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「愛がなんだ」原作感想。恋で人生狂わせたくないなら、読んでおくべき「恋愛教本」。

評価:★★★★★

「もうほんと、今日はなんでかほかにだれもいねえよってときに、あっ、ナカハラがいんじゃんって、思い出してもらえるようになりたいんす」
(本文引用)
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 「愛がなんだ」の映画が、非常に好評だ。
 私はまだ映画を観ていないのだが、映画館で予告編を観て「面白そう」と直感。
 
 そして本書を読了後、今度はWEBで予告編を視聴。
 原作のイメージぴったりのキャスティング、そしてそして・・・「恋の狂気が匂いたつような映像」にブルッときた。

 今現在、恋愛で「自分、ちょっとおかしいのかな?」と思っている人は、ぜひ一読を。
 また「友人の恋愛が心配」という人は、さりげなく本書を薦めてみても良いだろう。

 本書を読めば、恋で加熱し誤作動した脳をクールダウン。
 「惚れた腫れた」で「人生狂った!」という最悪の事態は免れるだろう。


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■「愛がなんだ」あらすじ



 山田テルコには、好きな人がいる。
 田中守、通称マモちゃんだ。

 テルコはマモちゃんの家にも行くし、ご飯も作るし看病もするし、男女の関係にもなっている。

 しかしテルコはマモちゃんの恋人ではない。
 完全に「都合のいい女」状態で、それを周囲に指摘されても、恋の暴走がやめられない。

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 マモちゃんへの思いでいっぱいになりすぎて、仕事も疎かに。
 せっかく正社員で勤めていたのに、ついに退職を迫られる。
 
 でもテルコは平気。
 だってマモちゃんがいるから。
 ナカハラくんだって、親友に片思いして「都合のいい男」で満足してるじゃない。

 そう思い、テルコはどうにかこうにか日々を過ごす。

 しかしある日、テルコの前に一人の女性が現れて・・・?
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■「愛がなんだ」感想



 前述したように、本書は「恋で人生狂わせないため」の最強マニュアル。 

 「あの人のことが頭から離れない」「この前まで、こんな私じゃなかったのに」「私、今、ちょっとおかしいのかな?」

 そんな疑念が1ミリでもあるなら、本書は必読だ。
 
 たとえば恋愛相談などで、こんな言葉をよく見かける。

 「相手も自分に好意を持ってくれてると思うのですが」
 「今忙しいので、と言って断られたのですが」
 「A子より私のほうが魅力があると思うのですが」
 「私のほうが先にアプローチしていたら、今頃彼は私の夫だと思うのですが」
 
 どれもこれも、言葉は悪いが「んなわきゃねーだろ!」と言いたくなるものばかり。
 しかし片思いをこじらせていると、それがわからなくなるもの。
 恐ろしいほどポジティブになり、どんどん相手を困らせる羽目に。
 憧れの「両想い」から、ますます遠ざかり、なかには仕事・友人・家族も失う人もいる。

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 テルコの言動・状況を見れば、そんな最悪の状況だけは避けられる。
 「もしかして私、こんなになってる?」と自分と照らし合わせて読めば、人生の軌道修正ができるはずだ。

 しかもこの話、ダメダメテルコに終わらないところが素敵!
 ややネタバレになるが、テルコが意外なほどの成長を見せ、後味のよいラストになっている。

 そんなラストも含めて、本書は最高の恋愛教本。
 周囲から「イタい」と言われない恋、そして相手から「ウザい」と言われない恋をしたいなら、読んで損なし。

 「恋はしたいけど、恋で人生狂わせるのだけは御免!」
 「好きな人がいるけど、家族や友人、仕事を失うのだけは困る」
 「両想いにはなれなくても、せめて嫌われたくはない」

 そう願う安全志向の方は、まず「愛がなんだ」を読んでおこう。
 波乱万丈、周囲を引っ掻き回すのがお好きな方は、もしかして物足りないかも?
                                                                
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女性同士の人間関係に苦しむ人へ。「対岸の彼女」角田光代

評価:★★★★★

葵ももうひとりの女の子も、こわかったのだ。同じものを見ていたはずの相手が、違う場所にいると知ることが。
(本文引用)
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 昔から「女性の友情とは、極端なものだなぁ」と感じていた。

 もちろん人にもよるが、よく見かけるのが「ベッタリ仲良しだったのが、突然仲が悪くなる」というもの。

 昨日まで磁石のSとNのようにピッタリくっついていたのが、今日になったらSとS、NとNのように「ふんっ!」と反発といったものだ。

 そうなるのがわかっているなら、最初からベタベタ仲良くしなければいいのに・・・と傍から見ていると思うのだが、なかなか気質は変えられないもの。
 にこにこぷんっ!を繰り返す女性というのは、わりと多いのだ。



 角田光代氏の「対岸の彼女」は、そんな「女子独特の人間模様」をそっくりコックリ描いた本。
 「なるほど、にこにこぷんっ!にはこういう心理が働いていたのかあ~!」と半月板が割れそうなほど膝を打ってしまった。

 今現在、女性同士・女の子同士の人間関係に悩んでいる人は必読。
 読めば必ず「相手の思い・自分の思い」が目が覚めるようにわかり、心がスッと軽くなるはず。
 
 本書を閉じたら、思わずスキップしてしまうだろう。  
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■「対岸の彼女」あらすじ



 主人公・小夜子は専業主婦。
 3歳の娘がいる。

 大学卒業後、映画配給会社でバリバリ働いていたが、寿退社。
 実は人間関係に疲れての退職だったが、折よく結婚が決まり、それを口実に辞めたのである。

 しかし最近、仕事がしたくなってきた。
 子どもを連れて公園をあちこち回り、またもや人間関係に疲れるぐらいなら働いたほうが・・・。

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 そう思った小夜子は旅行会社で働きはじめる。
 
 しかし仕事の実態はハウスクリーニング。
 さんざん汚れた個人宅の清掃作業だった。

 そして勤務先の社長もまた、人間関係に疲れ、漂流を繰り返す女だった。
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■「対岸の彼女」感想



 本書は、小夜子の現在と、女社長・葵の過去とが交錯する物語。
 二人の女性の現在と過去を追いながら「女同士がわかりあえそうで、わかりあえない理由」が浮かび上がってくる構成だ。

 何でも話せる女友達はほしい、でも近づきすぎるとヤケドする。
 もうそんな思いはしたくないのに、また失敗してしまう。

 小夜子と葵の現在と過去を見てみると、「本当に人間って馬鹿だなあ」と苦笑いをしてしまう。
 
 しかしそこが、「対岸の彼女」の大きな魅力。
 「人間の愚かさぶり」を、いやらしいぐらい緻密に描写。
 「もしかして、私のこと見てた?」とドキドキしながら読み入ってしまうのだ。

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 仲良くなりたい相手なのに、どうして自分が上位に立ちたいんだろう。
 どうでもよいことなのに、なぜ相手の意見を否定したくなるんだろう。
 
 そんなちょっとした傲慢な気持ちが、人間関係につまずく原因なのに、なかなか閉じ込めておくことができない。
 失敗するってわかってるのに。

 本書は、そんな「うまくやれない女同士のもどかしさ」を、残酷なまでに容赦なく描き出している。
 さすが直木賞受賞作だ。

 「私は女友達とうまくやってるわよ」「職場での人間関係も順調よ」という人も、ぜひ読んでみてほしい。

 本書は、女性が関わる人間関係を虱つぶしの勢いで全部全部ぜーんぶ!描いている。
 
 どれかひとつぐらいは「あ、この人とは私、うまくやれてないかも」とドキリとさせられるだろう。
 
 ラストも秀逸。
 一瞬、「やっぱりこうなっちゃうか~・・・残念!」と落胆しかけたが、そこからググッと急展開。

 女同士の人間関係で気持ちがズシーンと重くなっている人、女同士の距離感に悩んでいる人。

 最後まで読めば、自分なりの突破口がきっと見つかる。
 
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「アメトーーク!」で読書芸人がおすすめ!角田光代「森に眠る魚」

評価:★★★★☆

私が手に入れられないものを、なぜあの女が手に入れなければならない。
(本文引用)
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 昨年の「アメトーーク!」読書芸人で紹介され、注目されている一冊。
 オードリー・若林正恭さんのおすすめだそうである。

 乳幼児を抱えた母親同士の争いというのは、もはや「大衆にウケる小説」の大定番。
 小説でもドラマでもママ同士の醜い競争を描けば、とりあえず人気が出るといった具合である。

 そのなかでも、この「森に眠る魚」は秀逸。

 子どもを持った女性の焦燥感や劣等感や「格付けしたい感」が、微に入り細を穿つ筆致でこれでもかと描かれている。

 はっきり言って「なぜそんな人とズルズル付き合っているんだろう?」と不思議に思う場面も多々あった。
 しかしそう思ってしまうのは、著者の仕掛けた罠にはまった証拠なのだろう。



 つきあいをやめれば一発で解決するのに、それができないもどかしさ。
 そのじれったさに快感を覚えながら読んでいる私が、もしかするといちばん意地悪な母親なのかもしれない。

 そんな気持ちになりながら、一気に読んだ。
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 舞台は東京の文教地区。
 そこで出会った5人の女性は、皆同様に乳幼児を抱えている。
 しかしそのうち、互いを疑いの目でみるようになる。

 小学校受験なんてさせないと言いつつ、本当は名門校をねらっているのではないか。
 ボランティア活動をしているのは、受験に有利だからではないか。
 なぜ、私に声をかけてくれなかったの?
 それでお金をとるって、どういう神経なの?

 5人の間に膨れ上がる憎悪は、日に日に肥大していく。
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 改めて、劣等感というものの真の恐ろしさを垣間見た気がする。

 劣等感は、まず他人と自分を比較して沸き起こる気持ちだ。
 その「他人と比較する」という気持ちは実に便利なもので、自分を女王様にも悲劇のヒロインにもしてくれる。
 他人にうわべだけチヤホヤしてもらうためには、とりあえず「私は●●さんと比べて」と言っておけばすむのである。

 しかしその「他人と比較する」ことの副作用は思いのほか強い。
 他人と比較すると、優越感や劣等感をもつ。優越感はまだしも劣等感をもつと、人間は実に厄介だ。

 なぜなら劣等感を持つと、人は他人を疑うようになるからである。
 「私を置いて、何か良いことをするのではないか」「ブスで馬鹿で貧乏な私に、あの人が声をかけてくれるのは何か裏があるに違いない」
 そして、そんな猜疑心は次第にこうなる。

 「あの人だけ幸せになるのは許さない」

 「森に眠る魚」に出てくる女性のうち、トラブルのもととなっている人物はいずれも劣等感が強い。
 そして負のパワーというものは強いので、他人もその劣等感と猜疑心に引きずられてしまう。

 これは実生活でも十分起こりうることで、「良い人」ほど道連れになりやすい。
 本書を読み、劣等感と猜疑心でグルグル巻きにされた女性たちを客観的に見ることで、そこから抜け出す方法を見出すことができるだろう。

 もし現在、子どもを通しての人間関係で悩んでいるのなら必読。
 悶絶する5人の姿を読みながら「私ならこうするのに」と思う瞬間があるはずだ。

 それがあなたにとって、最適な解決策である。

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坂の途中の家  角田光代

評価:★★★★★

それらの言葉の意味するところは、たったひとつではないか。――きみは人並み以下だ。
(本文引用)
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 どうしようもないほど自分に自信が持てない。自分は劣っていると感じてしまう。そんな方に全力でお薦めしたい小説だ。本を読む能力も余裕もない、などと感じていたとしても、気力を振り絞って、とにかくこの作品だけは読んでほしい。

 拭い去れない劣等感から取り返しのつかない罪を犯してしまった女性と、裁判員という役割を通して、その女性に自分を重ねるもう一人の女性。

 彼女たちの証言やモノローグは、自信のない人々の心の深層を見事にえぐり、またその「自信のなさ」の真相を見事に露わにしたものだ。

 よって、劣等感にさいなまれる人には、ぜひこの小説を読んでみてほしい。



 なぜなら、本書を通して「本当に自分は劣等感を持たなければならないような人間なのか」がわかるからである。そして、「あなたは劣等感を持たなければならないような人間ではない」ということも。

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笹の舟で海をわたる 角田光代

 ああやっぱり、悪いことをしたら不幸になるのでも、いいことをしたから幸せになるのでもない。そのどちらもが、人生に影響など及ぼさず、ただ在るのだ。ただ在る、でも私たちはそれから逃れられない。
(本文引用)
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 何か選択を迫られる時、私は心の中で、この曲を歌いながら考える。 

「この船を漕いでゆけ おまえの手で漕いでゆけ
おまえが消えて喜ぶ者に おまえのオールをまかせるな」

 中島みゆきさんの「宙船」だ。

 例えば何かを依頼された時、何か都合をつけてほしいと言われた時、返事に迷ったら、この一節を頭に浮かべる。
 そして、自分が漕ぎたい方向と相手の望む方向が一致しそうならOKし、望む方向が逆方向だったり、相手の波に巻き込まれる危機を感じたりしたときは、申し訳ないがお断りするようにしている。まぁ、実際にはなかなか難しいのだが。


 しかし時々、驚くほど自分のオールでズバズバと進んでいける人がいる。そういう人は周囲に眉をひそめられることも多いが、その「眉をひそめる」心理のなかには、幾分の羨望もある気がする。

 「私もあんな風にできたら、どんなにいいだろう」と。

 角田光代の新作「笹の舟で海をわたる」は、まさにそんな人間たちの物語。
 他人にオールを預けてしまう人と、他人のオールをひったくってでも自分の舟を漕いでいく人。自分の人生を他人に振り回されたと感じる人と、そう感じさせてしまう人。
 そんな正反対の者たちが織り成すドラマは、「人生をいかに舵取りしていくか」をしみじみと考えさせてくれる。

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ドラマ「紙の月」1/7スタート!

 ドラマ「紙の月」が、1/7からスタートする(NHK 午後10時~)。
 これは角田光代さんの同名小説をドラマ化したものだが、原作が面白かったので非常に楽しみである。

 月並みな感想かもしれないが、この小説を読むと「人間の弱さ」というものを痛感する。

 ちょっと心を弾ませるために、ちょっと優越感を持ちたいために、ちょっとあの人の心をつかまえておきたいために・・・すぐに返すつもりの5万円が10万円に、100万円にふくらんでいき、いつの間にか横領額は1億円に。その手口は、もとは普通の主婦だったとは思えない、立派な詐欺師ぶりである。


 さらにその1億円を使わせた男のほうも、次第に変貌し、人を人とも思わない人間になっていく。

 この、主人公2人がジワリジワリと精神を蝕まれていく様は、読んでいて慄然とする。
 人とは、かくも脆いものなのか。

 そういえば以前、「迷惑行為はなぜなくならないのか?」において、車が通らない横断歩道で信号無視をするようになると、他の横断歩道でも信号無視をするようになるとの見解を読んだ。
 また、アルコール依存症の患者は、治療中に一滴でもお酒を飲むとスリップ状態を起こし、さらに症状がひどくなると聞く。

 そんなことを聞くと、「人間の行動とは、意志とはかけ離れたところにあるのかもしれない」と震えがくる。自分も知らず知らずのうちに、安易に快楽を得る方向に動いているのかもしれない、と。

 そんな己をひきしめるためにも、ドラマ「紙の月」をじっくりと鑑賞したい。

紙の月 角田光代

 いっそすべてがばれてくれればいい。
 (本文引用)
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 この小説を読んで以来、私はなるべく小銭から支払うようになった。

 160円のヨーグルト、580円の文庫本、1300円の初診料・・・。

 財布の中で小銭をカチャカチャ探るのが面倒で、ついポンと1000円札や5000円札を渡すことが少なくなかったが、この本を読んでから、10円玉や5円、1円玉を駆使して小銭で払うことが増えた(「後ろで他のお客さんが待っていない時」限定だが)。

 なぜなら、お金、特にお札が消えるのが怖くなったからだ。怖くて怖くて仕方がないとすらいえる。いったんお札を崩せば、驚くぐらいあっという間に消えてしまう。
 

 

お金というものは、多くあればあるだけ、なぜか見えなくなる。


 この小説に書かれている現象が、スケールが小さいながらも私の中で起こってしまう。今、それが恐ろしくてたまらない。

 2014年1月からNHKで放送されるドラマ「紙の月」
 その原作である本書は、「カネ地獄」に陥った人間たちを、尋常ではない生々しさで描いた傑作だ。
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 主人公の梅沢梨花は、ある日タイのチェンマイにいた。日本から逃げてきたのだ。

 銀行の契約社員として勤めていた梨花は、数年にわたって顧客の預金を横領、その額は約1億円にものぼる。
 今や容疑者として全国に指名手配されている梨花だが、かつては石鹸のように無垢で清楚な少女だった。

 正義感とボランティア精神に富み、お年寄りの長話に耳を傾け、夫に贅沢ひとつ言うことなく過ごしてきた梨花。

 そんな一人の女性が、気が付けば、とりつかれたように偽の預金証書づくりに没頭するようになっていた・・・。
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 本小説の見事なところは、この横領事件を単に「男に貢いだ事件」で片づけていない点だ。
 
 きっかけは確かに、小さな恋愛ごっこだったかもしれない。
 うんと年の離れた男子学生に好意をもたれ、ぴょんと跳ね上がりたくなるような気持ちになり、その勢いで高価な化粧品を買ってしまったことから顧客の金に手をつけるようになった。そういう意味では、恋が女を狂わせたともいえる。

 しかし、梨花を暴走させたのは、おそらくそれではない。
 お金を他人に出すことで「何か得意な気持ち」になることが真の理由。相手は誰だって良い。「今、目の前にいる誰かよりも自分が上にいる瞬間」という快楽を間断なく味わうことが、梨花をここまで走らせた所以なのである。
 
 こう考えると、決して他人事と思えなくなる。
 人は多かれ少なかれ「目の前の誰かより上に立ちたい」という欲望をもっている。その手段には学歴、家柄、職歴など色々あるであろうが、もしそれが「今、手元にあるお金」だったとしたら、これほど手っ取り早く「他人より上に立つ方法」もないのではないか。道ならぬ恋などしなくても、梨花になる可能性は誰でも秘めているのである。
 その「真の理由」への伏線として、高校時代のボランティア活動や、夫と交わした何気ない会話をじれったいほどつぶさに描写する技巧には、思わず唸った。さすがプロ中のプロの作家である。

 また、主人公は梨花だけではないというのも、この物語の大きな魅力だ。
 梨花と中学・高校時代を共にした同級生、料理教室で意気投合した雑誌編集者、かつて梨花とプラトニックな交際をしていた会社員、そしてその妻・・・。
 誰もが、まるでミイラ取りがミイラになるように、お金に操られまいとしてお金に操られている。
 程度の差こそあれ、梨花と同様に人生が瓦解していく様は、実録ドキュメンタリーさながらの大迫力だ。

 財布をのぞけば、数枚の千円札、念のための1万円札、クレジットカードやポイントカードが顔を見せる。
 「あなたたちはいったい、何者なの?」
 時にまん丸の姿を見せ、翌日には体が細り、何日か後には姿を消してしまう。
 財布の中の彼らは、まさに月のような存在なのである。

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プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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