評価:★★★★★
父親の業というものは、この期におよんでも、どんな悪人になろうとも、なお息子を成長させたいのだ。(本文引用)
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久しぶりに泣いて泣いて、泣きはらした一冊。
子をもつ親として、「そうよね、そうよね~」「はぁ、悩んだだろうなあ、嬉しかっただろうなあ、辛かっただろうなあ」と何度も何度も何度もうなずきながら読みました。
そして、泣きました。
門井慶喜さん、このような本を出してくださいまして、本当にどうもありがとうございます。
本書は、日本を代表する童話作家・宮沢賢治の父親の物語。
賢治に質屋を継がせようとするものの、息子の性格や希望を思うと、なかなか踏み出せない父親。
言いたいことを常に飲み込み、ひたすら「父でありすぎるほど父であった」父親。
さて、後に大輪の花を咲かせた作家・宮沢賢治は、どのようにして生まれたのか。
父親の苦悩を通して見ると、宮沢賢治作品の読み方がガラリと変わってきますよ。
宮沢賢治ファンはもちろん、子育てに悩む人も必読の傑作です。
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■「銀河鉄道の父」あらすじ
宮沢賢治は、岩手の裕福な質屋に生を受けます。
賢治は成績優秀で、尋常小学校を卒業後、中学への進学を希望しますが、父・政次郎は一瞬迷います。
なぜなら宮沢家では、「質屋に学問はいらない」と言われてきたから。
政次郎自身、幼いころから勉学優秀だったものの、「質屋に学問はいらない」の教えに従い進学を断念。
賢治にも同じ道を歩ませようとしますが、なかなか言えません。
その理由は2つ。
ひとつは、物静かで駆け引きが苦手な賢治が商売に向いていないこと。
そしてもうひとつは、小さい頃から石が大好きで、一風変わった才能を感じさせる賢治に、好きな道を歩ませたいと思ったからでした。
その後、賢治は農業の道を望み、農民のために学びはじめます。
農民が富むということは、質屋にとっては大打撃。
政次郎は賢治の生き方を見守りながらも、日々悩みます。
十八年間たいせつに、たいせつに育てた結果がこれかと思うと人生がまったく無になった気がした。世間には自分よりも無責任な親がいる。めしを食わせず、勉強をさせず、殴る蹴るの暴行をはたらいて恥じるどころか胸を張る父親がいくらでもいる。それら畜生どもよりも、自分ははるかに、
(劣るというのか)
政次郎は、賢治をはじめ子どもたち全員に対し、全身全霊をかけてかわいがる父親でした。
それだけに、農業の勉強に意欲を燃やす賢治に、納得のいかない思いをくすぶらせるのですが・・・?
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■「銀河鉄道の父」感想
子育て本ではないのに、これほど子育てのアドバイスになる本は、ちょっとありません。
親として、一生のバイブルにしたい一冊です。
その理由は、「一個の人格をもつ子どもを、親はどう見守っていくか」のお手本が描かれているからです。
商売を継がせるどころか、商売をつぶすような行動をとる賢治。
おとなしく家業を継げばよいものを、詩作で生きていくというハイリスクな道を選ぶ賢治。
父・政次郎はハラハラモヤモヤしつづけながら、賢治を見つめますが、結局のところは賢治に好きなことをやらせます。
いえ、好きなことをやらせるというよりも、好きなことを止める言葉が、喉から出そうでどうしても出せなかったのです。
「好きなことを仕事にするなど本末転倒もはなはだしい。そんなのは謡や噺家の生き方じゃ。堅気の人間には順番が逆だ。仕事だから好きになる、それが正しいありかただじゃい」
そう言おうとした。
が、口から出なかった。
質屋を継げば、そのうち質屋の仕事が好きになるだろう。
好きなことを仕事にするなんてもってのほかだ。
そう言いそうになる政次郎ですが、どうしても言えないのです。
本書は全編を通じて、そんな政次郎の葛藤が描かれています。
この悩み、多くの親が持つものではないでしょうか。
子どもにはこうなってほしい、でも、どうも子どもの希望は違うようだ。
でも子どもの希望に従っていたら、ゆくゆく苦労するのは子どもでは?
親としては、子どもが無用な苦労をするのは見たくない。
でも、苦労することよりも、好きなことができない方が、子どもにとっては不幸なのか?
親は、そんな悩みをグルグルグルグル持ち続けてしまうもの。
本書を読むと、親としてなすべきことの正解がおぼろげに見えてきます。
親子のありかたに正解などありませんが、政次郎の賢治に対する思いや、賢治にかける言葉は、やはり子育ての正解と言えるものでしょう。
なぜなら、政次郎のおかげで、宮沢賢治は死の床まで好きなことに取り組み、後に花を咲かせたのですから。
本書は子育て真っ最中の方はもちろん、宮沢賢治ファンにもオススメ!
「風の又三郎」はどうして生まれたのか。
「注文の多い料理店」は、なぜ後世まで語り継がれているのか
賢治と政次郎、そして妹のトシのコミュニケーションからこの名作を見ると、いっそう味わい深くなりますよ。
賢治の人生の紆余曲折があったからこそ、あの物語の、あの語り口調が産まれた。
それを知るだけでも、宮沢賢治ファンにとっては大きな収穫となります。
宮沢賢治の父親を描いた異色小説「銀河鉄道の父」。
究極の子育てバイブルとして、心の底からオススメの一冊です。
ホント、これいいですよ!
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