評価:★★★★★
正義とはこんなにいびつで、こんなに訳の分からないものなのか。(本文引用)
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2018年に、木村拓哉さんと二宮和也さんの主演で映画化が決まっている小説です。
でもこの原作と台本を読んだ時、木村拓哉さんは思わずこう叫んだのではないでしょうか。
「ちょっ・・・待てよ!」
もうね、私は読みながら何度この言葉を叫んだことか。
そして出川哲朗さんなみに、心の中でこの言葉も連呼しました。
「ヤバいよ、ヤバいよ、ヤバいよ!!!」
この「検察側の罪人」は、帯に「今世紀ミステリー界最大の問題作!」とありますが、これは問題作どころではありません。
史上最低最悪、あまりにもヤバすぎるミステリーです。
でも、面白さでは史上最高レベルと自信を持って言えます。
心の中だけでしまっておけず、夫に途中経過をしゃべりまくっていたほど。
(面白くてやめられない小説って、あらすじを人に話したくなりませんか?)
そして・・・心に残るものの重さも史上最高レベルです。
この史上最低最悪で最高なミステリーを、キムタクと二宮君がどう演じるのか、考えるだけでワクワクして腸がねじれそうです。
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ある日、都内で老夫婦が殺害されます。
殺された夫の方は、多くの人にお金を貸していた模様。
捜査陣は、彼からお金を借りていた人物に絞って犯人を探します。
ベテラン検事・最上もその捜査に加わりますが、容疑者のなかにある名前を見つけドキリとします。
その名は松倉重生。
松倉は、20年以上前に起きた女子中学生殺人事件の容疑者でした。
最上は大学時代、その少女の両親にお世話になり、少女のこともとてもかわいがっていました。
しかし最上が検事になってから、彼女は何者かに殺害され、事件は迷宮入り。
その事件の真犯人に最も近いとされていたのが、当の松倉なのです。
決定的な証拠のないまま時は過ぎ、時効が成立。
最上は少女を殺した犯人を松倉と考え、未だにのうのうと生きていることに激しい怒りを覚えます。
そして最上は、検事として絶対やってはいけないことに手を染めはじめ・・・。
一方、若き検事・沖野は、最上がそんな行動に出ているとは夢にも思わず、捜査を進めます。
警察も検事も松倉を怪しいと考えますが、沖野はどうしても「松倉犯人説」に納得がいきません。
冤罪だけは絶対に避けなくてはならない。
その思いに駆られた沖野は、ついに検事の職を辞するのですが・・・?
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「検察側の罪人」というタイトルから、だいたいの内容はおわかりかと思います。
私もおおよその内容は推測して読み始め、まあ外れてはいなかったのですが、唯一外れたのは「度合い」です。
最上は検事として、してはいけないことをします。
そこまではまあ良いとして、その「してはいけないレベル」が度外れているんです。
これが実際に起こったら、日本の司法制度・・・というか三権分立も国家も憲法も何もかも底からグワァッとひっくりかえるでしょうね。
日本が無法地帯になってしまうかもしれません。 ここまでメガトン級の「やっちゃいけない」はフィクションならではと思いますが、司法の信頼を揺るがすあんな事件こんな事件を思い出すと、あながち「起こらない」とも言えない気が・・・(「起こらない」ことを切に祈りますが)。
「検察側の罪人」を読む際は、「少々のことでは驚かないぞ!」という覚悟で臨んでくださいね。
後半はやや駆け足のような気がしましたが、最後の最後がまた衝撃的。
正義とはいったい何なのか。
それを問い続ける彼らの苦悩には、胸を強烈に突かれます。
雫井脩介さんの小説は、いつも読者に何かを強く問いかけますね。
そしてその問いは、いつも悶えるほど苦しいものです。
(たとえば
「望み」では、子どもが加害者の方が良いのか、被害者の方が良いのかという究極の問いを読者に投げかけています。)
確かに最上のしたことは間違っています。
でも果たして100%そう言い切れるのか、考えれば考えるほど頭が痛くなるほど悩んでしまいます。
終盤で、最高検の検事が最上に語り掛けた言葉が胸に響きます。
「こう言っちゃ問題があるかも分からんが、君が検事であったからこそ、起こさざるをえなかったことだというふうに思えてきたんだ。自分が君に立場だったらどうしただろう・・・・・・そんなことさえ考えさせられたよ」
さて、あなたが最上だったら、沖野だったらどうするか。
一気読み必至の面白さですが、ぜひそんなことを自分に問いかけながら読んでみてください。
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