このカテゴリーの最新記事

これは森見登美彦ファン必読!?アニメ「夜は短し歩けよ乙女」の前に、この「恋文の技術」を読んでみよう。

評価:★★★★★

 そもそも私はまどろっこしい男であり、時代に逆行するのも望むところだ。
 そういうわけで、こんな小説を書いたのです。

(「あとがき」より)
______________________________

 もう~、な~んてキュートな小説なのかしら!図らずも思いっきり胸キュンしてしまった。
 森見作品は、主人公がいつも一生懸命で、時に無様なほど真面目な可愛らしい人が多いが、本書の主人公はまた飛びぬけている。

 世界中の女性を籠絡すべく、恋文の技術を鍛え、ついには恋文のベンチャー企業を立ち上げようとあちこちに手紙を出すが、本当に出したい人にはなかなか出せない。
 本書は、そんなシャイで強がりでカッコ悪くてカッコ良い独りの男による、ピュアすぎる書簡小説である。
_______________________

 京都の大学院で研究生活を送っていた守田一郎は、手紙を通じて、恋に悩む親友の相談にのる。
 守田が手紙を書く相手は、その親友に限らない。研究室のお局的存在の女性や、見どころのある小学生男子や妹、そして作家を生業としている先輩・森見登美彦にも、守田は手紙を送りつける。

 それは文通修業であり、恋文で世界の女性を籠絡するためだと守田はうそぶくが、実は一人だけ、手紙を書けない相手がいた。

 その人こそ、守田が恋する女性であった。
_________________________

 今やすっかりメールやLINEとなり、手紙を書く機会などめっきり減った。





続きを読む

夜行  森見登美彦

評価:★★★★☆

  「世界はつねに夜なんだよ」
(本文引用)
______________________________

 実はファンタジー小説は苦手だ。ちょっとでも幻想的な香りを感じると、「実際にそんなことがあるわけない」などと考えてしまい、なかなか物語に入り込めない。

 しかし、この小説には引き込まれた。幽玄さと薄気味悪さのなかに「真実」があるような気がして、途中で読むのをやめたら後悔する――そんな気がしたのだ。

 私が実際に見ている「と思っている」世界は、本当に存在しているのか。嘘や幻「と思っている」世界が、本当の世界なのではないか。真実を映し出しているのではないか。
 読むうちに、そんな疑問が胸に沸き起こってくる。森見登美彦は、現代の宮沢賢治なのかもしれない。



______________________

 ある日、英会話スクールで出会った男女5人が京都のお祭りに出かける。

 実はこのグループ、10年前にも同じお祭りを観に行ったことがある。ただし、その時のメンバーは6人。そのうち1人の女性が、忽然と姿を消したのだ。

 いよいよ祭りを翌日に控えたある日、メンバーのひとりが、行方不明になったメンバーとそっくりの女性を見かける。
 彼女が入っていった画廊には、ある女性が描かれた銅版画が展示されていた。

 タイトルは「夜行――鞍馬」。

 姿を消した女性、「夜行」と呼ばれる連作版画。その絵をめぐりメンバーは一人ひとり不思議な体験を語っていく。
___________________________

 この小説は、まるで百物語のように、メンバーが奇怪な体験を語っていくのだが、どれも人の心を見透かすようなドキリとする内容だ。

 突然家を出た妻のもとを訪ねたところ、妻が全くの別人のようになっていた話。
 未来が見えるという女性に、「死相が出ている」と言われる話。
 転校先の学校で仲良くなった女の子と、徐々に疎遠になり、ついにはその女の子が死んでしまう話・・・。

 連作絵画を見ながら、メンバーの口々から吐き出される体験談は、どれも人の心を射抜くような薄気味悪さを帯びており、読むうちに居心地が悪くなってくる。

 しかし、その居心地の悪さが、この物語の重要な要素なのだろう。

 普段、目を逸らしている「己のやましい部分」を突かれると、人は途端に居心地が悪くなる。

 なぜ妻は別人のようになったのか、なぜ死相が出ていると言われたのか、なぜ仲良くなった女の子は亡くなったのか。
 彼らはその体験談を話すうちに、自分の内なる部分にその理由を見つけ出していく。
 そう、まるで外が暗くなるにしたがって、列車の窓に自分の顔がくっきりと映り出すように・・・。

 ただのファンタジー、怪談では片づけられない、自己凝視を促す「夜行」。
 自分の心の蓋をこじ開ける勇気のある方に、全力でお薦めしたい傑作である。

詳細情報・ご購入はこちら↓


プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

最新記事
シンプルアーカイブ
最新コメント
最新トラックバック
RSSリンクの表示
QRコード
QR

書評・レビュー ブログランキングへ
にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村
カテゴリ
広告
記事更新情報
リンク
広告