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雫井脩介「虚貌」感想。腹が立つほど禁じ手なのに「読む価値あり」の異色ミステリー。

「見てるようで見てない。見てないようで見てるか。人間の意識は覚醒と麻痺の連続で成り立ってるっていうことだろうな」
(本文引用)
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 ミステリーの概念を、そっくり覆す本。
 「虚貌」を読むと、「ミステリーに必要なのは謎解きやトリックじゃない」ということを悟り、全身ビビビッときます。

 身勝手な動機で、一家4人が殺傷される残忍な事件。

 犯人グループが逮捕され、捜査陣は「事件解決」とひと段落。

 しかし時を置き、犯人の一人が殺されて・・・?

 ある「禁じ手」で、最後まで犯人がわからない異色ミステリー。
 普通なら「そんなのアリ!?」と腹を立てるところですが、なぜか心にしみてしみて、いろんな人におすすめしてます。


 なぜ「虚貌」は「禁じ手」なのに、読む価値があるのか、人にすすめたくなるのか。
 あらすじと一緒に、「おすすめの理由」を公開します! 

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キムタクと二宮君が主演映画化!雫井脩介「検察側の罪人」は史上最低最悪のヤバすぎるミステリー。(でも一気読みした)

評価:★★★★★

  正義とはこんなにいびつで、こんなに訳の分からないものなのか。
(本文引用)
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 2018年に、木村拓哉さんと二宮和也さんの主演で映画化が決まっている小説です。

 でもこの原作と台本を読んだ時、木村拓哉さんは思わずこう叫んだのではないでしょうか。

 「ちょっ・・・待てよ!」
 
 もうね、私は読みながら何度この言葉を叫んだことか。

 そして出川哲朗さんなみに、心の中でこの言葉も連呼しました。

 「ヤバいよ、ヤバいよ、ヤバいよ!!!」

 この「検察側の罪人」は、帯に「今世紀ミステリー界最大の問題作!」とありますが、これは問題作どころではありません。

 史上最低最悪、あまりにもヤバすぎるミステリーです。

 でも、面白さでは史上最高レベルと自信を持って言えます。
 心の中だけでしまっておけず、夫に途中経過をしゃべりまくっていたほど。
 (面白くてやめられない小説って、あらすじを人に話したくなりませんか?)





 そして・・・心に残るものの重さも史上最高レベルです。

 この史上最低最悪で最高なミステリーを、キムタクと二宮君がどう演じるのか、考えるだけでワクワクして腸がねじれそうです。
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 ある日、都内で老夫婦が殺害されます。

 殺された夫の方は、多くの人にお金を貸していた模様。
 
 捜査陣は、彼からお金を借りていた人物に絞って犯人を探します。

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 ベテラン検事・最上もその捜査に加わりますが、容疑者のなかにある名前を見つけドキリとします。

 その名は松倉重生。

 松倉は、20年以上前に起きた女子中学生殺人事件の容疑者でした。

 最上は大学時代、その少女の両親にお世話になり、少女のこともとてもかわいがっていました。

 しかし最上が検事になってから、彼女は何者かに殺害され、事件は迷宮入り。

 その事件の真犯人に最も近いとされていたのが、当の松倉なのです。

 決定的な証拠のないまま時は過ぎ、時効が成立。

 最上は少女を殺した犯人を松倉と考え、未だにのうのうと生きていることに激しい怒りを覚えます。

 そして最上は、検事として絶対やってはいけないことに手を染めはじめ・・・。

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 一方、若き検事・沖野は、最上がそんな行動に出ているとは夢にも思わず、捜査を進めます。

 警察も検事も松倉を怪しいと考えますが、沖野はどうしても「松倉犯人説」に納得がいきません。

 冤罪だけは絶対に避けなくてはならない。

 その思いに駆られた沖野は、ついに検事の職を辞するのですが・・・?
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 「検察側の罪人」というタイトルから、だいたいの内容はおわかりかと思います。
 私もおおよその内容は推測して読み始め、まあ外れてはいなかったのですが、唯一外れたのは「度合い」です。

 最上は検事として、してはいけないことをします。
 そこまではまあ良いとして、その「してはいけないレベル」が度外れているんです。

 これが実際に起こったら、日本の司法制度・・・というか三権分立も国家も憲法も何もかも底からグワァッとひっくりかえるでしょうね。
 日本が無法地帯になってしまうかもしれません。

 ここまでメガトン級の「やっちゃいけない」はフィクションならではと思いますが、司法の信頼を揺るがすあんな事件こんな事件を思い出すと、あながち「起こらない」とも言えない気が・・・(「起こらない」ことを切に祈りますが)。

 「検察側の罪人」を読む際は、「少々のことでは驚かないぞ!」という覚悟で臨んでくださいね。

 後半はやや駆け足のような気がしましたが、最後の最後がまた衝撃的。

 正義とはいったい何なのか。

 それを問い続ける彼らの苦悩には、胸を強烈に突かれます。

 雫井脩介さんの小説は、いつも読者に何かを強く問いかけますね。
そしてその問いは、いつも悶えるほど苦しいものです。
 (たとえば「望み」では、子どもが加害者の方が良いのか、被害者の方が良いのかという究極の問いを読者に投げかけています。)

 確かに最上のしたことは間違っています。
 でも果たして100%そう言い切れるのか、考えれば考えるほど頭が痛くなるほど悩んでしまいます。

 終盤で、最高検の検事が最上に語り掛けた言葉が胸に響きます。 



「こう言っちゃ問題があるかも分からんが、君が検事であったからこそ、起こさざるをえなかったことだというふうに思えてきたんだ。自分が君に立場だったらどうしただろう・・・・・・そんなことさえ考えさせられたよ」


 さて、あなたが最上だったら、沖野だったらどうするか。

 一気読み必至の面白さですが、ぜひそんなことを自分に問いかけながら読んでみてください。

詳しくはこちら↓


望み  雫井脩介

評価:★★★★★

  そんな未来でもいいから守りたいと自分は思っていたのだろうか。
(本文引用)
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 雫井脩介氏のサスペンスということで「面白いこと間違いなし!」とホクホクして手に取った。が、読むうちに、そんな軽い気持ちで読み始めた自分がどうしようもなく恥ずかしくなった。

 これは一応、心理サスペンスということになっているようだが、エンタメ色を期待して読むとガツンとやられる。
 人として最終的に守らねばならないものは何か。その「守るべきもの」と、「自分が望むもの」との間でギャップはないか。

 本書は、そんな難題を読者に突き付ける。
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 一登と貴代美夫妻には、ひとつ気にかかることがあった。それは、高1の息子のことだった。



 息子はプロのサッカー選手を目指していたが、試合中のケガで挫折。サッカーを辞めてから頻繁に夜遊びや外泊をするようになり、何事にも気力がわかない様子だ。
 ある日、ついに息子が帰ってこなくなり家族は心配するが、その最中に近所で少年の遺体が発見される。事件を追ううちに、一登夫婦の息子が事件に関与している疑いが出てくる。
 しかも、少年がもう1人殺されている可能性も浮上。それを受けて、一登と貴代美の気持ちは大いに揺れる。

 息子は加害者なのか、それとも――。
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 本書には、事件の経緯や犯人探しといった内容はほとんどない。ひたすら、一登の家族の葛藤と苦しみ、そして「望み」が切々とつづられている。

 息子が殺人事件に関与していることが確定した時、自分は息子が加害者であることを望むのか、被害者であることを望むのか。
 もっと言えば、自分は「加害者家族」になりたいのか「被害者家族」になりたいのか。
 
 そんな究極かつ絶望的な「望み」と向き合い、日々憔悴しながら、自分の本当の守りたいもの、守るべきものは何かを考え抜いていく一登夫婦。そんな彼らの姿は、読む者の心をわしづかみにするものだ。

 なかでも注目すべきは、妻・貴代美の心理状態だ。息子が死んでいるぐらいなら、いっそ犯人の方が良いと心に決め、息子をかばう友人たちの声も袖にする。そんな尋常じゃない感覚に陥っている貴代美の心は、実際にそのような状況になった者にしかわからないだろう。
 この小説はあくまでフィクションだが、そんな心理描写に並々ならぬリアリティを感じる。

 そしてラスト、一登が気づいた本当の「望み」とは何か。
 一登や貴代美の願いや望みを読みながら、何度も「自分が最終的に守らなければならないものは何か」「自分が絶対に譲れない望みとは何か」を自分に問いかけてしまった。

 ストーリーの面白さはもちろん、「本との対話」「自分との対話」という読書の醍醐味を存分に味わえる傑作である。

詳細情報・ご購入はこちら↓


火の粉  雫井脩介

評価:★★★★★

鎮火する機会はあった。誰あろう自分がそれを逃した。(本文引用)
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 ページを開いた瞬間から読了まで、心臓がバックバク鳴りっぱなしだった。読んでいない時まで「あれからどうなるんだろう? どうなってしまうんだろう?」と本書が頭から離れない。

 そう、本書こそまさに主人公・武内信伍そのもの。一度関わった人間に骨の髄までからみついていく男のように、この物語も読み手にからみついて離れない。そして、目をつけられた人間(読み手)は、絶対に離れることはできない。

 本書は「火の粉」どころではない。周囲の人間を焼き尽くす業火のような物語だ。
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 裁判官・梶間勲は、ある一家殺人事件の裁判長を務める。被告は武内信伍という紳士然とした男だ。


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プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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