重松清「どんまい」感想。重松清はなぜ多くの小説を書けるのか、理由がわかった一冊。

評価:★★★★★

「人生なんてリーグ戦だよ。勝ったり負けたりして、そりゃあ順位はつくかもしれないけどな、一回負けたら終わるなんて、そんな人生はないんだ、どこにも」
(本文引用)
______________________________

 重松清は多作だ。
 読んでも読んでも未読の本が出てくる出てくる。
 
 読んでいない本を見つけるたびに鉱脈を見つけた気がして、その日一日幸せな気持ちになる。

 ではなぜ、重松清の小説は多いのか。

 「どんまい」を読み、やっと謎が解けた。

 重松清は、この世から「ひとりぼっちの人」を一人も出したくないのだ。

 ひとりでもがいている人、味方がおらず心細い思いをしている人、誰かと一緒にいても心が孤独な人。

 ポツンとしているとか、友だちと騒いでいるとか、そんなことは関係ない。


 
 「自分はひとりぼっちだ」と感じている人に、一人でも多く寄り添いたいと思っているのだ。

 これは、あくまで私個人の考えだ。
 重松清氏に聞いてみたら「えっ? 違うよ」とあっさり言われてしまうかもしれない。

 しかし「どんまい」を読むかぎり、私にはそう思えて仕方がない。

 だって本書は野球を通じて、ホントにみーんな「ひとりぼっち」から救っているのだから。
 
 このままいくと重松さん、全人類「ひとりぼっち」から救っちゃいそう。

 「どんまい」には、そんな重松イズムがあふれている。
 ___________________________

■「どんまい」あらすじ



 舞台は東京都内の団地。

 洋子は夫と離婚し、中学生の娘と二人暮らし。
 この先どうしようかと考えていたところ、掲示板のチラシに惹きつけられる。

 団地の草野球チームがメンバー募集しているとのこと。
 しかも性別・年齢不問。
 
 ずっと「女だから」と理不尽な差別を受け、やりたいことをずっと我慢してきた洋子。
 洋子はそのチラシを見て、一気に若い頃の情熱がよみがえってきた。

 「・・・・・・わたし、ミズハラユウキになりたかったんだ、昔・・・・・・」


 水島新司「野球狂の詩」の女ピッチャー、水原勇気に憧れていた洋子。

 彼女はさっそく野球チームのメンバーに申し込む。

276ea5d7765eb9aef938c196b3c21f9c_s.jpg


 そしてある若い男性も、メンバーに応募しようとする。
 男性の名は加藤将大。
 かつて高校球児で、甲子園経験もある。
 現在プロ野球で活躍するエースと、バッテリーを組んでいた凄腕だ。

 そんな将大が草野球チームに入るのは、はっきり言って役不足。
 しかし彼にはある思いがあったのだ。

 老若男女よりどりみどり、相手チームはお年寄りばかり・・・そんな異色の野球チーム「ちぐさ台カープ」。

 多くの難題を抱えたまま、いよいよデビューするのだが?
______________________________

■「どんまい」感想



 「どんまい」には、クセのある人間が多数登場する。

 家が金持ちで野球もうまいが、態度が横柄で周囲から距離をおかれる男。
 「自分が絶対正義」と疑わず、家族にプレッシャーをかけてしまう女。
 悲劇のヒーローを気取りながら、何かと女を見下す男。
 過去の栄光にすがり、傲慢な態度をとりつづける男。
 
 他の重松作品に比べ「いい人率」が低め。
 はっきり言って、「ウザい」と言われるタイプの人が多い。

 だからこそ、「誰も一人にしない」重松イズムが爆発。

 周囲から浮いていた過去、周囲から浮いている現在、世間から忘れ去られるであろう、残酷な未来。

  「どんまい」は、そんな人たちの心を丁寧にすくいあげ、孤立・孤独から確実に救い出していく。

 本当は一人になるのが怖い。でも弱音が吐けない・・・そんな者たちの心をやわらげ、本当の孤独から脱出させるのだ。

52456880fc7e263fecb7a21fc1a97227_s.jpg

 
 たとえば印象的なのが、横柄男ヨシヒコに、寡黙少年・沢松を引き合わせるエピソード。
 ヨシヒコはとにかく身勝手な性格で、野球部で孤立した経験がある。

 一方、沢松は性格は穏やかだが、野球が上手すぎて部活ではじかれ人間不信になる。

 そこで洋子の娘・香織が一計を案じ、沢松をヨシヒコのもとへ。
 それはヨシヒコも沢松も一人ぼっちにしないための、名案(妙案?)だったのだ。

 さらに本書では「あいつはひとりぼっちになってもいい」という思考を、徹底的にシャットアウト。
 
 ある日、ヨシヒコの存在を疎ましく思っていた者たちが、ちぐさ台カープに試合を申し込む。
 それは生意気だったヨシヒコに復讐するための試合。
 ヨシヒコが困る顔を見たいという、意地悪な発想で申し込まれたものだ。

 確かにちぐさ台カープの面々も、ヨシヒコの言動には呆れている。
 しかし彼らはヨシヒコを守る。
 「まさか」のエールで、ヨシヒコを守り通すのだ。

 一見、ヨシヒコがギャフンと言えばスカッとするように見える。
 だが、復讐することが本当の解決といえるのだろうか?
 ひとりぼっちの人間をさらにひとりぼっちにすることが、そんなに愉快なことだろうか?

 「どんまい」は、どんなに問題のある人間も決して一人にしない。

 誰かをひとりぼっちにしても、誰も幸せにならない。
 誰もひとりぼっちにしない勇気と行動こそが、皆を幸せにするのだ。

 今、「自分はひとり」と感じている人は、ぜひ「どんまい」を読んでみてほしい。
 「ポツンと一人でいる」という意味ではない。
 家族といても友人といても「自分はひとりぼっち」と感じていたら、「どんまい」を手に取ってみてほしい。

 「自分はひとりじゃない」と、きっと思えるはず。
 「誰かが必ず寄り添ってくれる」
 そんな自信がもてるはずだ。

詳細情報・ご購入はこちら↓

「グッド・フライト、グッド・ナイト パイロットが誘う最高の空旅」感想。そうか、だからパイロット飲酒問題は重罪なのだ!

評価:★★★★★

「二度と一緒に飛ぶことがなかったとしても、忘れてしまいたくはないからね」と機長は言った。
(本文引用)
______________________________

 「くらしのきほん」編集長の松浦弥太郎氏が推薦していると聞き、購入した。

 それ以前に、装丁がいい。

 読めばきっと心がスーッと洗われ、人として大事な「何か」がグッとつかめそう・・・。
 
 そんな優しさ、知性、気高さを備えたオーラが、本書にはある。
 「この本は間違いない」と、ピンとこさせる凛々しさが、本書にはある。

 つまり私は「ジャケ買い」したわけだが、こういう勘はホントに当たる。


 
 「グッド・フライト、グッド・ナイト」の素晴らしさは、予想をはるかに上回るものだった。

  「これ、本当に人間が書いたの? 空の妖精が書いたんじゃないかしら?」と思うほど美しくてロマンチック。

 それでいて本書はやはり、人間にしか書けない内容。
 パイロットならではの知識・技能および、人を和ませる明るさ・優しさ・知性が文章からあふれている。

 サン・テグジュペリ「夜間飛行」に匹敵する名エッセイと言われるのも納得。
 
 「夜間飛行」同様、後世にわたり読み継がれるであろう極上エッセイだ。
 ___________________________

■「グッド・フライト、グッド・ナイト」内容



 著者マーク・ヴァンホーナッカーは国際線のパイロット。

 前職は経営コンサルタントだった。

 本書では著者の幼少時代やパイロットになった経緯、パイロットならではの考え方や物の見方、仲間との絆、夜間飛行の魅力などについて綴っていく。

0c03b5f16a95cb2ccb25d7e46580b8c5_s.jpg


 パイロットになる前はわからなかったこと、見えなかったこと、予想もつかなかったこと、そして地上の人々に伝えたいこととは?
______________________________

■「グッド・フライト、グッド・ナイト」感想



 本書の大きな魅力は2つある。

 1つはシビれるほど詩的で知的なことだ。

 「ニューヨーカー」誌は本書について、「科学者の脳と詩人の心で書かれた本」と絶賛しているが、まさにそのとおり。

 飛行機が飛ぶメカニズムを、空気のとらえ方から詳しく解説。
 腕を伸ばし風を受けるだけで、旋回のしくみがわかる実験まで紹介されている。
 
 またパイロットでないと経験できない思考技術も、みっちり説明。 

 パイロットは手動で山頂高度に“寒冷用修正”を加えなければならない。一万フィートの山の上を飛ぶときは、だいたい一万二〇〇〇フィートで通過したいところだが、外気温が非常に低いときは山が一万二〇〇〇フィートにのびたように扱い、一万四〇〇〇フィートで通過する。冬になって山頂の岩が成長したかのように処理するのだ。パイロットの頭のなかでは、寒さが大地を覆う頃、山は空に向かってのびる。そして春になると縮むのである。


地球を空から見たら、どんなふうに見えるのだろう。パイロットになる前にこういう質問をされたなら、やはり地方出身者らしく、住んでいる場所や旅行した場所など、自分が見てきたものを中心に応えただろう。

 

だが、今はちがう。パイロットとしては、地表の大部分には人が住んでいない、と答える。


 その他、飛行機全体の重量が飛行時間・距離にどれほど影響を及ぼすかも、細かく説明(本書を読めば荷物の重量制限に、めちゃくちゃ敏感になるはず!)。
 
 実に科学的な解説が随所にされている。

 その一方で、本書はうっとりするほどロマンチック。
 特に「Night」の章は、読むだけで夜景の美しさに吸い込まれそう・・・。

a87c3c3bc2b98b5743293cbdbc1b6fa9_s.jpg

 
 流れ星やオーロラ、車のライトが連なる帯、必要最小限の光から見える「地上の真実」・・・。

 「Night」の章は、さながら空の「極夜行」。
 読むうちにどんどん、昼よりも、漆黒の夜が好きになっていきそうだ。

 そして本書の魅力2つめは、「仕事をするうえで最も重要なこと」がわかる点。
 
 その「最も重要なこと」とは、「信頼」だ。

 第7章「Encounters:出会い、遭遇」では、パイロットたちの絆について書かれている。

 空の仕事の特徴は、メンバーが流動的な点だ。
 
 国や空港によって、一緒に仕事をする人はその都度異なる。

 相手の姿が見えない状態で、連携プレーをとることもある。

 そこで著者はこう語る。

 パイロットになる前に、こんなにも短い出会いと別れを繰り返す職業だと知っていたら、それは空を飛ぶ代償だと思ったかもしれない。しかし仕事仲間の顔や名前がわからないからこそ、親切が身に染みることもある。


 そしてパイロットらはフライトの後、次のパイロットのためにコックピットをきちんと整えるという。

 孤独な夜間飛行を始めるとき、冷たい器材に囲まれた無人のコックピットで、そうした心遣いに出迎えられるのはいいものだ。


 パイロットのなかには、共に仕事をした人について、その都度日記に書き留める人もいるという。
 常に一期一会の気持ちで、空の安全を守っているのだ。

 そこでふと思い出した。
 昨今問題となっている、パイロットの飲酒問題だ。
 
 パイロットの飲酒は、乗客の命を脅かすもの。
 絶対にあってはならないことだ。

 しかし本書を読み、やや認識が変わった。
 乗客の命を脅かすことに加え、仕事仲間の信用を無惨に裏切る行為なのだ。

 本書を読むかぎり、飛行機が無事に飛べるのは、互いの信頼あってこそ。
 初対面や、姿の見えない人との仕事も多いため、「絶対の信頼」がないと到底仕事にならないのだ。

 私は航空業界の人間ではない。
 よってパイロット飲酒問題について、「乗客の命を奪う危険性」以外考えられなかった。

 だが本書を読み、さらに問題の根深さ・罪の重さがわかった。
 規定違反の飲酒は、空の仕事をするメンバーシップ、チームワークを破壊するもの。
 仕事そのものを底から崩壊させる行為なのだ。

 「グッド・フライト、グッド・ナイト」では、パイロットらの規定違反等については書かれていない。
 パイロットら職員たちが、いかに信頼しあい、快適な飛行に心を砕いているかがよくわかる。

 それだけに、昨今のパイロット飲酒問題が残念でならない。

 多くの真面目なパイロットからの、極上の空旅と夜景。
 そのプレゼントを汚さぬためにも、改善を見守りたいところである。

詳細情報・ご購入はこちら↓

「エヴェレスト 神々の山領」夢枕獏。角幡唯介さんに影響されて読了。「氷壁」と似てるはホント?

評価:★★★★★

“山に行けば、生き甲斐でも見つかると思ったか”
 見つかりはしない。
 山にどういうものも落ちていない。
 あるとするなら、それは、自分の内部にある。

(本文引用)
______________________________

 角幡唯介著「旅人の表現術」で紹介されていたため、読んでみた。
 
 何でも、角幡氏の「滅多に本を読まない友人」が、「めちゃくちゃ面白い」と一気読みしたとか。

 角幡氏も本書を読み、感想を述べている。

 そこで強調されていたのが、井上靖「氷壁」との類似性。
 「神々の山領」を読むと、「氷壁」を思い出さずにはいられない・・・と書かれている。

 私も以前、「氷壁」を読み心震わせた一人なので、「これは読むしかない!」と決意。


 
 実際読んでみたところ、私はさほど「氷壁と似てる」とは感じなかった。
 確かにザイルや女性云々の点は「まあ確かに・・・」と思わないでもない。

 しかし本書の焦点は、「氷壁」とはかなり異なる。
 よって共通性や類似性は、ほとんど感じなかった。

 それどころか、読むうちに「氷壁」のことなど頭からスポーンッと抜けてしまった。
 「山、山、山、山」「生きる、死ぬ、生きる、死ぬ、死ぬ、生きる」・・・そんなギリギリの世界に没頭するうちに、他の小説のことなどすっかり忘れてしまっていた。

 そして気がつけば、1058ページを読み終えていた。 
 ___________________________

■「エヴェレスト 神々の山領」あらすじ



 カメラマンの深町は、ある日、カトマンドゥで一個のカメラを見かける。

 それはかつて、世界初のエヴェレスト登頂を目指した登山家のもの。

bd8a277cf4251b3a99af3e406508f127_s.jpg


 フィルムに映った風景によっては、山岳史がまるごと覆る大事件に。

 深町はカメラを手に入れるが、旅の途中で盗まれてしまう。
 
 カメラの行方を追ううち、深町は一人の男性と出会う。

 彼の名はビカール・サン。
 しかし彼の正体は、不法滞在中の日本人。

 伝説の天才クライマー、羽生丈二だった。 
______________________________

■「エヴェレスト 神々の山領」感想



 本書を読んでいると、人生に焦りを覚える。
 猛烈に焦りを覚える。

 このまま生きて、このまま死んでいくだけでいいのか?
 死ぬまでに1つでもいいから、何かを達成したい。
 誰にも認められなくても、「私にはこれがある」と言えるものがほしい。

 そんな思いが体の芯からわき起こり、カッカと熱くなってくる。

7c4cbcf5eced4c154d25906637d4e4f7_s.jpg


 なぜ本書を読むとエネルギーがわいてくるのか。
 「自分の人生、このままでいいの?」と思ってしまうのか。

 理由は登場人物が皆、「答えが見えないものに命をかけているから」だ。

 作中、登場人物たちは何度も自問自答する。
 なぜこんなに苦しい思いをしながら山に登るのか、何度も何度も己に問いかける。

 たかだか、小便のためだけに、登山靴を履いたり脱いだりする行為が、八〇〇〇メートルの高度では、いかに重労働か、普通の人間には想像もつかないだろう。
 地上で、七〇キロの荷を担いで、ビルの五階まで階段を登ることの方がどれだけ楽か。もし、どちらかを選ぶことができるなら、自分は、ためらわずに七〇キロの荷を担いで階段を登る方を選ぶだろう。


 魂がすりきれるような、登って、下りてきたら、もう、体力も何もかもひとかけらも残らないような、自分の全身全霊をありったけ注ぎこむような、たとえば、絵描きが、渾身の力を込めて、キャンバスに絵の具を塗りあげてゆくような、そういうことと対等の、それ以上のもの・・・・・・
 それは何か?
 わからない。

 彼らはなぜ命を賭けて山に登るのか。なぜこんなに辛い思いをしなければならないのか。自分でもわからずにいる。
 
 ただ山に登りたい!頂上に立ちたい!という山岳小説とは異なり、ずっとひたすら「なぜ山に登るのか」を飽きることなく問い続けている。
 
 だから本書には、読む価値がある。

 よく考えたら、誰かに褒められるため、認められるために生きてるなんて空しいもの。

 虚栄心も承認欲求も全て排した先に、「自分にしかない人生」がきっとある。
 「世界でただ一人の、私にしかできない人生を生きることができた」・・・そう満足して死ぬヒントを、本書は教えてくれるのだ。

 ちなみに本書のラストは、単行本と文庫で異なるとのこと。

 その「書き直し」は、実話を織り交ぜた小説ならでは。

 もしかすると今後も何か、変化があるかも・・・。

詳細情報・ご購入はこちら↓

「82年生まれ、キム・ジヨン」感想。100万部突破も納得!だって誰もが加害者・被害者だから・・・。

評価:★★★★★

「女があんまり賢いと会社でも持て余すんだよ」
(本文引用)
______________________________
 

「でもね、世の中にはいい男の人の方が多いのよ」

 作中、親切な女性が主人公にこう語りかける。

 つきまとい男性から主人公を救い、「あなたが悪いんじゃない」「世の中にはおかしな男の人がいっぱいいる」と言った後、こう語りかけたのだ。

 私も「その通り」だとは思うが、本書を最後まで読んでいたら・・・「いい男の人って、そんなに多いの???」と心底不安になってきた。


 
 さすがにストーカーや性的暴行、あからさまなセクハラ等をする男性はごく少数だ。
 「誰のおかげで飯が食えてるんだ」と怒鳴る男性もわずかであろう。

 しかし本書に書かれている「あんな差別、こんな理不尽」を一つも犯していない男性など、この世にいるのだろうか?
 
 主人公が味わった様々な屈辱を、一つも経験していない女性はおそらく皆無。

 それと同様に、ほとんどの「まともな男性」も、一つぐらいは「やらかしてる」はず。
 無意識・無自覚のうちに、女性の心と体を傷つけているのだ。
 
 本書は「女性向け」と思われそうだが、男性こそ読むべき。

 特に「僕は女性差別などしていない」「育児に参加している」「女性の味方」と自信を持っている人ほど必読。
 
 「あれ・・・?もしかして僕、ひどいことしてたかも・・・あわわわわ・・・!」とショックで倒れるかもしれない。
___________________________

■「82年生まれ、キム・ジヨン」あらすじ



 キム・ジヨンは昨年女児を出産。
 出産に伴い仕事を辞め、大規模団地で育児に励んでいる。

 家族3人で平和に暮らしていたが、ある日、ジヨンの行動に異常が。

 まるで別人がのりうつったような奇行が、目立ちはじめたのだ。

 夫デヒョンがジヨンを精神科に連れて行くと、産後うつ・育児うつを発症した様子。

23868ca6829c7ea73a760a9da7dc8b79_s.jpg

 
 医師がジヨンの言葉に耳を傾けると、そこには驚きの事実が。
 ジヨンの半生は、「女性」というだけで受けた仕打ちの連続だったのだ。
______________________________

■「82年生まれ、キム・ジヨン」感想



 「82年生まれ、キム・ジヨン」は韓国で100万部を突破、映画化も決定している大ベストセラーだ。

 しかし本書は日本で書かれても、大ヒットしたことだろう。

 なぜなら本書で描かれている性差別は、珍しいことではないから。
 誰もが思い当たる、「あるある」なことばかりだからだ。

 例えばこんな例。

 女の子を産んだら、「次は男の子」と言われた。
 妻がいくら頑張っても、なぜか全て「夫の功労」。
 子どもの頃、男子にいじわるされて困っていたら、周囲に「あなたのことが好きなのよ」と諭された。
 出席番号が男子のほうが先。
 女子の制服は動きにくくて暑い。
 男子が勝手に「自分に気がある」と思い込み、つきまとってくる。
 進路選択の際、女子というだけで大学・学部の方向性を変更させられる。
 男性と付き合った経験があるというだけで、中古品扱い。
 会社でいつの間にかお茶くみ係になっている。
 義両親との確執について、「子どもが産まれれば解決する」と言われる。
 共働きでも、結局、母親のほうがやることが多い。
 男性に、出産を軽く見られる。
 産休ギリギリまで働くことについて嫌味を言われる
 「専業主婦はいいよな」といった言葉を投げつけられる・・・etc.

 ジヨンが経験した数々の女性差別。
 誰もが1つや2つ、思い当たるのではないだろうか。

b889b2cd5b411eb4a2ccdef26a48c971_s.jpg


 そしていよいよ終盤では、犯罪レベルの「性差別事件」が発覚。
 
 その事件の影響で、気が狂いそうになった女性や、睡眠薬を飲んで救急車に運ばれた女性も出てしまう。
 
 にも関わらず、男性は「悪いことをした」という自覚がなく、「家庭があるから~」と逃れようとする。

 この究極の男女不均衡にも、「確かに!」と納得。
 まだまだ世の中、意識の底には「男性優位」が横たわっているのだな・・・と愕然とした。

 本書は過激なセクハラのみを扱っているわけではない。
 日常生活にすっかり浸透していた性差別を、1つひとつピンセットで抽出するように、世に見せつけている。

 だから本書は人々の目を覚まさせる。
 「考えてみればおかしいよね」と、無意識の罪に気づかせる。

 100万人以上の人々が読み、話題を巻き起こすのも当然のこと。
 読まれるべくして読まれている本なのだ。

 「82年生まれ、キム・ジヨン」が日本でもっと読まれたら、何かが大きく変わる気がする。

 医学部入試、人事採用、セクハラ、子育て、「女性をモノとして扱う」雑誌の特集・・・。

 本書が広がることで、男も女も「これっておかしいんじゃない!?」と声をあげやすくなるだろう。

 まるで、ジヨンの友人が先生に抗議したように。

 「この服装がどんなに不便だか、しっかり教えてやったんだよ」



詳細情報・ご購入はこちら↓

映画「シュガーラッシュ」観賞!そして「82年生まれ、キム・ジヨン」の偶然

 映画「シュガーラッシュ オンライン」を観てきました。

50055566_685643148499942_5243571390950408192_n.jpg


 内容は映画版「インターネットのひみつ」といったところ。

 検索、動画、それにまつわる広告収入、ネットオークション等々、ネットにまつわるアレコレを軽快にわかりやすく教えてくれます。

 小学生向けのネット講座などに使えそうです。

 ・・・と言いつつ、この映画で印象的なのは、ネットとは別のこと。

 「女性」に対するステレオタイプな見方を、打破しようとする動きです。

 この映画にはディズニープリンセスが総登場しますが、みんな「今までなかった姿」に変身。

 さらに終盤、思わぬ大活躍を見せてくれ、ストーリーを大いに盛り上げました。(映画館の子どもたちも、この場面を最も楽しんでいた様子)

 私は特にフェミニストというわけではなく、女性の活躍を声高に叫んでいるわけでもありません。
 
 でもプリンセスたちの「新たな動き」は、非常に心弾むもの。

 ディズニーの昔ながらの良さを生かしながら、新しい風を吹き込んでいく・・・そんな気概がこの映画からヒシヒシと感じられました。

 さて、私は「シュガーラッシュ」を観る前に書店に立ち寄ったのですが、偶然にも購入したのが、この本。
 韓国でベストセラーとなり、映画化も決まっている「82年生まれ、キム・ジヨン」です。



 「女性」というだけで受けてきた苦難・差別を描いた本ということで、ディズニープリンセスの変身に通じてるような。

 上映前、予告が始まるまで読んでいたので、その偶然に思わずときめいてしまいました。

 世界は、時代は、確実に動こうとしているんですね。
 本当に動くかどうかはわかりませんが、様々な人が様々な形で「変わらなきゃ!」と声をあげているんです。

 それにしても驚いたのは、この本、いきなり超常現象的に始まるんですよね。
 ここからどのようにして、女性の困難の歴史へと展開していくのか・・・めちゃくちゃドキドキしているところです。

 うわ~、一体どうなるんだろう~!?

 読み終えたらまた、感想を書きますね。 
 

角幡唯介「旅人の表現術」感想。傑作ノンフィクションはこうして生まれる!アノ人気作家との対談も。

評価:★★★★★

 探検をしている間も、ジャングルの中をはい回っている最中に、自分で自分の行動を実況中継しているんです。「今、滑りそうな岩の上に右足をおいて、木をつかんで、折れないか確かめながら体を引き上げた」と、心の中で言葉にし直している。
(本文引用)
______________________________

 「ノンフィクションならこれを読め!」といわれる本がある。
 それなら本書は、「ノンフィクションを読むならこれを読め!」と言いたい本。
 
 角幡唯介「旅人の表現術」は、あらゆるノンフィクションを読む前に、一度は目を通しておくべき一冊だ。

 ノンフィクションおよび、事実をモデルにした小説はどのようにして生まれるか。
 冒険譚・探検をつづったノンフィクションは、過酷な状況の中、どのようにして書かれるのか。

 そして角幡唯介とは、探検家なのか作家なのか・・・。

 本書を読めば、角幡唯介やノンフィクションにまつわる疑問が次々氷解。
 時には「そうだったのー!?」と、雪崩のように一気にわかることも。 


  
 「角幡唯介の世界」および「ノンフィクションの世界」を知りたければ、脳から変な物質が出てきそうなほど満足・興奮できる一冊だ。

 そうそう、これから「極夜行」を読もうと思っている人は、事前に読んでおくのがおすすめ。
 「何だこりゃ!?」とのけぞるほど面白い「極夜行」が、さらに百倍楽しめるだろう。
 
 もちろん、すでに「極夜行」を読んでいる人にもおすすめ。
 極夜行誕生秘話のような感覚で読むことができ、あの傑作をしみじみ反芻することができる。
 (※「極夜行」のレビューはこちら

___________________________

■「旅人の表現術」内容



 本書は「探検家・ノンフィクション作家 角幡唯介」を様々な形で解剖。
 エッセイ、書評、対談などを通じて、「角幡唯介は探検と表現をどうとらえているのか」がわかる構成となっている。

 開高健の偉大さはどこにあるのか、沢木耕太郎らノンフィクション作家達は角幡作品をどう見つめているのか、角幡唯介が影響を受けた本は何か、なぜ角幡唯介は探検と表現にたゆまぬ挑戦を続けるのか。

b9b4e6b9b78859069e547af2cd5908a8_s.jpg


 角幡氏の自己凝視と、他者から見た角幡唯介。

 その両面から、稀代のノンフィクション作家・角幡唯介の姿がまざまざと見えてくる。
______________________________

■「旅人の表現術」感想



 「これぞ角幡唯介ファンブック!」と抱きしめたくなる一冊。
 
 まず本書を読めば、「角幡唯介にまつわる疑問」がスーッとわかる。

 たとえば私は、常々こんな疑問をもっていた。

 「角幡唯介は探検家なのか?ノンフィクション作家なのか?探検が先なのか?まず表現ありきなのか?」

 そんな疑問は、角幡氏自身のこんな言葉で解決できる。

 私の探検は社会の外に飛び出すことで、その社会に対して何か新しい視点を付けくわえてやりたいという気持ちがモチベーションになっているわけで、その身体的批評行為を文章で表現することはきわめて自然なことなのである。どっちが先でどっちが上ということもないわけで、最終的に何が書けるかという観点から、どこで何を探検するのかを決めるのは、逆に当たり前だとさえいえる。

 もし今、書くという手段を封印されても探検に行くのかと訊かれたら、行くかもしれないが、それは探検にはならないだろうと答えると思う。作品にして発表するという構想が、旅に出ようとする私の背中を強力に押している。

  さらに角幡氏は、作家・三浦しをん氏との対談でこんな言葉も語っている。

 角幡  たぶん物書きである僕らって、純粋じゃないんでしょうね。
 三浦  えー、そうですかね。
 角幡  見たいと思っている時点で、どこか不純なんだと思います(笑)。

 これらの部分を読み、私は妙に呆けたような安堵したような心弾むような・・・不思議な気分になった。

 ああ、これで安心して角幡作品が読めるんだな、心ゆくまで楽しんでいいんだな、と。
 
 実は私は角幡唯介氏の作品を読むのに、「何だか申し訳ないねぇ」という気持ちをもっていた。

 「もうどう考えても確実に死ぬ!」という危機を何度も乗り越えて、その末に本まで書いて、私たち読者に至福の時間をくれるなんて。
 「私たちのことはもういいから、とにかく安全に、好きなところに好きなように探検してきてください・・・」と、頭を下げてお願いしたい思いでいっぱいだったのだ。

d4b0a09d3f79afa946ce6ede2f8e5feb_s.jpg


 しかし本書のエッセイや対談を読み、ホーーーーーッと脱力。
 角幡さん、ありがとう!!
 これからも読ませていただくね!と、思いっきり笑いかけたくなった。

 だから本書は角幡唯介ファンブック。
 もっと角幡作品が好きになる、角幡中毒にしてしまう「罪な本」なのだ。

 また本書は対談を通じて、「外から見た角幡唯介」を知ることができるのも魅力。
 
 沢木耕太郎氏との対談では、「えっ? これってダメ出し?」と思われる批評も赤裸々に掲載。 

沢木  最後にこういう書き方をする作品を二つ続けて出すのはまずいんじゃないかと僕は思ったんだけど。

 

沢木  表現としては、もうちょっと工夫できたんじゃないかな。

 巨匠ならではの視点で角幡作品を斬りまくる、沢木耕太郎。
 探検・紀行ノンフィクションの名手二人がやり合う丁々発止の対談は、今読んでおかないと損する貴重な一幕だ。
 
 一方、旧知の探検家との対談は和気あいあい。
 
 なぜ命がけの探検をしながら、傑作ノンフィクションを書き続けることができるのか。
 文才はもともと備わったものなのか、新聞記者の経験は活きているのか・・・等々について、角幡氏からスルスル答を引き出していく。

 まさに角幡唯介大解剖。 
 
 しつこいようだが、本書は正真正銘「角幡唯介ファンブック」なのである。

 ちなみに対談によって、角幡さんのテンションが異なるのも見どころ。

 対談によって、「あー、この対談は楽しくなかったんだな」「イライラしたんだろうな」といった様子がチラリと見える(あくまで私見だが)。

 逆に非常に楽しそうなのは、三浦しをんさんとの対談。

 あれほどの人気作家なのに、謙虚な人柄の三浦さん。

 角幡さんに対し、純粋な好奇心いっぱいの質問・話し方をされていて、たいへん好感がもてた。
 本書の対談を通じて、私は三浦しをんさんの作品だけでなく人間性まで好きになった。

 よって本書は、三浦しをんファンも必読だ。
 (※対談の題材となった「神去なあなあ日常」のレビューはこちら

 その他、本書には「今の角幡唯介」をつくり上げた「角幡の素」がいっぱい。
 今、いちばんのってるノンフィクション作家・角幡唯介を知るのなら、まずは「旅人の表現術」を読んでおこう!




 そして角幡唯介に限らず「ノンフィクションとは何か、どうやって生まれるのか」を知りたい人にもおすすめ。
 「命を賭けて体で感じたものを、命を賭けて文字で表現する人」の頭の中を、そっくりのぞくことができる。

詳細情報・ご購入はこちら↓

「未来をはじめる 人と一緒にいることの政治学」感想。この講義こそ世界を変える一歩だ!

評価:★★★★★

自分が自分らしくありながら、他人とつながるにはどうしたらいいか。自分が自分のボスでありながら、同時に周りの人とも意味のある関係を保っていくにはどうしたらいいのか。これこそ、すべての人にとって重要な課題であると同時に、政治が本質的に抱える課題なのです。
(本文引用)
______________________________

 「この本こそ、この講義こそ世界を変える一歩だ!」
 読みながら、私は叫んだ。

 本書は豊島岡女子学園で行なわれた、政治学の講義である。
 
 政治といっても、日本や世界だけには限らない。
 家庭や教室等さまざまな場の「政治」をとりあげていく。

 人が周囲とつながる時、必ず対立・衝突・すれ違いが起こる。
 ならばどうすれば、他者との違いを受け入れながら、自分らしく生きることができるのか。

 本書では中高生への講義を通して、「人と一緒にいること」「人と共に生きること」を徹底討論。
 
 次代を担う若者たちができることとは?


 

___________________________

■「未来をはじめる 人と一緒にいることの政治学」内容



 本書では、中高生とともに「政治」について考えていく。

 日本と世界はどのように変化してきたか。
 グローバリズムの進行と衰退。
 資本主義と社会主義のメリット・デメリット。
 今後の労働・雇用。
 女性が活躍する社会とは?
 教室から見える「人とのつながり」。
 選挙制度の問題点等々・・・。

db82781fd3aac332683ad390564383de_s.jpg

 
 政治学者・宇野重規氏が生徒たちの意見を丁寧に拾い上げながら、講義を進行。

 生徒たちの忌憚のない意見から、「未来を始めるヒント」が徐々に見えてくる。
______________________________

■「未来をはじめる 人と一緒にいることの政治学」感想



 本書最大の魅力は「政治」について「ホンネ」で考えられること。
 読みながら、「私ならこんな政治がいい!」「こんな社会はイヤ!」と、むき出しの気持ちで考えられることだ。

 たとえば面白いのが、ロールズの「正義論」を題材にした講義。
 米国の政治哲学者・ロールズは、かつて「最も恵まれない人に最大限の利益が与えられるべき」と唱えたという。
 社会的・経済的に不平等が生じるのは、ある程度仕方がない。
 しかし「最も恵まれない人の利益最大化」が大前提。

 公正な社会をつくるには、「最も恵まれない人の利益を最大化する」ことが必要だ、とロールズは主張する。

323a2d57f312901bdd3e76d779470612_s.jpg


 本講義では、そのロールズの主張に関して議論が白熱。
 
 ・身体的なハンディがある場合は仕方がないが、自業自得の場合は?
 ・努力不足で「恵まれない人」になった場合と、そうじゃない場合をどうやって見分けるの?
 ・教育なら全員受けられるようにしないといけないけど、自分でやらかした人もいるだろうし・・・。
 ・給料がみんな同じだったら、頑張ってる人の士気が下がるのでは?
 
 生徒たちは口々に、ロールズの主張に対し意見を述べていく。

 多くの生徒が「最低限の生活・教育は保障されるべき」と思いながらも、「自業自得の人」と「仕方のないハンディがある人」との区別が難しい、と主張。
 
 そこから「税負担の公平性の難しさ」にまで、講義は進展。
 日本人の、税に対する「謎の思考」が露呈されていく。

 このロールズの主張に対する討論には、心底シビれた。
 ビリビリきた。

 まさにこの講義・討論こそが、未来を作るのだ。

 ただ挙手や多数決で民意をはかるのではなく、本音で意見を交わしていく。
 共通意思や「場の空気」に押し流されることなく、自由に主張し、それを受け入れながら他者とつながっていく。

 大人からすれば「そんなこと言っちゃっていいの?」とハラハラするような言葉が多いが、それこを「未来を始める原動力」となるのだ。

 本書の講義・議論を読み、自分がいかに思考停止していたかがよ~くわかった。
 「よく考えたら、この制度、おかしくない?」という気づきをたくさん得られた。

 宇野先生と豊島岡女子学園の生徒たちの「ホンネの議論」は、人々の意識を変え、日本を変え、世界を変える起爆剤となるだろう。

 巻末の「放課後の座談」も必読。

 政治ってなんだかめんどくさい、LINEでポチッだけにしたい。
 でもいざ、クラスで話し合いがまとまらなかったら、どうする?

 そんな小さな「政治」について、生徒たちは実感たっぷりに話してくれる。いや~、実に面白い!

 こんな講義・座談会を読んじゃったら、選挙に行きたくなること必至。

 「投票に行くこと、政治に参加することこそが、自分が自分であることなんだ!」
 
 そう思いながら、スキップで投票所に行っちゃうかも。

詳細情報・ご購入はこちら↓
プロフィール

アコチム

Author:アコチム
仕事・家事・育児の合間に文字を楽しむ、兼業主婦の備忘録です。
本の評価は以下のとおり(2015年10月~)
★★★★★=読むと一生幸せでいられます。
★★★★☆=読むと1年間幸せでいられます。
★★★☆☆=読むと1週間幸せでいられます。
★★☆☆☆=これ以下の本は載せません。

最新記事
シンプルアーカイブ
最新コメント
最新トラックバック
RSSリンクの表示
QRコード
QR

書評・レビュー ブログランキングへ
にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村
カテゴリ
広告
記事更新情報
リンク
広告