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「あと少し、もう少し」あらすじ感想。駅伝小説「名作中の名作」と言われる理由とは?

「中学校のスポーツは技術以上に学ぶものがあるっていうの、今までぴんと来なかった。だけど、今はわかるんだ」
(本文引用)
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 駅伝小説は数多ある。
 
 しかし「あと少し、もう少し」は、駅伝小説のなかでも抜きんでた存在。
 読書感想文の課題図書にも指定され、小学生から大人まで幅広く愛されている名作だ。

 私も前から「読みたい、読まなきゃ」と思っていたのだが、つい積読状態に。
 子どもが中学生になったのを機に、ようやく読んでみたのだが・・。

 結論。

 「こりゃ名作だわ」

 駅伝小説ということで、ただひたすらゴールを目指す「一直線の小説」と思っていた。
 しかし本書は、そんな簡単な物語ではない。


 「ああ、駅伝って、みんなが同じ方向を見るんじゃないんだな。万華鏡のように、いろんな角度から、様々な側面を見るものなんだな」

 「あと少し、もう少し」は、そんな「駅伝の思わぬ複雑さ」をじっくり見せてくれる小説だった。

 いや、深い。
 実に深い。

 「名作」って、こういう小説をいうんだな。

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瀬尾まいこ「強運の持ち主」。絶対に当たる占い師は、意外な場所にいる!?

評価:★★★★★

 「終わりは時々やって来て、でも、ずっと続いていく。それを、繰り返すたびにちょっとずつ幸せが増えていく感じかな」
(本文引用)
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日経新聞に素敵な記事が載っていた。

 令和元年5月7日夕刊「それでも親子」。
 ゲストは映画コメンテーターの有村昆さんだ。

 有村さんの家族は、「ツイてるコール」を毎晩していたという。
 夕食後、全員で「ツイてる、ツイてる、本当にツイてる」と手をたたきながらコール。
 
 さらに毎日、「今日は学校でどんないいことあった?」と聞かれたとか。
 そのおかげで、嫌なことがあっても、いいことを探すようになったという。


 私も子どもに毎日、「今日、学校楽しかった?」とは聞く。
 私自身、子どもの頃、毎日母親に「今日、学校楽しかった?」と聞かれて嬉しかったからだが、明日からは聞き方を変えてみようと思う。

 「楽しかった?」では、楽しくなかった場合プレッシャーになってしまう。
 「どんないいことあった?」なら、「今日は嫌な日だったなあ」と思っていても、何か楽しいことを見つけるかもしれない。

 よし、明日からは「何かいいことあった?」と聞いてみることにしよう。
 そうすれば「強運の持ち主」になれるかもしれない。

 というわけで、今回ご紹介するのは、瀬尾まいこ著「強運の持ち主」。

 占い師が主人公だが、実は「絶対に当たる占い師」は意外な場所にいると判明。

 さて、いちばん頼りになる占い師とはどこに?
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■「強運の持ち主」あらすじ



 吉田幸子はショッピングセンターの片隅で、占い師をやっている。
 評判が良く行列ができるほどだが、時に不思議な依頼がくる。

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 「お父さんとお母さん、どっちを選べばいいの?」と相談してくる小学生。
 「振り向いてほしい男性がいる。でも何をやっても効果がない」とすがりつくわりには、ちゃっかり彼氏がいる女子高生。
 
 商売繁盛を聞きつけてか、アシスタント希望者も登場。

 しかしいずれもクセのある人ばかり。
 「人の終わりが見える」と言うスピリチュアル男子や、歯に衣着せぬ弁舌で最悪の結果をズバズバ言う女性・・・。

 占い師・幸子の運命やいかに?
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■「強運の持ち主」感想



 いや~、何だかものすごくスカッと爽やか幸せ気分!
 
 おそらく、日頃占いを信じないタイプの人ほど「読んで良かった!」と思うんじゃないかな(私がそうなので)。
 
 毎朝、情報番組の占いを見るだけで一喜一憂するタイプの人は「求めてるものと違う・・・」とガッカリするかもしれない。

 なぜなら本書を読めば、「必ず当たる占い師」は「自分の中にいる」とわかるから(すみません、ちょっとネタバレかも)。

 それを気づかせるのが、幸子の役目。
 「自分の中の占い師」に導かれ、人生を歩いて行く依頼主の姿には、思わずエールを送りたくなる。

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 そして読み終えた頃には「よし、私も自分を信じて頑張ろう!」と力がわいてくるのだ。

 占いを否定するわけではないし、背中を押してもらうためには占いも有効であろう。

 だが、もし今「占い」に心を左右されているのであれば、本書を読んでみてほしい。

 占いは活用次第で、人生を大きく開くことに気づくはず。

 本書を読めば、朝のテレビの占いも「あなたのエネルギー源」となる。
 そして一日一日、「強運の持ち主」に確実に近づいていくだろう。
                                                                     
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「幸福な食卓」は瀬尾まいこさんの魅力が詰まった必読本!

評価:★★★★★

「真剣ささえ捨てれば困難は軽減できる」
(本文引用)
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 「そして、バトンは渡された」で本屋大賞を受賞した、瀬尾まいこさん。
 瀬尾まいこ作品の口コミを見ると「『幸福な食卓』でファンになった」という声が多い。

 そこで遅ればせながら、「幸福な食卓」を読んでみた。
 
 感想は・・・
 「あ!だから瀬尾さんの本は読んでて嬉しいんだ!楽しいんだ!何冊も読みたくなるんだ!」

 つまり「幸福な食卓」は、瀬尾まいこさんの「良さ」が凝縮された本。
 瀬尾作品の魅力がテリッテリになるまで煮詰められた一冊なのだ。

 私は今まで何冊か瀬尾作品を読み、「どうしてこう、瀬尾まいこさんの小説には心動かされるんだろう? 読んで良かったって思うんだろう?」と疑問に思ってきた。

 
 しかし「幸福な食卓」を読み、理由が一気にわかった。
 あ~~、何だかスッキリ!
 理由がわかった勢いで、実は連休中にもう一冊、瀬尾作品を読んでしまった(その感想はまた後日)。
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■「幸福な食卓」あらすじ



 主人公の佐和子は中学生。
 家族は両親と兄だ。

 しかし佐和子の家庭はちょっと変わっている。

 母親は数年前に家を出て、アパートで独り暮らしをしている。
 しかし両親は離婚したわけではなく、仲が悪いわけでもない。

 だが母は出て行ってしまった。
 それは父親がかつて、風呂場で自殺未遂をしたから。

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 母は生真面目な父に疲れていた。
 そして父はその生真面目さ故に事件を起こした。
 
 母は、父の存在と事件の影響で精神のバランスを崩し、家を出たのだ。
 
 そして今、父も変わろうとしていた。

 「父さんは今日で父さんを辞めようと思う」


 佐和子の家族はいったいどこへ向かっていくのか。

 吉と出るのか凶と出るのか・・・?
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■「幸福な食卓」感想



 瀬尾まいこさんの小説は、いつもどこか壊れている。
 壊れているから、瀬尾作品は何度も何冊も読みたくなるのだ。

 「幸福な食卓」に出てくる人物は皆、社会不適応な部分を含んでいる。
 
 佐和子の両親は「普通の夫婦のあり方」から脱線。
 兄の直ちゃんは秀才の誉れ高く、トップの進学校に通っていたのに、エリート街道からドロップアウト。
 そして佐和子の恋人も相当なクセ者。

 誰も彼も「よくこの調子で生きていけるなあ・・・」とハラハラする人ばかり。
 しかも皆、「自分は正しい」と恐ろしいほど信じており、ハチャメチャな持論を展開する。

 そう、そこが瀬尾まいこ作品の何とも言えない魅力だ。

 ちょっと壊れているから、いい加減だからこそ、弱っている人に寄り添える。
 ちょっと壊れているからこそ、呆れるほどに、相手に愛情を与えることができる。

 瀬尾まいこさんの小説を読んでいると、正論なんて何の意味もないと思えてくる。

 常識からはずれていてもいい。
 自分なりのせいいっぱいの愛の形で、相手に寄り添うことが、真に人の心を救うのだ。

 本書でいちばん注目したいのは、直ちゃんの彼女・ヨシコさん。
 けばけばしく、香水をプンプンさせたヨシコさんを、佐和子は最初敬遠する。

 しかし佐和子は、徐々にヨシコさんの本当の魅力がわかってくる。
 そのプロセスには、心が震えた。
 「愛情って伝えるものではない。押しつけるものでもない。伝わるものなんだ」と、素直にウルッときた。

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 このヨシコさんの人物像や行動には、瀬尾まいこ作品の良さが詰まっている。
 「幸福な食卓」、いや瀬尾まいこ作品のなかで、ヨシコさんは最重要人物といって良いだろう。

 ちなみに文庫版は、「解説」がまた素晴らしい。
 筆者は、あのニッポン放送・人気アナウンサー・うえやなぎまさひこさん。
 音楽好きの人にとっては、たまらないお名前ではないだろうか。

 本書巻末では、うえやなぎさんがニッポン放送の買収問題と絡めて、「幸福な食卓」を解説。
 内部の人にとって、買収騒動がどれほど大変なものだったかを吐露し、さらにその当時の心境と「幸福な食卓」をリンクさせている。
 ニッポン放送社員という立場だったからこそ語れる鬼気迫る内容に、息を止めて読んだ。

 この解説は、数ある小説の「解説」のなかでも秀逸。
 「幸福な食卓」は物語ももちろん面白いが、ぜひ解説まで一冊まるごと堪能していただきたい。
                                                                     
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瀬尾まいこファン必読「傑作はまだ」。小説の傑作が産まれる経緯に身震い。

評価:★★★★★

 一人で過ごしていれば、そういう醜いものすべてを切り捨てられる。ストレスも嫌らしい感情も生まれない心は、きれいで穏やかだ。しかし、こんなふうにうれしい気持ちになることは、一人では起こらない。
(本文引用)
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 いろんな小説を読んでいると、ある作家の「化ける瞬間」というものに立ち会える。

 「この作家さん、今までと違う。一皮むけた感じ」
 「この作家さん、今までもうひとつな感じだったけど、K点越えした感じ」
 「この作家の本って、こんなに面白かったっけ!?」

 じっと見守ってきた「もうひとつ」と思ってきた作家が、ドカンとブレイクすると、踊りたくなるほど嬉しくなる。

 そしてふと思う。
 「少女に何が起こったか」ならぬ「作家に何が起こったか」と。

 傑作・出世作が産まれる経緯とは、本書のようなものかもしれない。


 瀬尾まいこの最新刊「傑作はまだ」は、作家が主人公の家族小説。
 人気作家だからこそ書けた、「ベストセラー誕生の裏側物語」だ。
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■「傑作はまだ」あらすじ



 主人公・加賀野は50歳の小説家。

 デビュー作は評価されたものの、その後は今一つブレイクできずにいる。
 しかし生活するには困らないお金を、十分持っている。

 そんな加賀野のもとに、突然25歳の青年・智が現れる。
 智は何と、加賀野の子ども。

 学生時代、いっときの過ちでできた子どもで、相手の女性はひとりで智を育て上げた。

 智と加賀野はしばらく同居することになるが、智は驚くべき生活力を発揮。

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 町内会の人ともすぐ仲良くなり、加賀野が好きそうなものを買ってくる。
 
 それは職業柄、長年家に閉じこもっていた加賀野にとって、あまりに新鮮なものだった。
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■「傑作はまだ」感想



 人間は人間なしでは生きられない。
 一人で生きている、一人で生きていけると思ったら、大間違い。

 本書を読み、改めて「人は人によって生かされる」ということを認識した。

 智を見習い、誰かをもてなそうとしてはことごとく失敗する加賀野。
 いつしか一人でいることの快適さに慣れ、人を喜ばせること、人の気持ちを推し量ることを忘れていた加賀野。

 加賀野が智との出会いから、徐々に人間力を高め、作家としての飛躍をとげようとする経緯は思わずブルッ。

 作家が作家を描く、という二重構造にもドキドキするが、それ以上に「傑作」が産まれるプロセスを「傑作小説」で知ることができるという二重構造にも身震いする。

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 「傑作はまだ」は、ある意味とんでもない問題作なのかもしれない。

 本書は瀬尾まいこファンはもちろん、世の小説ファン全員におすすめ。

 大好きな本を読み返しながら、大好きな作家の作品を読み返しながら、ぜひこの「傑作はまだ」を読んでみていただきたい。

  「あの作家、あの作品から突然面白くなったけど、こんな出来事があったのかな」
 そんなことをあれこれ想像し、夜も眠れなくなっちゃうかも。 

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「私、子どもを愛しすぎ!?」そうお悩みの方におすすめ!「そして、バトンは渡された」瀬尾まいこ

評価:★★★★★

 「うん。すごい。どんな厄介なことが付いて回ったとしても、自分以外の未来に手が触れられる毎日を手放すなんて、俺には考えられない」
(本文引用)
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 子どもを育てていると、こんなことに悩みませんか?

 「私、子どもを愛しすぎてない?」
 「俺、過保護なのかな」
 「もう少し、突き放すべき?」

 つまり「子どもに注ぐ愛情の適切量がわからない」という悩み。

 私も夫もしばしば「私たち、甘やかしすぎかな」「過保護かな」なんて話を、しょっちゅうしています。

 そんな自分を正当化するわけではありませんが(いや、ちょっとしているかも)、本書を読み、「このままでいいんだ!」と安心しちゃいました(いいのか?)。




 愛情は注げるだけ注げばいい。
 子どもの人生を支配・侵害・妨害するような行為は厳禁ですが、愛情は思いつく限り注げばいいんです。

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 有名な絵本ではありませんが、「●●がそう望むなら、お月様だって取ってあげる!」と長~いハシゴを持ってきちゃう。

 そんな「ちょっとやりすぎ!?」なぐらい愛を注いでいいんです。

 いつもちょっとブラックな香りの中に、真の愛を教えてくれる瀬尾まいこさんの本。
 瀬尾さんの最新刊「そして、バトンは渡された」は、「俺って、私って、過保護かも?」と不安な保護者の方に非常におすすめです。


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■「そして、バトンは渡された」あらすじ



 主人公の優子は高校生。
 優子は過去に4回も、苗字が変わっています。

 それは両親が何度も変わっているから。

 実の母は幼い頃に亡くなり、父親は再婚したものの海外へ。
 その後、継母は再婚して父親も変わり、再度離別・・・etc.

 現在、優子は父親と二人暮らし。
 「森宮さん」という35歳のイケメン会社員が、現在の優子の父親です。

 そんな並々ならぬ複雑な環境で育った優子。
 彼女にとっての悩みは、実は「周囲が期待するような悩みがない」ことなのですが・・・?
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■「そして、バトンは渡された」感想



 この小説を表す一言は、作中のある人物がスパッと語ってくれています。

「あなたみたいに親にたくさんの愛情を注がれている人はなかなかいない」



 そう、そうなんです。
 優子の親は常にムチャクチャハートフル。

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 特に継母である、ギャルっぽいママ・梨花の愛情と行動力は度肝を抜くものです。

 詳細はネタバレになるので省きますが、「普通ここまでやる?」というぐらい、優子の幸せのために突っ走ります。
 それこそ月まで取ってきちゃいそうな、突き抜けるような愛・明るさ・行動力には、呆れながらもホロリとさせられます。

 そして森宮さんの、ちょっと見当違いな「愛の示し方」もいい。
 思春期の優子にとっては「ちょっとウザい」と言いたくなるような、微妙に的外れでしかも暑苦しい愛なのですが、それが実際には優子を救っています。

 実は途中、優子は友人との仲がこじれ、学校でいじめのターゲットにされてしまいます。

 でも優子は不思議なほど泰然自若。

 周囲も優子自身も「複雑な家庭環境で育ったからこれぐらい平気」と思っていますが、平気な原因はそこではないことが、小説からは伝わってきます。

 優子は気づいていないかもしれませんが、優子は「自分が愛されている自信」が絶対としてあるのです。

 だから優子はブレません。
 ブレる者は、ブレない者には勝てません。

 だから優子は、いじめを乗り越える(というか、いじめっ子が優子に勝てなかった)ことができたんです。
 
 優子をバトンのように渡してきた、何人もの大人たち。
 彼らには身勝手なところも多々ありますが、優子への愛だけは決して揺らぎません。

 太陽と水を与えれば、強く美しい花が咲くように、人間も愛をたっぷり注げば強く美しくなるんですね。

 本書を読み、何だか身体中の力が抜けるほど安心しました。

 ラストに向かうにつれて、注がれた愛情の分、優子が立派な女性になっていくのもgood!

 「俺、私、子どもを愛しすぎ!?」とお悩みの方は、ぜひ一読を。

 「これからも愛しすぎちゃえ!」と、子育てがうんと楽しくなりますよ。

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「僕らのごはんは明日で待ってる」瀬尾まいこ   感想

評価:★★★★☆

  濁っていてもよどんでいてもかまわない。どんなややこしいことでも飲みこめる水をたたえられるようになりたい。
(本文引用)
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 2017年1月7日より映画公開される「僕らのごはんは明日で待ってる」。
 本書は、その原作だ。

 瀬尾まいこさんの小説というだけで、「ただ者ではない小説なんだろうなぁ」と構えながら読んだが、やはりその通りだった。

 「僕らのごはんは明日で待ってる」というタイトルの意味を、私は最初、全くわからなかった。
 「ごはんが主語?何か『てにをは』が間違っているのでは?」と首を傾げてしまった。

 しかし読むうちに、これ以上ふさわしいタイトルはないことに気づいた。そして、そのタイトルの示す意味の重さに、今はただ茫然としている。



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 主人公の葉山亮太は、以前は明るい人気者だったが、高校入学以来は一人でたそがれていることが多い。
 上村小春は、そんな亮太のことが中学の時から好きだった。
 小春の積極的な態度から、二人は付き合うこととなるが、互いのプライベートや過去がわかってくるにつれて、波長がずれていく。
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卵の緒  瀬尾まいこ

評価:★★★★★

 「そういう無謀なことができるのは尋常じゃなく愛しているからよ」
(本文引用)
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  先日、NHK「グレーテルのかまど」で紹介され、なぜか強烈に心惹かれた一冊。お題であるキャロットケーキが登場するということで、とりあげられたのだが、タイトルを見た瞬間にピンと来て、数秒後にはアマゾンでポチっていた。

 そしてその直感は大当たり。「匂い立つような」と言おうか、「はちきれんばかりの」と言おうか、とにかくどんな言葉を尽くしても足りないほど、「愛」が丸々とパンパンに詰まっている物語なのだ。
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 主人公の育生は、自分を「捨て子」だと言う。
 
 以前、母親に「へその緒を出してほしい」と頼んだところ、出されたのは卵の殻。
 母親曰く、育生は卵で産んだという。



 そんな時、母親に恋人ができる。母親の恋人と家族同然になるうちに、育生は自分の出生の秘密を知っていく。
 そこには、母親の並々ならぬ愛情があった。
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 もし今、「親子の愛って何だろう?」と考えている人がいたら、全力でこの物語をお薦めする。その答は、気持ちよいほど簡潔に、そして唸るほど深く、この物語に書かれている。ある意味、究極かつ至高の育児本ともいえるだろう。

 育生の母親はかなり豪胆な人物で、読みながら、私は何度も彼女の姿に眉をひそめた。
 しかし、物語終盤で彼女の生き方や真意を知ると「眉をひそめた」ことを激しく後悔した。
 
 育生の母親を非難する私は、子どもを愛しているふりをしているのではないか。自分が子に注いでいる愛情は、体面と表裏一体になっているのではないか。

 そんな自己嫌悪に猛烈にかられ、改めて、育生の母親のような立場であることを想定して、子どもを見つめてみた。
 すると驚いたことに、子どもが可愛くて可愛くて仕方がない。全てを投げ打ってでもこの子を愛し抜きたい。そんなまっさらな自分が顔を出したのである。

 こう書くと、子どものいる母親しか共感できない物語のように聞こえるかもしれない。しかしこれは、親をもつ子どもの立場としても十分心動かされる。

 あの日あの時、どうして親は自分にここまでしてくれたのか。どうしてとっくに大人になった自分を、こうして見守ってくれるのか。

 それはきっと、どの親も「育生の母親」だから。「へその緒を出して」と言われて「卵の緒」を出しても(出す人は滅多にいないとは思うが)、子どもとの信頼関係は揺るがない自信がある。そういう親たちなのだ。そういう親たちに、私たちは育ててもらっているのだ。

 親子というものの絆の強さや愛情の深さを、これほど過不足なく描き切った小説はなかなかないのではないか。
 現在、親子関係で悩んでいる方には、ぜひ読んでいただきたい一冊。今まで思いもしなかった方向からスパーンと解決し、このうえなく純粋に、子どもを、そして親を愛することができるようになるだろう。

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プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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