評価:★★★★★
「あいつは条件や証拠だけで事件を見ません。事件を起こす人間を見るんです」(本文引用)
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現在大ヒット中の映画
「検察側の罪人」。
検事が「一線を越える瞬間」に、目を剥いた人も多いであろう。
そこでオススメなのが、柚月裕子著「検事の本懐」。
本書の主人公は、決して一線を越えないであろう若手検事。
彼はなぜ、検事として一線を越えずにいられるのか。
彼はなぜ、仕事や人生を失う覚悟で、正義を守り通せるのか。
本書は、そんな名検事の「本懐」に迫る短編集。
一冊だけでも十分すぎるほど面白いが、「検察側の罪人」と併せて読むと、より味わい深い。
一線を越える検事と、越えない検事・・・同じ検事でも「本懐」が違うと、こうも結果は違ってくるのかと驚かされる。
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■「検事の本懐」あらすじ
ある地域で、連続放火事件が起こる。
県警刑事・佐野は犯人を挙げるため、毎日心血を注いでいる。
それは市民の安全を守るため、そして、ライバル・佐野を見返すためだ。
出世ばかりに目を向けてきた佐野は、南場に手柄を取らせないようあらゆる画策をしてきた。
そんな姿を許せない南場は、佐野に横やりを入れられないよう、真犯人を追っていく。
南場はある日、一人の検事を紹介される。
検事の名は、佐方貞人。
まだ30歳にも満たない若手だ。
ある日、南場はとうとう一人の男に行き着く。
男は連続放火を認め、一気に事件は解決していく。
これで佐野を見返せる-南場は安堵するが、佐方は納得いかない様子。
連続放火事件のうち、1件だけ質が違う。
この捜査は、森だけを見て樹を見ていないのではないか。
さて、連続放火事件は本当に全て同一犯なのか。
それとも?
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■「検事の本懐」感想
本書は5話から成る短編集。
検事・佐方貞人の尋常ならざる洞察力と嗅覚、そして「人間1人ひとりに対する圧倒的な誠実さ」が、意外な形で事件を解決していく。
本書の魅力は、犯罪が絡んでいる内容なのに、読めば読むほど人を好きになれる点だ。
たいていミステリーを読んでいると、事件の陰惨さや加害者の悪党ぶりに心がやられ、人間不信になりそうになる。
しかし「検事の本懐」は、犯罪が色濃く描かれているのに、全ての人間が愛おしく思えてくるのだ。
その理由はもちろん、検事・佐方貞人の清廉さ・温かさだ。
佐方貞人は、どんな犯人に対しても、敬うべき一個の人間としてしっかり向き合う。
刑務所を出たり入ったりする者、疑獄事件への関与が疑われる者、過去に大きな過ちを犯した者、自分の家庭を窮地に追い込んだ者・・・。
全ての者に、揺るぎない愛情をもって接していく。
だから佐方は、冤罪を出さない。
だから佐方は、決して一線を越えない。
どんな人間に対しても、決してレッテルを貼らずに捜査するため、「本当の真相」に行き着くことができるのだ。
「裁判所の真相」で終わりそうになった事件が、佐方の腕で「本当の真相」へと大きく舵を切る過程は、読み応えたっぷり。
こんな物語を読んでしまったら、今、実際に起きている事件も、最初からすべて洗い流したほうがいいのでは・・・などと思ってしまう。(こんなことを言ったら、現実の検事さんに失礼かな?)
一話一話が短いため、充実したミステリーを細切れ時間に読める。
忙しい毎日、すき間時間に極上の読書タイムを過ごしたい人に、本書はおすすめだ。
さらに「検察側の罪人」と併せて読んでみてほしい。
著者は違うが、「検察側~」の最上と「検事の本懐」の佐方が戦ったらどうなるか?などと考えると、お腹の底からウズウズ。
読書の楽しさが何倍、何十倍にも膨らむだろう。
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