店に勤める英恵には、夫と5歳の息子がいる。
しかし最近、ちょっと気になる人ができる。
それは毎週、必ず花束を作りにくる男性・芹沢。
どうやら芹沢は、英恵目当てに来店している様子。
芹沢の注文どおりに花束を作り、その間に交わす二言三言の会話・・・。
そんなほんの短い時間が、英恵にとって清涼剤となっている。
ある日、芹沢は作った花束を英恵に渡し、カードをしのばせる。
カードを読み、英恵が出した結論とは?
・・・「鳴かぬ蛍が身を焦がす」といった物語で、本書で最も「恋の痛み」を感じさせる。
そして「十一月のつぼみ」は、恋の起点、恋愛の基盤を描いている。
奔放な人も奥手な人も、この「十一月のつぼみ」のような心の動きから、恋をスタートさせているのではないか。
男女の出会いとは、英恵と芹沢のような思いから始まり、それを継続させるもストップさせるも、英恵と芹沢のような思い・熟慮から結論づけられるのではないか。
「十一月のつぼみ」には、そんな恋の礎がくっきり描かれている。
以前、「恋とはどんなものかしら?」が副題となったドラマが流行ったが、そんな疑問を持ったら「十一月のつぼみ」を読むのがおすすめ。
「ああ、こういうものかもしれないな」とストンと腑に落ちることだろう。
恋愛の基礎・応用・上級すべてを学べる、珠玉の短編集「1ポンドの悲しみ」。
秋深し、恋愛小説で心をしっとり落ち着かせたい・・・そう思う人は、ぜひ手に取ってみてほしい。
いつもの秋と、人も風景も違って見えることだろう。