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石田衣良「1ポンドの悲しみ」感想。恋愛小説に溺れるように浸かりたい人に・・・。

評価:★★★★★

「好きな人の名前って、それだけでしあわせの呪文なんだね」
(本文引用)
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 「とにかく何でもいいから、心の響く恋愛小説を読みたい!」
 
 そんな素朴かつ贅沢な希望をお持ちの方に、本書はおすすめ。

 本書に収められた10編のストーリーは、見事なまでに全くバラバラの恋愛小説。
 内容も設定も異なるが、「面白さ」「ジーンと来る度」はどれも一級品。
 
 なかには「この話は自分には合わないな」「自分とは異世界の人の話だな」と、共感できない物語もあるだろう。

 しかしこれだけ異なる10の恋愛小説があれば、そのうち2~3編はしっくりくるはず。
 奥手の人、積極的な人、結婚している人、独身の人、禁じられた恋に揺れそうな人、「そんなこと絶対に許せない!」という人・・・。



 「1ポンドの悲しみ」は、厳格な人から寛容な人まで、恋愛待ちの人から恋愛に疲れた人まで、全て受け入れOK。
 
 読んだ後、どんな形であれ「誰かを愛し、ときめくことができた自分」が愛おしくなるだろう。
 恋人ができない自分も、恋に溺れやすい自分も認め、生きるのがきっと楽しくなる。
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■「1ポンドの悲しみ」あらすじ



 同棲中の朝世と俊樹は、家の中の物すべてにイニシャルを書いている。
 家具から、卵1つひとつに至るまで、「A」と「T」と油性ペンで記入。

 常に「自分の物」・「自分のぶん」がわかるようにしてあるのだ。

 ある日、朝世は友人のつてで子猫を譲り受ける。

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 ところがその猫は、心臓に障害を抱えていた。

 まだ名前もつけていないうちに、生死の境をさまよう子猫。

 朝世と俊樹は共に子猫の快復を願うが、そこで得た二人の結論とは・・・?
(第1話「ふたりの名前」)
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■「1ポンドの悲しみ」感想



 先述したように、本書には、全く設定の異なる10の恋愛小説が収められている。

 だから当然、合う・合わないが出てくる。
 恋愛に消極的な人なら、ラストの「スターティング・オーバー」の女性たちの思考回路には驚くだろう。
 潔癖な人なら「1ポンドの悲しみ」の描写には耐えられないかもしれない。
 奔放な人なら「デートは本屋で」や「誰かのウエディング」などを読んだら、イライラするかもしれない。

 でも不思議と、つまらない物語はひとつもない。
 読めば読むほど、「自分に合った恋愛の仕方」が見えてくるし、読めば読むほど「恋愛に関する自分の見識」がバアアアアッと広がるのを実感し、何ともワクワクするのだ。

 ちなみに私がいちばん好きなのは「十一月のつぼみ」。
 生花店に勤める英恵には、夫と5歳の息子がいる。
 
 しかし最近、ちょっと気になる人ができる。

 それは毎週、必ず花束を作りにくる男性・芹沢。
 
 どうやら芹沢は、英恵目当てに来店している様子。

 芹沢の注文どおりに花束を作り、その間に交わす二言三言の会話・・・。
 そんなほんの短い時間が、英恵にとって清涼剤となっている。

 ある日、芹沢は作った花束を英恵に渡し、カードをしのばせる。

 カードを読み、英恵が出した結論とは?

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 ・・・「鳴かぬ蛍が身を焦がす」といった物語で、本書で最も「恋の痛み」を感じさせる。

 そして「十一月のつぼみ」は、恋の起点、恋愛の基盤を描いている。

 奔放な人も奥手な人も、この「十一月のつぼみ」のような心の動きから、恋をスタートさせているのではないか。
 男女の出会いとは、英恵と芹沢のような思いから始まり、それを継続させるもストップさせるも、英恵と芹沢のような思い・熟慮から結論づけられるのではないか。

 「十一月のつぼみ」には、そんな恋の礎がくっきり描かれている。

 以前、「恋とはどんなものかしら?」が副題となったドラマが流行ったが、そんな疑問を持ったら「十一月のつぼみ」を読むのがおすすめ。
 「ああ、こういうものかもしれないな」とストンと腑に落ちることだろう。

 恋愛の基礎・応用・上級すべてを学べる、珠玉の短編集「1ポンドの悲しみ」。
 秋深し、恋愛小説で心をしっとり落ち着かせたい・・・そう思う人は、ぜひ手に取ってみてほしい。

 いつもの秋と、人も風景も違って見えることだろう。

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石田衣良「約束」感想。東大生・読書好きおすすめの理由とは?

評価:★★★★★

 世界の果てまでいって、最後の力の一滴がかれるまで生きよう。
(本文引用)
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 プレジデントファミリーで、東大生が薦めていたため読んでみた。
 別に東大生でなくても構わないのだが、読書量が豊富な人が薦めているとなると、がぜん読みたくなる。

 そして読み終えた今、読書好きおすすめの理由が、はっきりわかった。

 読書の効用は、「さまざまな人生を生きられること」と「生きる力を与えてくれること」。

 物語を通して、自分とは違う靴を履き、人生を踏み出すパワーを得られることが読書の楽しさだ。

 石田衣良の「約束」は、まさにその効果を得られる一冊。

 設定が全く異なる7つの物語を通して、「よし生きよう!」と心底思わせてくれる珠玉の短編集だ。


 
 もし生きるのがつらくなったら、本書を手に取ってみてほしい。
 自分だけの人生を、ボロボロになっても生ききろうと、心底思えるだろう。
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■「約束」あらすじ



 小4のカンタには、自慢の幼なじみがいる。
 幼なじみの名はヨージ。

 勉強の運動も人柄も抜群で、学校のスター的存在だ。

 しかしある日、二人は突然悲劇に遭う。

 カンタの目の前で、ヨージは通り魔に刺殺されるのだ。

 カンタは事件以来、不安定になり、校庭で砂を食べるといった行動に出る。

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 優秀なヨージではなく、自分が死ねばよかった・・・そう思っているのだ。

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■「約束」感想



 先述した通り、本書は7編からなる短編集。
 それぞれ登場人物も設定も、何もかもがガラリと違う。
 
 しかし一つだけ、大きな共通点がある。

 皆、「生きるのを放棄しかけていたこと」だ。

 親友が殺されたことで、「自分が死ねばよかった」と苦しむ少年。
 夫が不倫相手と事故死、次いで子どもが変調をきたし、疲弊する母親。
 人生に虚しさを覚え、不登校になる中学生。
 若くして夫をガンで亡くし、幸せの意味を問い続ける女性・・・。

 皆、人生のどん底を経験し、生きるのをやめようとしている。
 しかしそこから、彼らは静かに確実に再生。
 一度力尽きかけた人々が、新たに力を得ていく過程は、読むだけで生きる力がわいてくる。
 自分の心の泉に、まだこんなに水が残っていたのか・・・と驚かされるのだ。

 なかでもオススメなのは、第2話「青色のエグジット」。

 引きこもりだった息子は、列車事故に遭い片足を失う。
 
 自暴自棄になった息子は、手がつけられないほどわがままに。
 両親は息子の言いなりになる。

 そんなある日、息子はスキューバダイビングと出会う。
 片足がなくてもできるダイビング教室に通い、息子は変わっていくが・・・?

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 本書に収められた物語は、全て「登場人物の心の変化」が見どころだ。
 なかでも「青色のエグジット」は、変化が劇的。
 
 「もう生きていても楽しいことはないだろう」とあきらめていた家族が、思わぬ形で息を吹き返す姿には、ただただ涙。
 
 生きていれば、どんなに干からびても生きてさえいれば、きっと何か喜びがある。
 「青色のエグジット」は、そう心から信じさせてくれる物語だ。
 
 表題作「約束」もよいが、本書を手に取ったらまず「青色のエグジット」を読んでみてほしい。
 読み終えた頃には、心がエネルギー満タンになっていること間違いなし!だ。

 現役東大生や読書好きがすすめる、石田衣良「約束」。
 
 生きる力が枯れそうになっている、本を読む気力すらわかない・・・そう思っていたら、本書だけでも読んでほしい。
 
 もう一日だけでも生きてみよう、もう一歩だけでも踏み出してみようと、体の奥から思えるはずだ。

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石田衣良「眠れぬ真珠」は恋愛小説が苦手な人こそおすすめ!

評価:★★★★★

「人を好きになるとき、なにがただしい形かなんて、わたしにはぜんぜんわかりません」
(本文引用)
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 実は「大人の恋愛小説」というものが苦手です(子どもの恋愛小説も苦手だけど)。

 この「眠れぬ真珠」は、「大人の恋愛小説」にジャストミートに入る内容で、いちばん苦手とするタイプ。
 苦手とするタイプ・・・のはずなのに、図らずも寝食を忘れて読みふけることに。
 
 読んだ後は、この本と出合えた奇跡に静かな感動を・・・いえ、静かじゃないな・・・猛々しいほどの感動を覚えました。
 
 私にとって「眠れぬ真珠」との出会いは、結婚するはずではなかった人と結婚しちゃったような感じ。
 もともと嫌いなタイプで第一印象も最悪なのに、気がついたら「なくてはならない存在」になっていた・・・それぐらい夢中になって読みました。


 
 後味も予想以上に爽やかで、読後、思わず本書に謝罪。

 「最初、あなたのこと嫌っていてごめんなさい」なんて・・・。
 
 石田衣良さん、この本を世に送り出してくれてありがとうございます! 
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■「眠れぬ真珠」あらすじ



 主人公の咲世子は版画家。
 誰もが認める美人ですが、40代半ばの今も独身を貫いています。

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 妻のいる画商の男性と関係はもっていますが、結婚願望はなく、毎日粛々と仕事に打ち込んでいます。

 咲世子はある日、仕事のアイデアを練るため行きつけのカフェへ。
 カフェに新しく入ってきたウェイター、徳永素樹と出会います。

 素樹は28歳で、映像の世界に生きる男性。
 
 咲世子と素樹は年齢の壁を越え、互いが磁力を持つように惹かれ合います。

 でも咲世子は、常に覚悟しています。
 素樹との美しい日々は、すぐに幕を下ろすことを。
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■「眠れぬ真珠」感想



 石田衣良さんの文章は生々しいので、読みはじめた時は「しまった!」と思いました。
 官能的なシーンに目を覆いたくなったからです。

 「う~ん、このグロテスクな世界についていけるのだろうか」と、読むのをやめそうになったのですが・・・気がついたら底まで見えるような清らか水をスイスイ泳ぐような調子で、それはそれは気持ちよ~く読んでいました。

 泥水まみれになるかと思っていたのに、読み終える頃には頭も心もすっかり浄化。 
 汚泥から拾い上げたものを、諦めずに汚れを取っていたら、とんでもない宝物が出てきたような感触です。
 
 まず咲世子と素樹、互いの思い、互いのリスペクトぶりが突き抜けるほど純粋。
 咲世子も素樹もアーティストなので、誰かを思い慕う気持ちが「仕事」「作品」にクッキリと現れます。
 
 咲世子の気持ちは版画の色合いにふくらみを与え、素樹の気持ちは観る者の胸をうつ映像に。
 
 二人のひたむきな気持ち、そして気持ちを託した作品づくりは、「私の人生にあなたが現れてくれてありがとう」とでも言いたげな健気さがあります。

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 本書ではしばしば「恋愛に正しい形はない」という言葉が出てきます。
 でも咲世子と素樹の恋は、まさに「究極的な、恋愛の正しい形」。

 相手を心から尊敬し、相手を思うが故に勇気をふり絞る-咲世子と素樹の愛の形は、これ以上ない「正しさ」に満ちてる気がします。

 咲世子と素樹の姿を見ていると、ただただ純粋にこう思えます。
 「こういう恋愛ができたら、いいよね」と。

 途中の紆余曲折はなかなかヘビーなので、読むのが辛くなる人もいるかも。
 でもちょっと辛抱して、ラストまで泳ぎ切ってみてください。

 きっと「うわ~、読んでよかったぁ!」と思えますよ。
 
 「恋愛小説を読みたいけど、いつも途中で挫折してしまう」という方に、「眠れぬ真珠」はおすすめ。

 恋愛小説を読むのが得意になる、足掛かりになりますよ。 
 
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3月25日からドラマスタート!石田衣良「北斗 ある殺人者の回心」


評価:★★★★★

 誰一人自分を愛してくれる人がいない世界で、もう生きていたくなかった。形を変えた自殺だったのかもしれない。
(本文引用)
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 児童虐待、殺人、裁判・・・どれも小説にはよく登場する設定だ。
 しかし、ここまで1つひとつを真摯に丁寧に描いたものは、そうそうない。

 石田衣良氏は、NHK「ハートネットTV」などで様々な事情を抱えた人と接している。
 この小説は、真剣にマイノリティの人たちや社会問題と向き合ってきた石田衣良氏の、集大成といえるものではないだろうか。

 作家という仕事を生業とする者として、社会的使命を持って書き切った――そんな作品に思える。
 遅ればせながら、私はこの小説を通して「石田衣良」という作家を好きになった。ものすごく好きになった。




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プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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