理学部出身作家による新感覚ホラーコメディ「5まで数える」(松崎有理)。星新一さんが好きな人には良いかも!

評価:★★★★★

 「死ぬべきじゃないひとが死なない方法がないか、って考えるようになった」
(本文引用)
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 日経新聞「目利きが選ぶ今週の3冊」で紹介されていたので、読んでみました。
 「5まで数える」の著者・松崎有理さんは東北大学理学部卒。
 理系出身の小説家が、専門知識を生かした小説を書くのは珍しくありません。

 が、「5まで数える」は理系色が特に濃厚な一冊。

 実験医が命を落とすことなく、感染症を撃退できないか。
 互い手錠でつながった凶悪犯罪者たちが、いかにして生き残ろうとするか等々・・・。

 「5まで数える」を読んでいると、昔、星新一さんのショートショートに夢中だったことを思い出します。



 自然な存在である人間と、人間が作り出す科学とは、どこまで相容れることができるのか。
 実生活に生かされている科学と、実際にはありえないファンタジーとは、どこまで融合できるのか。

 「5まで数える」は、「人間×科学×ファンタジーが溶け合うとこんなに面白い物語ができるんだ~!」と感動できる短編集です。
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 第一話の「たとえわれ命死ぬとも」は、感染症に対抗する実験医の物語です。

 主人公の大良は、彗星病撲滅を目指す実験医。
 彗星病は彗星と同じスパンで流行する感染症で、大良の妹を死に至らしめた病です。

 実験医たちはこぞって彗星病撲滅に乗り出しますが、その過程で医師たちは命を落とします。
 そこで大良は「人間が死ぬことなく、彗星病をやっつけるワクチンを作りたい」と尽力。

 有精卵などを使い、何年にもわたり実験を続けますが・・・?

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 この「たとえわれ命死ぬとも」はホラーですが、良い意味で「笑えないホラー」といえます。

 良い意味でと言ったのは、実際の医療問題を含んでいるから。
 
 昔も今も「人間が死ぬことなく、病を撲滅させたい」と考える医師はたくさんいます。
 研究者たちの汗と涙のおかげで、今、多くの人の命が救われているわけですね。

 でもなかにはゼンメルヴァイスのように、正しいことをしているのに、冷たい視線を浴びる研究者も。

 「たとえわれ命死ぬとも」は、世を皮肉ったホラーですが、誠実さと真摯さと温かさを強く感じる一遍。
 世間に葬り去られた研究者たちに報いようとす情熱が、ほとばしっている物語です。

 ちなみに「たとえわれ命死ぬとも」を読む場合は、「自分の体で実験したい」も読んでおくのがオススメ。

 私はたまたま読んでいたため、「ああそうそう、この人この人!」と何倍も面白く読むことができました。
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 さて、「5まで数える」のなかで私がいちばん好きなのは、最終話「超耐水性日焼け止め開発の顛末」。
日焼け止めの話ということで、夏にピッタリの一遍です。



 主人公のヨーコは、化粧品メーカーの研究員。
 汗で落ちない日焼け止めを開発します。

 ヨーコが開発した日焼け止めは、評判も上々。
 水に落ちにくく、肌にもなじみやすいのがウケて売れ行きも好調です。

 ある日、ヨーコは長身で色白の男性に呼び止められ、こう言われます。 

「この商品について、お礼をいいたくて。おかげでこんな昼間でも外出できるようになりましたから」

 ヨーコは喜びますが、ふとした瞬間に、男性の奇妙さに気がつきます。

 そして常備していた「あるもの」を彼に吹きつけるのですが・・・?

 この「超耐水性日焼け止め開発の顛末」は、ぜひ「世にも奇妙な物語」でドラマ化してほしいです。
 視聴者は皆、ラストの映像を観た瞬間に「そういうわけだったのかぁ~!」と度肝を抜かれることでしょう。

 ヨーコ役は中谷美紀さん、男性役はオダギリジョーさんあたりでやってほしいです!

 理系の匂いプンプンのホラー短編集「5まで数える」で、今年の夏は涼しく過ごしましょう。

※「5まで数える」の中にあるクイズをアレンジしてみました。
この問題、正解なら1秒もかからず解けるのですが、わかりますか?
ぜひ挑戦してみてください(^^)

「わたしが渋谷駅に行く途中、向こうから男性が歩いてきました。
彼は妻と息子と娘を連れ
彼の妻は友人3人を連れています。
彼の妻の友人はそれぞれ2人の子どもを連れ
彼の息子は友だち4人を連れ
彼の娘は友だち2人を連れています。
男性、男性の妻、男性の妻の友人、男性の妻の友人の子ども、男性の息子、男性の息子の友だち、男性の娘、男性の娘の友だち
さて、何人が渋谷駅に向かっていたでしょうか」

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ちょっと簡単すぎるかな~?


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梅雨時にピッタリの一冊。夏休みの読書感想文にも。「夏への扉」ロバート・A・ハインライン

評価:★★★★★

 だって、行きたいものはしようがないだろう。ぼくは断然反撃に出た。考えてみろ! 紀元二〇〇〇年だぜ!
(本文引用)
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 SFの傑作として名高い「夏への扉」。
 
 タイトルからして梅雨時にピッタリの小説ですね。
 夏休みの読書感想文でも、人気のある小説です。

 でももしかすると「夏への扉」は、今の若い人には合わないかもしれません。

 なぜなら、紀元2000年あたりに生まれた人が「紀元2000年に行ってみたい!」とは思いませんよね。
 中学生や高校生が「夏への扉」を読んでも、「いったい何のことやら?」とチンプンカンプンかも。

 もし10代の方で「夏への扉」を読んでみたい方がいたら、ぜひ身近な大人(20代はダメ。せめて35歳以上)に、この質問を投げかけてから読んでみてください。

 「ねえ、2000年ってどんな世界になると思ってた?」



 ちなみに私は(私の周囲の人間も)、2000年には全員銀色のピッチリとしたスーツを着て歩いていると思っていました。
 バイクや車には車輪がなく、浮いた状態で走っていると思っていました。笑っちゃうでしょう?

 そんな空想・妄想をしていた大人たちにとっては、この「夏の扉」は本当に面白い!
 10代から20代前半あたりの非常に若い方は、本書の2000年を2050年~2100年あたりに設定しなおして読んでみてください。

 「夏への扉」を読む前と読んだ後とでは、世の中の見え方が全然違ってきますよ。

 そして「夏への扉」を読むと、自分なりの「苦難からの脱出方法」が見えてきます。

 目をつぶるか、目を開けて歩くか。

 さて、あなたならどんな「夏への扉」を選びますか?
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 時は1970年。主人公のダン・デイヴィスは機械工学を修めた技術者として、様々な発明をします。

 ところがダンは恋人に騙され、仕事も特許もすべて奪われてしまいます。

 ダンの心は完全に凍り付き、愛猫ピートとともに「夏への扉」を探し求めることに。

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 結果、ダンが選んだ「夏への扉」は、自分の体を冷凍させて未来に行くこと。

 30年後の2000年に起きるよう設定し、ダンは眠りにつくのですが・・・?
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 タイムトラベルはSF小説の王道ですが、「夏への扉」は実際に「私たちが経験している時代」が舞台になっているので、より楽しめます。

 2000年を20年近くも過ぎた今、ダンが発明したような物がひとつでもあるでしょうか? ダンが想像するような出来事が、ひとつでも起こっているでしょうか?

 よーく考えると、「『あれ』がダンの発明にちょっと似てるかな~?」と思い当たるものもありますが、未来を変えるって意外と難しいもの。

 その代わり、ダンが考えもしなかった「あんなもの」や「こんなもの」が普及しているので、ダンはビックリしちゃうかも。

 「夏への扉」は「身近な問題を解決してくれる発明品」を中心に描いているので、今現在の自分の生活に引きつけて読むことができます。

 「夏への扉」の人気が衰えないのは、「2000年を過ぎたからこそ楽しめる」要素がいっぱいだからなんですね。

 「1999年に地球が滅亡するらしい」なんて言っていた大人の方(私だけど)は、「夏への扉」を読み「昔はこんなことを考えていたんだー」と目を細めることでしょう。

 そして2000年より前を知らない若~い人は、「昔はこんなことを考えていたんだー」と目を丸くすることでしょう。

 「夏への扉」を読みながら、ぜひ自分や世の中の現在過去未来を見渡してみてください。
 今まで気づかなかった変化や、今まで気づかなかった「変化のなかったこと」に気づくことができますよ。

 そして「夏への扉」から得た「気づき」は、自分が苦境に陥った時のヒントになります。

 現在に目をつぶって眠りにつくか、何とか目を見開いてゆっくりとでも歩いていくか。

 ダンとピートの時間旅行は、「あなたが意地でも前に進まなければならない時」の道標となってくれますよ。

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「テロリストじゃないから関係ない」なんて思っていませんか? 「スノーデン 日本への警告」を読めば、そんな呑気なことを言っていられなくなります。

評価:★★★★★

 隠すことがなければプライバシーの権利を気にする必要がないというのは、話したいことがなければ言論の自由は必要ないというのと同じくらい危険なことです。
(本文引用)
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 共謀罪法の成立で、「いよいよ日本も超監視社会に突入か?」と懸念されています。

 私もいつ、日本がジョージ・オーウェルの「一九八四年」の世界になるのかとビクビク・・・。

 と言いつつも、心のどこかで「私はテロリストではないし、テロリストになりそうな知り合いもいないから大丈夫」と思ってしまう自分もいます。

 でもエドワード・スノーデンの警告を読んだ今、考えがガラリと変わりました。

 一刻も早く「テロリストでないから関係ない」という考えはバッサリと捨てるべき。
 逮捕まではされなくても、「自分が自分でなくなる」時代がやってくるかもしれないことは、十分覚悟しておくべきだと感じました。

 「スマホを落としただけなのに」という傑作ミステリーもありますが(これ、怖かったです)、スマホを落とさなくても「私」という人間が丸裸にされ握りつぶされてしまう現代。

 今、私たちが危惧すべきことは何なのか。
 何に対して声を上げるべきなのか。

 「スノーデン 日本への警告」は、共謀罪法の下に生きる日本人にとって必読の本です。





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 エドワード・スノーデンは2013年に、アメリカ政府による異常な監視体制を暴露しました。
 かの有名な「スノーデン・リーク」です。

 アメリカ連邦政府は9.11のテロ以降、「テロ対策」と銘打った監視を開始。

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 アメリカ政府による監視は、テロリストだけでなく一般市民にも向けられ、手段も常軌を逸したもの。国民の個人情報を、否応なく無理やり剥ぎとるようなものでした。
 元情報部員だったスノーデンはそれを見かねて、アメリカ政府による「超監視」を白日の下にさらします。

 スノーデンの行為は米連邦政府にとってはあまりに衝撃的なもので、その後スノーデンは亡命。現在に至ります。

 そんなスノーデンがロシアから来日し、東大でシンポジウムを開催。
 本書「スノーデン 日本への警告」には、シンポジウムで行なわれた質疑応答が収められています。

 さらに第二部は、スノーデンに関わった弁護士やプライバシーの専門家、ジャーナリストらによるパネルディスカッションを収録。

 監視社会にまつわる様々な疑問について考えていきます。

 この「スノーデン 日本への警告」、最近評判なので読んでみたのですが、あまりに面白くて1日足らずで読んでしまいました。

 なぜ「スノーデン 日本への警告」が面白いか。

 その理由は、質問や議論の内容が非常に素朴だからです。

 「メディアは政府の暴走を止められるのか」、「監視は本当に犯罪の抑止になるのか」、「性犯罪者が出所した後の居場所を知らせることは、個人情報の観点からどうなのか」等々、

 どれもこれも「私もそれ、聞きたかった!」と言いたくなるようなものばかりで、思わず身を乗り出して読んでしまいます。

 本書を読めば、政府による監視や、あいまいな基準で思考をしばりつけることがいかに無意味で危険なものであるかがわかります。

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 なかでも震撼したのは、ナチスによる大虐殺が超監視のもとに行われた件。

 なぜあそこまでユダヤ人を集めて虐殺することができたのか。

 その発端となる個人情報収集には背筋が凍ります。

 本書では、今、ムスリムに対して行われている監視も、ナチスによる監視に通じるものがあると指摘。

 犯罪の抑止ではなく、単なる民族差別であると断じます。

 スノーデンやスノーデンに関わった有識者らの意見をまとめると、「プライバシーの大切さ」に落ち着きます。

 テロリストではないから自分の情報をいくら見られてもかまわない。
 ついそう思いがちですが、一個の尊い人間として、それではいけないのです。

 横暴な監視を許すことは、自分が自分でいられなくなる社会を許すこと。

 スノーデンはそう主張します。 

今現在のあなたにとって、プライバシーはそれほど大切ではないかもしれません。しかし少し想像してみて下さい。プライバシーがなくなれば、あなたはあなた自身ではなくなるのです。社会のものになってしまうのです。社会があなたを見て判断する、社会があなたという存在を決めてしまう、社会があなたはどういう人でどういう生活をするべきかと命令するようになるということです。プライバシーは自分自身の判断を可能にするのです。プライバシーは、自分が自分であるために必要な権利なのです。

 ここ数年、日本では強行突破的にさまざまな決まりが作られてしまっています。

 法律の内容云々以前に、国民が置いてきぼりになっている状況です。

 そのような状況のなかで「超監視」が始まったら、まさしく「一九八四年」のウィンストンが危惧するように、思考も言葉もなくなる世界になるでしょう。

 「スノーデン 日本への警告」を読みながら、「自分が自分でいられる社会」「二足す二は四といえる社会」を守る術を、じっくりと考えていきたいと思います。

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共謀罪法成立!というわけでジョージ・オーウェル「一九八四年」を再読。思考警察、思考犯罪は今そこに?

評価:★★★★★

  自由とは二足す二が四であると言える自由である。その自由が認められるならば、他の自由はすべて後からついてくる。
(本文引用)
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 6月15日、ついに「共謀罪」法が成立しました。

 これは犯罪を「実行してから」ではなく、「計画している」段階から処罰する法律です。

 計画している段階から処罰」って、線引きがあいまいで怖いですよね。

 有識者の中には、「LINEは絶対に既読スルーしないように」と主張する方もいます。
 既読スルーだと、「計画」に参加したことになり、逮捕される可能性があるとか。



 安倍首相は「一般人が処罰されることはない」と言っていますが、その捜査対象になる人と一般人との境界だってあいまいですよね。
 一般人と捜査対象との線引きもあいまい、「計画している段階」という定義もあいまい、そんな「あいまいさ」を棒倒しの砂のようによけていくと、結局残るのは「思考の監視」になるような気がします。

 この「思考の監視」と聞いて、多くの人が思い出す小説が「一九八四年」ではないでしょうか。

 ビッグブラザーの監視のもと、言葉が狭められていく。

 言葉が狭められると、思考も狭められていく。

 言葉と思考はつながっているので、その恐怖のループは容易に想像できますよね。

 言葉と共に思考が狭められた結果、本書の82ページは、こう予言します。

「最終的には<思考犯罪>が文字通り不可能になるはずだ。何しろ思考を表現することばがなくなるわけだから」

 今回成立した共謀罪法を見ると、「思考を表現することばがなくなるわけだから思考犯罪がなくなる」という図式が見えてきてしまうのですが、それは考えすぎでしょうか。
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 「一九八四年」には、他にもギクリとするような言葉やエピソードが、たくさん出てきます。

 なかでも共謀罪法とつなげて考えてしまうのが、主人公ウィンストンが日記をつけ始めるくだりです。

 ウィンストンは、自分の思考やモノローグを未来に残すために日記をつけますが、それはとてつもなく危険なこと。

 何しろ思考が監視されている世界ですから、どんな罰が待っているかわかりません。

 ウィンストンは時々、日記をやめる誘惑にかられます。

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 でもウィンストンは日記を続けます。それは人類の自由と歴史を守るためではありません。
 日記をつけてもつけなくても罰せられるという、無力感からです。 

彼は駄目にしてしまった頁を剥ぎとり、日記をつけるという企てをすっかり放棄したい誘惑に駆られた。
 しかし彼はそうしなかった。そんなことをしても無意味だと分かっていたのだ。“ビッグ・ブラザーをやっつけろ”と書こうが、書くのを思い留まろうが同じこと。日記を続けようが続けまいが同じこと。どちらにしろ<思考警察>に逮捕されるだろう。罪を犯したのだ――たとえ髪に文字を書かなかったとしても犯したことになる。それは他のすべての罪を包摂する本質的な罪、<思考犯罪>と呼ばれる罪なのだ。

 思考まで罪の対象になると、人間は見事なまでに無力になる――ウィンストンの心境からは、思考を罰する恐怖がジワジワと伝わってきます。

 そしてウィンストンは、こう書きます。 

<思考犯罪>は死を伴わない。<思考犯罪>が即ち死なのだ。

 
 共謀罪法が、いったいどのように適用されるのかはわかりません。
 
 でも「計画」というあいまいな段階で処罰というのは、やはり怖いです。

 テレスクリーンがどこでどのように私を見て、どう判断するのか。

 それに怯えているうちに二足す二は四と言えない世界になり、「二足す二は・・・」という言葉すら消滅するのかもしれません。

 今後、共謀罪法がどのように作動するのか、日本国民としてじっくりと「監視」していかないといけませんね。

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涙がポロポロと止まらなくなる、隠れた名作!「ミナトホテルの裏庭には」寺地はるな

評価:★★★★★

 「きれいな花が咲いている、って声に出して言うと、笑ったみたいな顔になるの。しかめ面しては、言えない言葉なの」
(本文引用)
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 「ダ・ヴィンチ 2017年1月号」で、「本読みのプロが選ぶ『とっておき』の今年の3冊」として紹介されていた小説。

 いわゆる「かくし玉」小説といったところでしょうか。
 
 皆が推薦する本もいいけれど、誰か1人が強烈に推している本もそそられますよね。

 「ミナトホテルの裏庭には」は一部のマニアの間で評価の高い小説なのですが、読んで納得。
 「ミナトホテルの裏庭には」を読んでいると、あれっ? あれあれあれっ? というように涙がポロポロとこぼれてきます。

 心が疲れてるのかなぁ?
 「ミナトホテルの裏庭には」の登場人物たちに「休んでいいんだよ」と頭をなでられている気がして、何だか涙が止まりませんでした。



 今現在、「もしかすると自分は疲れているのかもしれない」と思っていたら、ぜひ「ミナトホテルの裏庭には」を読んでみてください。

 体は大丈夫でも、意外なほど心が悲鳴を上げていたことに気づきます。

 そして、ミナトホテルの人たちが命の恩人に見えますよ。
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 主人公の木山芯輔-通称:芯(しん)は、祖父と暮らす会社員。
 ある日、祖父から妙なことを頼まれます。

 その頼みとは、ミナトホテルの裏庭の鍵を探すこと。

 祖父の知り合いの女性・陽子は、かつて自分の葬儀をミナトホテルの裏庭でやってほしいと語っていました。

 しかし陽子が亡くなっても裏庭の鍵が見つからず、一周忌法要を裏庭で執り行うことに。

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  ところがまだ、ミナトホテルの裏庭の鍵は見つかりません。

  芯はゴチャゴチャの部屋の中で、ミナトホテルの裏庭の鍵を捜しますがなかなか見つからない様子。

  その間、ミナトホテルには訳アリの客が次々やってきて・・・?
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 「ミナトホテルの裏庭には」を読んでいると、いつの間にか涙がポロポロとこぼれてきます。

 それは、読者1人ひとりの心を全て受け止め、抱きしめてくれるからです。

 「ミナトホテルの裏庭には」のメッセージは、「本人の気持ちは、本人にしかわからない。他人が口を出してはいけない」ということです。

 この小説には何人か、心がボロボロになってしまった人が登場します。

 そのきっかけは、軽微なものから重要なものまでさまざま。

 でも「軽微なものから重要なものまで」などと判断してはいけないのです。
 
 本人が辛いといえば辛い。誰が何と言おうと辛いことなのだから、その気持ちを肯定しないといけない。
 
 「ミナトホテルの裏庭には」の底には、そんな信念がどっしりと居座っています。

 なかでも衝撃的なのが、この場面。

 芯はある日、同じ会社の女性がひっそりと泣いている姿を見かけます。

 女性が泣いていた理由は恋の悩み。
 芯はその件を知り合いに話し、

「そんなにたいしたことじゃないと思いますけど」

と言います。

 すると知り合いは荒っぽい口調で、こう返します。 

「それは他人が決めることじゃねえだろうが」


 彼はさらに続けて、このように畳みかけます。

その程度のことでそんなに落ちこむのはおかしいとか、いつまでも引きずるのはおかしいとか、そうやって他人のつらさの度合いを他人が決めることこそおかしい、なんの権利があって他人のつらさを判定しているのだ、君はあれか、つらさ判定員か、そういう職業があるのか、ないよな、えらそうに「たいしたことじゃない」とか言ってんじゃねえよ


 「ミナトホテルの裏庭には」には、他にも「他人が誰かの辛さや悲しみを決めるな」「他人を自分のものさしではかるな」といったエピソードが登場します。

 「ミナトホテルの裏庭には」を読んで、パタパタと涙が出るのはそのせいです。

 人間は、つい強がって、悩みや苦しみを自分の中で圧縮させてしまいます。

 自分の悩みは他人から見るとものすごーくちっぽけなのかもしれない。
 だから言えない、みんな頑張ってるのに、こんなことで悩んでいるなんて言えない。

 そう自分を騙しながら、毎日やり過ごしてしまいます。

 でも実は、本人が苦しいと言ったら苦しいんですよね。

 苦しさや悲しみに比較なんてない。

 私が苦しいと思っているのだから、苦しいことが今、起きているのだ。
 我慢することなんてないのだ!

 「ミナトホテルの裏庭には」は、人知れず苦しむ人たちを誰一人見捨てることなく、全身で受け止めてくれる小説です。
 だから、涙がポロポロ止まらなくなるんです。

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 今、「もしかしたら私、苦しいかもしれない」と思っていたら、ぜひ「ミナトホテルの裏庭には」を読んでみてください。

 特に、自分の悩みを小さく見積もろうとする傾向のある人は必読。
 悩みや苦しみに、大きいも小さいもないんだよ・・・ミナトホテルの人たちが、そう教えてくれます。
 そして広く大きな胸を貸してくれますよ。

 寺地はるな著「ミナトホテルの裏庭には」。
 「ダ・ヴィンチ」のかくし玉として推薦されるのも納得の、素晴らしい小説でした。

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「みんな仲良く」では、「いじめ」は永遠になくならない!ではどうすれば?「友だち幻想」菅野仁

評価:★★★★★

 単に「いじめはよくない、卑怯なことなんだよ」「みんな仲良く」という規範意識だけではいじめはなくなりません。
(本文引用)
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  「友だちなのに、なんでわかってくれないの?」
 「彼に、自分の全てを好きになってほしい」
 「幼稚園に子どもを送った後は、オシャベリしないですぐに家に帰りたいんだけど・・・」
 「LINEが来たら即レスしなきゃ」
 「あいつムカツク、ウザイ」

 今現在、そんな心境に陥っているのなら、騙されたと思ってこの本のページをめくってみてください。

 自分が今、「友だち幻想」という重大な病に侵されていることに気づき愕然とするでしょう。

 そして病名がわかれば、あとは治療するのみ。



 この本を読めば、「友だち幻想」病の特効薬も見つけ出すことができますよ。
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 著者・菅野仁さんは、まず「人間の幸福は他人がもたらす」としています。

 人とのつきあいは精神を高揚させ、また人に認められることは自己充実感につながります。
 つまり人の幸福感とは、他人によってもたらされるということです。

 だからこそ、その「他人」とはどのようにつきあっていけば良いかを説いていきます。

 菅野さんの主張の核は、「相手を他者として意識する」ということです。 

どんなに気の合う、信頼できる、心を許せる人間でも、やはり自分とは違う価値観や感じ方を持っている、「異質性を持った他者なのである」ということは、すべての人間関係を考えるときに、基本的な大前提となると私は考えます。

 

相手を他者として意識するところから、本当の関係や親しさというものは生まれるものなのです。


 確かに言われてみると、人間関係の悩みって「自分をわかってもらえない」というところから発生しているような気がします。

 また逆に、「相手が私に、全てを受け入れるよう要求してくる」「相手が私を操作してくる」といった状況も、非常に苦しいものですよね。

 菅野さんは、とにかく「どんなに親しくなっても、相手を他者として認識する」ことを進言します。

 「私のことを全て受け入れてくれる人が、どこかに必ずいる」などと考えるのは幻想で、自分を辛くするだけ。

 あくまで相手を「自分とは異なる他者」と考え、そのうえで信頼することが大切であると、菅野さんは主張します。

 それゆえに、「みんな仲良く」では「いじめ」はなくならないと著者は語ります。

 「みんな仲良くしなければならない」という考えには、他者を他者として認識できない同調圧力が働いていますよね。
 そうなると「あいつは仲良くできない人間だ」「あの人は何となく気に入らない」という感情が、組織を支配するようになります。

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 著者はそれを「フィーリング共有関係」と呼び、いじめやパワハラの源泉と位置づけます。
 そこで大切なのが、人間関係の規範・・・誰かをいじめたり傷つけたりするようなことをしてはいけない規範を重んじる「ルール関係」です。

 今この場で必要なのは、「あいつが気に入らない」という「フィーリング共有関係」か。
 それともその感情はさておいて、いじめやハラスメントなどは行わず仕事や使命をきちんと全うする「ルール関係」を優先させるべきか。

 その答えは火を見るよりも明らかですが、時としてフィーリングが勝ってしまいがちなのが人間の弱さ。
 人に対して負の感情が芽生えてきたら、今、自分は「フィーリング共有関係」に支配されていると自覚し、「ルール関係」に切り替えていくことが必要なんですね。

 その「ルール関係」を意識すれば、自然と「あいつをいじめてやろう」という感情がしぼんでいきます。
 さらに言えば「ルール関係」を認識することは、「人を殺してはいけない」という質問の答えにもなります。

 「みんな仲良く」という同調圧力は捨てて、「自分とは異なる他者と並存する」。
 「みんな仲良く」から発生する「フィーリング共有関係」は投げ打って、異なる人間と並存するうえで絶対に守らなければならない最低限のルールを遵守する。

 そんな菅野さんの主張を読んでいると、人間関係の悩みの全てが、霧が晴れたようにスッキリとしてきます。

 人間関係に少しでもつまずきを感じていたら、ぜひこの本を手に取ってみてください。
 
 恋愛のお悩みもOK。
 この本を読んでから婚活をすれば、本当に自分が求めていた人、長く一緒にいられる人と出会えますよ。

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結婚相手の決め方がこれ1冊でわかります。島本理生著「わたしたちは銀のフォークと薬を手にして」

評価:★★★★★

 薄々分かっていた。年収じゃない。顔でもない。いや、外見はちょっと大事だけど、それよりも必要なもの。
(本文引用)
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 この小説には、ずばり「結婚の決め手」が書かれています。
 「結婚相手の決め手」といった方がよいかもしれません。

 今、交際中の人と結婚してよいか迷っている人、交際している人はいないがどういう人と結婚すればよいか迷っている人。

 そんな方はぜひ、この小説をじっくりと読んでみてください。
 いっぺんに、「この人と結婚して良いかどうか」「結婚相手の条件に何を挙げればよいか」がわかります。

 そうそう、すでに結婚されている方にもこの小説はおすすめ。
 私は結婚して13年ですが、「今まで意識しなかったけど、夫は確かにこういう人かも!」と非常に腑に落ちました。

 相変わらず、島本理生さんの慧眼ぶりには脱帽です。
 (だから島本理生さんの恋愛ものって、読んじゃうんですよね~)



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 主人公の知世は、30歳を迎えた会社員。仕事に熱中しており、それなりに充実した人生を送っています。

 そんな知世の心にスルリと入り込んできたのが、年上の独身男性・椎名。
 彼は離婚歴がありますが、その事情はかなり複雑かつ深刻。
 椎名はある難病を抱えているのですが、知世はそれを全て受け入れ、椎名と付き合いはじめます。

 そんな知世には、大学時代からの女友達が2人います。
 結婚を焦る茉奈は、彼女と同棲中の男性とつきあっており、その彼女のブログをネットストーカーさながらにチェックする毎日。
 フリーライターの真澄は、結婚願望はないと言いつつ、心の隅に「結婚」の二文字を置いています。

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 知世、茉奈、真澄は運命の相手と出会えるのか、運命の相手と思った人と結ばれることができるのか。

 そしてそもそも、運命の相手とはどういう人を指すのか。

 彼女たちは、本当に大切に思える男性というものを探し、さまようのですが・・・?
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 3人娘が織りなす結婚狂騒曲は、まるで「小説版東京タラレバ娘!?」と言いたくなるような設定です。

 彼女たちが箱根の旅館でくつろく場面などは、東村アキコさんの絵柄が浮かんでくるほど。
 「やっぱり女同士が一番よね~」と言いつつも誰かを愛さずにはいられず、「愛」と「恋」の壁にあちこち頭をぶつけて、もはや満身創痍の状態です。

 でもだからこそ、この小説から学ぶものは大。
 悩んで傷ついて開き直って、また傷ついて・・・。
 そんな知世たち3人娘の七転び八起きは、今、「結婚」に悩む女性にとって大きな「生きるヒント」になります。

 なかでも、婚活に熱心な茉奈の「気づき」は要注目。



 茉奈は二股をかけられている状況にうんざりし、10万円払って結婚相談所に入会しますが、そこである重大なことに気づきます。
 ある男性に断られた理由が、今一つ納得いかない茉奈。
 でも次に紹介された男性と話していて、全てに合点がいきます。 

今、わたしの前でそれを言っちゃうの。
そして悟る。一つでもだめなのだ、と。

 そして次第に、知世と椎名がうまくいっている理由と、茉奈がうまくいかない理由が霧が晴れたようにわかっていきます。
 結婚する相手とは、いつまでも一緒にいられる相手とは、こういう人のことをいうのだ、と。

 10万円と引き換えに得た、茉奈の発見はこの物語の肝といえるもの。
 結婚相談所に入っていなくても、いつか結婚したいと思っていたり、今の恋人と結婚してよいかどうか迷っていたりする人は、他のページをすっ飛ばしてでも茉奈のエピソードを読むべきでしょう。

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 ちなみに3人娘の仲間ではないですが、+αの強烈キャラ・知夏にも注目。
 知世の妹である知夏は、とにかくオレ様(女だけど)体質で、優しい知世とは大違い。
 知世の親友たちですら「ドン引き」するド厚かましいタイプの女性ですが、結婚して子どももおり、なぜかいちばん私生活は充実しています。

 でも知夏の作った城は、いつしかガラガラと崩れていくことに・・・。

 その過程は予想だにしないものですが、そのときになってようやく「知夏がオレ様キャラ」でいる理由、いざるを得なかった理由が見えてきます。

 読むうちに、オレ様知夏・わがまま知夏・「お前ってちょっと性格が悪いよな」と夫に言われる知夏への見方が変わってきますよ。
人の心って、実に複雑なものですね。

 結婚したくて悩んでいる人、今の相手と結婚して良いかどうか悩んでいる人。
 そして結婚したけれど、何となく自分の幸福度がわからない人。

 そんな方は、恋愛のハウツー本を一度全部片付けて、「わたしたちは銀のフォークと薬を手にして」を読んでみてください。

 これ一冊で、「結婚の極意」が脳の奥まで理解できますよ。

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アコチム

Author:アコチム
仕事・家事・育児の合間に文字を楽しむ、兼業主婦の備忘録です。
本の評価は以下のとおり(2015年10月~)
★★★★★=読むと一生幸せでいられます。
★★★★☆=読むと1年間幸せでいられます。
★★★☆☆=読むと1週間幸せでいられます。
★★☆☆☆=これ以下の本は載せません。

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