百田尚樹「夏の騎士」。こんなに泣き笑いした小説初めて!一気読みで顔面崩壊した危険すぎる一冊。
「やればできるはずなんや。今までは、やらへんかったから、でけへんかったんや。そやけど、やればできる。ぼくらの中にはそんな力が眠ってるんや」
(本文引用)
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「夏の騎士」は公共の場で読んではいけない。
私はうっかり近所のカフェで読んでしまい、途中、笑いすぎてアイスコーヒーが鼻から噴出(ホントだよ)。
その後は図らずも涙、涙で、アイメイクがモロモロに取れる始末。
「夏の騎士」は、ずばり顔面崩壊小説。
デートの待ち合わせで「ちょっと時間があるから・・・」なんて気持ちで読んだら、大変なことになる。
「夏の騎士」は、「今日は家族以外、誰にも会わない」という日に読むのがおすすめだ。
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■「夏の騎士」あらすじ
本書は小6男子三人組の、ひと夏の経験物語。
三人組の名はヒロ、陽介、健太。
勉強もスポーツも苦手なテンプクトリオが、秘密基地を作りながら、突如「騎士団」を結成する。
騎士団の理念は、名誉・勇気・礼節を重んじ、仲間を大切にすること。
そしてレディを守ること。
彼らはクラスのマドンナ・有村由布子を姫に据え、守ることを決意。
その旨をクラス全員に宣言する。
クラスは爆笑の渦に包まれるが、彼らはおおいに本気。
そんななか、由布子は騎士団に「ある挑戦」を依頼。
騎士団としての本気度を確かめようとする。
一方、地元では女児をねらった殺人事件が発生。
騎士団は町に住む「怪しい人」をピックアップし、犯人を捕らえようと試みるが・・・?
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■「夏の騎士」感想
「夏の騎士」の魅力は、まず「自分に厳しくなれる」こと。
「自分に厳しく」といっても、己をキュウキュウに追い詰めるのではない。
「よし、がんばろう!」「一所懸命生きよう!」という意欲が、不思議なほど自然とムクムクわいてくるのだ。
レディ・由布子が出した「試練」に、騎士団が必死に立ち向かう姿。
一歩一歩、何かを達成するごとに、「勇気」がひとつずつ増え、一回り大きくなるプロセス。
仲間を守り、レディを守る騎士たらんとすることで、双葉から本葉になるように成長する彼らの様子は、とにかく痛快!
「人生は、その時その時に真摯に生きれば、必ず素晴らしいギフトが待っている」・・・心からそう思える展開で、生きるのが楽しくなってくる。
そして本書最大の魅力は、ずばり「他人に寛大になれること」だ。
物語にはもうひとり、ヒロインがいる。
それはマドンナ・由布子と正反対の壬生紀子。
母親が精神を病み、いつも髪や服がボロボロ。
勉強もさっぱりできないが、とにかく毒舌で、みんな紀子に泣かされている。
ある日、文化祭のお姫様役で、女子たちが示し合わせて紀子を推薦。
それは紀子に恥をかかせようという策略だが、事態は意外な展開に・・・?
本書では紀子ほか、問題を抱える人物が複数登場する。
彼らは常に白い目で見られたり、「悪人認定」されたりと、社会から爪はじきにされている。
おそらく自分の身近にいても、「近づかないでおこう」と思ってしまうだろう。
しかし本書を読んでいると、徐々にそんな差別意識が消えてくる。
傲慢な気持ちがシュワシュワと溶けて、なくなってくる。
相手の社会的立場などは関係ない。
人としてどんな信念をもっているか。真の優しさ、勇気をもっているか・・・その観点だけで相手を見れば、人はどんどん優しくなれる、寛大になれる。
色眼鏡で人を見ず、しっかりと「その人のまま」を見ることがいかに大切で、幸せをもたらすか・・・。
「夏の騎士」はユーモラスな筆致で、そんなことを伝えてくれる。
表面的ではない、「本当に豊かな気持ちになれる人間関係のつくりかた」を教えてくれるのだ。
思いもよらぬラストも見事。
「油断させておいて、そうきたか!」と、そんじょそこらのミステリーも驚く急展開となっている。
最初から最後まで、全く飽きることなく泣いて笑ってドキドキして、気づけば読み終えてしまった。
そして今、つくづく「百田尚樹さんの引退」が惜しくてたまらない。
本当にこの小説でペンを置いてしまうのだろうか。
こんなにコンスタントに「おもろい話」を読ませてくれる作家さんは、なかなかいない。
もしホントにホントで引退してしまったら、また作家活動を始めてもらうよう依頼しよう。
「探偵!ナイトスクープ」で。