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芦沢央「火のないところに煙は」が新感覚すぎる!読書に飽きている人はぜひ。

評価:★★★★★

この本は、本当に発表するべきなのだろうか。
(本文引用)
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 「王様のブランチ」で見て購入。

 もともと芦沢央さんの小説が好きだったというのもあるが、インタビューを見て、居ても立っても居られなくなりポチッ。
 
 結果、大正解。
 
 過保護のカホコではないが、「こんなの初めて~!」と放心状態になる読書ができた。

 ノンフィクションとフィクションが組紐のように見事にからみあい、どこまでホントでどこからウソかわからない。

 いや、全て嘘なのかもしれないが、火のないところに煙は立たぬ。


  
 新潮社のある神楽坂に、本当にこんな怪談があるのかもしれない、心霊現象があるのかもしれない・・・と夜も眠れないほど怯えてしまった。

 芦沢央作品は、最近面白さがジャンプアップしてるな~と感じていたが、ここまでくると職人技。
 
 夢と現が交錯する「新感覚すぎる読書」で、読書の面白さ・快感を骨の髄まで感じることができた。

 芦沢央さん、「王様のブランチ」さん、ありがとー!!!
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■「火のないところに煙は」あらすじ



 本書は6話からなる短編集。
 小説家である主人公(おそらく芦沢央さん本人)は、「小説新潮」から短編小説の依頼を受ける。

 短編集のコンセプトは「怪談」。
 
 主人公はその依頼を受け、かつて自分が経験した超常現象を思い出す。

 結婚直前、占い師に芳しくない結果を出され、あり得ないほど人生に絶望する男性。
 夫が起こした交通事故を、狛犬の呪いとおそれる女性。
 一戸建てを購入したものの、隣人による根も葉もない噂話に翻弄される夫婦。
 引っ越したばかりの部屋で、見覚えのない長い髪を見つける大学生・・・。

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 主人公は、オカルトものに詳しい男性と共に超常現象の真相に迫るが・・・?

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■「火のないところに煙は」感想



 本書を読み、まず不思議だったのが「物語によってスッキリ感が全く違う」ことだ。

 「トラブルの真相はこれだったのか!」と体の奥からスッキリする話もあれば、「で、落ちは?」と聞きたくなるものも。

 「話によってムラがあるなぁ。これは買って失敗だったかな?」と、一瞬、購入したことを後悔した。

 ところが、だ。

 最終話になって突然、その不満が一気に解消!
 物語によってムラがあったのには、きちんと理由がある。
 
 最終話を除く5話がスパークを起こすためには、「全部が完璧であってはいけなかった」のである。

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 「芦沢央さんは連作短編がうまいなー」と思っていたが、こういう小説の書き方もあるのか!と驚愕。
 
 改めて著者の筆力に慄いた。

 今、読書というものにちょっと飽きてしまっている人、脳みそを底からグルッとかき混ぜたい人に、本書はおすすめ。
 
 「こういう本の書き方、読み方ってあるんだな~・・・」としばし放心すること間違いなし。
 
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「読み返す楽しさ」、詰まってます。「悪いものが、来ませんように」芦沢央

評価:★★★★☆

「娘は、母を許さなくていいの」
嫌ってもいい、憎んでもいいから、幸せになってほしい。

(本文引用)
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 「悪いものが、来ませんように」は「読み返したくなる度99%」。

 「絶対、ぜったいだまされて読み返します!」という帯のコピーに惹かれて、「私は読み返さないぞ!」と気合を入れて読みましたが・・・これ、読み返すなっていう方が無理です。

 脊髄反射並に、「思わず」読み返します。

 膝の下をコンッと突かれて、足がピョンッと跳ねるような・・・それぐらい当然のごとく読み返しちゃいます。

 読み返すということを忘れて読み返し、「あれ? 私読み返してる?」と後から気づくぐらい。



 では、なぜ「悪いものが、来ませんように」は「つい」読み返してしまう本なのか。
 
 そして「読み返してしまう本」は、なぜ「面白い」と感じられるのか。

 あらすじと共に、理由をお伝えしていきますね。 
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■「悪いものが、来ませんように」あらすじ



 育児真っ最中の奈津子は、母親と夫からプレッシャーをかけられる日々。

 うつぶせ寝にさせていないか、やっぱり布オムツを使えば良かったのではないか・・・。

 母親と夫両方に、育児について口を出されヘトヘトの毎日を過ごしていました。

 奈津子の心の支えは、助産院に勤める紗英。
 紗英は奈津子とは逆に、子どもがいないために悩んでいます。

 子どものことが常に気にかかる奈津子と、子どもがいないことで疲弊する紗英。
 逆の立場で悩んでおり、一見相容れないように見えますが、二人は常に意気投合。

 幼い頃から常に一緒だったこともあり、互いに愚痴を言い合うなど気の置けない関係を続けます。

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 しかし奈津子は、紗英が大好きなあまり、紗英の夫・大志を殺害。

 大志は浮気を続けるなど、紗英を傷つけてばかり。

 奈津子は、そんな大志を許せなくなり殺人と死体遺棄を遂行します。

 さて、奈津子は凶行を隠し通せるのでしょうか?
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■「悪いものが、来ませんように」感想



  「悪いものが、来ませんように」は、なぜ読み返したくなるのか。

 その理由は、ヒント・伏線が巧みに隠され、種明かしまでの流れがあまりにスムーズだから。
 騙されたことに気づかないぐらい自然と騙されてしまい、そんな「自然に騙されてしまった自分」に唖然愕然呆然としてしまうからです。

 人間は事態が瞬時に飲み込めないと、とっさに確認行動に出てしまうもの。
 「悪いものが、来ませんように」は、ヒントが保護色のように自然に隠されているので、騙されたことが分かった瞬間、思考が0.2秒ほどフリーズ。
 
 その後、「そんなバカな!」とつい確認したくなってしまいました。
 この「驚愕→思考停止→確認」のプロセスを、本書は見事に踏ませてくれます。
 だから思わず読み返してしまうんです。

 そして「読み返したくなる本」は、なぜ面白いのか。

 理由は、主に二つ。

 一つは「あちこちに散りばめられたヒント・伏線」を見つけ、「これかぁ!」と膝を打てるから。

 そしてもう一つは、「どうして自分は騙されてしまったのか」という「自分の落ち度」を知ることができるからです。
 
 読み返すことで、ヒントや伏線を見つける楽しさは誰もが想像できるでしょう。
 歩いてきた道をもう一度戻って、道路の隅や植え込みにキラッと光る「真相の破片」を見つけ出すのですから、面白くないわけがありません。

 ではもう一つの理由、「自分の落ち度を知ること」がなぜ楽しいか。

 それは自分の中にある「イメージの固定観念」を知ることができるからです。

 イメージの固定観念とは、たとえば「タクシーの運転手が、看護師さんから婚約指輪をもらう」という状況などがわかりやすいかな?
 あるいは、「横断歩道で歩行者側の信号が青になった途端に、ダンプの運転手が全速力で走り出した」とか。

 「悪いものが、来ませんように」は、自分の中で勝手に作り上げた「イメージ」で、見事に騙されます。
 そして、自分の中で勝手に作り上げたイメージにより騙されたことで、自分を壊すことができます。

 本書を読んで痛感したのですが、自分を壊すってものすごく快感なんですね。

 「なぜ私は、こういう言葉に、こういうイメージを抱いているのだろう」
 「なぜ私は、こういう会話から、彼らの相関関係を決めつけてしまったのだろう」

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 自分の人生まで振り返り、「私の中でなぜこのような固定観念が構築されてしまったのか」を、うんうんと考え込んでしまいます。

 だからこそ、本書のような「読み返し本」はたまらない!
 固定観念を壊されたおかげで、ちょっと自分がブラッシュアップできたような気がします。
 そんじょそこらの自己啓発本よりも、自分を高められたかも!?

 何だか面倒な理屈を色々こねくり回してしまいましたが、とりあえず本書をお手に取ってみてください。
 「読み返さなくちゃ!」と思うより前に、いつの間にか読み返している自分に「ハッ」と驚いちゃいますよ。

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芦沢央「バック・ステージ」はダブルでミステリーが楽しめるお得な一冊

評価:★★★★☆

まさか、こうきたか。
(本文引用)
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 「バック・ステージ」というタイトル通り、舞台裏を描いたミステリーです。

その舞台とは2つ。

実際のお芝居の舞台裏と、人生の舞台裏。

イヤな奴を成敗するには、ありとあらゆる下準備が必要。
小道具ひとつ、タイミングひとつずれれば計画は台無しになってしまいます。

さて、嫌われ者のパワハラ野郎をやっつけるべく、彼らが奮闘する舞台裏とはいかに?



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■「バック・ステージ」あらすじ、

主人公の松尾は、広告会社の若手男性社員。
彼には、ある悩みがありました。

それは、職場にパワハラ上司がいること。

パワハラ上司・澤口は、松尾の後輩・玉ノ井愛実を毎日いじめます。

玉ノ井は必死に耐えて仕事に取り組みますが、周囲の人間も澤口の態度には辟易。
何とか玉ノ井さんを救いたい、澤口をおとなしくさせたいと考えます。

そんなある日、松尾の先輩・康子さんが、澤口に関する意外な情報を入手。
どうやら澤口は、取引会社から違法なキックバックをもらっているらしいのです。

康子は無理やり松尾を誘い、澤口やっつけ作戦を実行。
澤口の背任行為を、証拠をつけて社長に送りつけようと画策します。

康子と松尾は様々な変装をし、あの手この手で澤口の家族に接触。
ついにキックバックの証拠を手に入れ、鞄に押し込みます。

ところが図書館で、誰かが鞄を取り違えてしまい・・・?
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■「バック・ステージ」感想

「バック・ステージ」は連作短編集。

序幕・終幕ふくめ6編から構成されており、それぞれ主人公は異なります。

でも読むうちに、他の話と絶妙に絡み合っていることに気づきます。

たとえば第一話で登場した図書館や、康子さんが対応した図書館利用者が第二話に登場

康子さんと松尾くんの知らないところ、いわばバック・ステージで、もうひとつの人生劇場が始まっていたことがわかります。

そんな「まさか、そんなところであんなことこんなことが影響していたとは!」と発見できるのが、この小説の面白さです。

本書を読んでいると、「自分の一挙手一投足が、今この瞬間に、全然知らない人に影響を与えているのかもしれない」とゾワッとします。

帯に、道尾秀介さんが言葉を寄せています。

「人生も、面白いのはいつも舞台裏。
見えている部分なんて大したもんじゃない」


この小説の「見えている部分」とは、松尾と康子の「澤口失脚大作戦」です。

そして舞台裏には、康子が一瞬だけ触れた小学生や、大物女優の老化に気をもむ芸能マネージャーが交錯。
彼らも舞台裏なりに、人生を必死に生きています。

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松尾も康子も、舞台裏の人々も懸命に生きているからこそ様々な壁に直面。

「バック・ステージ」は、そんな人生の壁を乗り越える方法をミステリー仕立てにしています。

いわば本書は、ダブルでミステリーが楽しめる物語。

澤口を追い詰めるまでのミステリーと、その裏で起こった通りすがりの人々のミステリー、両方を楽しむことができるんです。

そう考えると、この「バック・ステージ」、かなりお得な一冊ですね。

表舞台も舞台裏も、「なるほど、そうきたか」「まさか、こうきたか」と驚くことばかり。

1分1秒を惜しんでミステリーに浸りたい方には、かなりおすすめです。

ちなみに本書には、裏表紙に「お楽しみ掌編」を収録。

思わず「まさか、こうきたか」とつぶやいちゃいますよ。

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芦沢央の「雨利終活写真館」はミステリ―でストレス解消したい人におすすめ!

評価:★★★★★

「――やっぱり」
「だから何がやっぱりなんやて」
夢子は一拍置き、道頓堀だけではなく全員に向かって言った。
「私たちは勘違いしていたのよ」

(本文引用)
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 ひっさしぶりに「見事な謎解き」というものにうなりました。あ~、スッキリした!

 実は最近、どんなミステリー小説を読んでも不完全燃焼を感じていたんですよね。
 ミステリ―というから読み始めたのに、謎解きはどこにいっちゃったの? これってミステリーなの? みたいな小説が多いような気がして・・・。

 でも「雨利終活写真館」を読んだら、そのストレスはスパーンと星の彼方に消えました。

 「雨利終活写真館」に登場する謎解きは、本当に純粋な謎解きです。濃厚な謎解きです。



 誰でも起こしそうな勘違いから始まり、そこからずいずいと事情に迫っていくのですが、途中で座礁。
 何しろスタート地点から間違っているのですから、ゴールにたどり着けるはずがありません。
 そこで仕切りなおして、1つひとつもつれた糸をほどくように謎を解いていくと、あら不思議! スルスルーッと真相が明らかになります。

 ミステリ―を読む快感というのは、まさしくその「スルスルーッ」ですよね。

 よって「雨利終活写真館」は、ミステリーでストレスを発散したい方に超オススメ。

 短編集なのでスルスルーッが4回も味わえる、とてもお得な一冊です。

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プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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